第43話 歴史は繰り返す

 俺はミント修道院に匿ってもらっていたが、毎日のように、聖女とテレサと三人で、悪魔狩りに勤しんでいた。その間、クイーンには俺が憑依する人間のうつわを探してもらっていた。


 器探しとレベルアップを手伝ってもらう謝礼として、毎回悪魔から取得したスキルのうち、気に入ったもの二つを聖女とテレサに授与する約束をしていた。


「どれにしよっかなあ。今回取得したのは『化粧』からだよねっ」


 悪魔兵士を浄化した帰りの馬車の中で、聖女が俺のステータスを鑑定しながら、今回入手したスキルを物色していた。


 俺は「偽装」を自由自在に使いこなせるようになっていて、今は全てをオープンにしている。


 スケルトンロード レベル 12788

 魔法:忍術C、死霊C

    マップ、フレア、デス、ホラー、

    イリュージョン、デュアル、チャーム、

    シャドウ、アトム

 技能スキル:無痛、復活、剣技、拳闘、迷彩、

    跳躍、俊足、無音、索敵、集音、

    投擲、解錠、裁縫、刀技、忍術、

    変態、触覚、毒針、複眼、操糸、

    蛍光、営巣、蜜蝋、集蜜、王乳、

    石人、水筒、槍術、算術、算盤、

    計算、記憶、簿記、睡眠、交渉、

    行商、販売、仕入、説得、契約、

    商魂、授与、天使、魔典、予知、

    支配、憑依、使徒、蟲使、魅惑、

    傀儡、変装、流転、霊感、霊視、

    舞踊、演奏、離脱、語学、分裂、

    修復、複製、死霊、掃除、洗濯、

    料理、鑑定、読唇、催眠、書道、

    変身、偽装、化粧、建築、植木、

    脱走、投石、水泳、潜水、節税、

    護衛、警備、御者、乗馬、格納


「よしっ、私はこれにしよう。『脱税』ってやつっ」


「いや、『節税』ですよ、マーガレットさん。聖女が脱税しちゃダメでしょう。あれ? もう授与出来ないみたいです」


「え? 何でかなっ?」


 聖女が首をかしげている。それを見ながらも、テレサも欲しいスキルが決まったようだ。


「私は『脱走』をお願いしたいのですが、私のも無理そうですか?」


「テレサさんにも授与出来ないです。やはりレベルによって追加できるスキルの最大数が決まってるのだと思います。レベルが上がったらまた追加しましょう」


 後で「悪魔事典」をよく読んで、正確な仕組みが分かったのだが、スキルには難度というものがある。例えば、「鑑定」は難度500、「偽装」は難度1000、「格納」は難度1500といった具合だ。


 先天的なスキルを除いたスキルの難度の合計が、レベルよりも小さくないと、スキルは追加できない。聖女もテレサもレベルが3000ちょっとに対して、スキル難度の合計が3000であるため、難度の高いスキルはもう追加できないのだ。


 レベルが大きくならないとスキルを多く取得できないと以前クイーンが言っていたのは、この仕組みのことだった。だが、なぜか俺はレベルに関わらずスキルを取り放題だ。悪魔の始祖三柱にも上限がないらしい。


「そっかぁ。簡単に強くなっては、ありがたみないからねっ」


「そうですわね」


 聖女もテレサもそんなに残念そうでないのは、「鑑定」、「偽装」、「格納」を取得済みだからだ。この三つのスキルは、人間にとっては三種の神器と言ってよく、彼女たちは現状でもう十分に満足なのだ。


 ちなみに、この三つのスキルは、ほとんどの悪魔が持っていて、何度も取り直しており、リズたちにも授与済みだ。なお、「複製」のスキルを持っていることで、難度100以下のスキルを授与しても、スキルが消えないことも分かった。


 リズたちにもスキルの上限ルールは適用されるため、今度会ったときに欲しいスキルの希望を出すようにと伝言してある。


(あいつらもいつかは「分裂」と「修復」を欲しがるのかなあ)


  リズ   従者レベル12788

       心霊C

       レセプト、ハウント、サモン、

       オーラ、スティール、プロキシー、

       プレディクト

       霊感、睡眠、偽装、鑑定、格納

  アリサ  従者レベル12788

       時空C

       ライト、プラズマ、グラビティ、

       メテオ、ストップ、ディメンション、

       ムーブ

       算術、記憶、魔王、偽装、鑑定、

       格納

  サーシャ 従者レベル12788

       治癒C、神聖C、守備C

       キュア、クリーン、デトクス、

       オラクル、ガード、ホーリー、

       パニッシュ

       霊視、隠密、怪力、偽装、鑑定、

       格納


 レベルが12000を超えたことで、リズたちは、騎士のランスロットを抜き、人間ではアネモネに次ぐ二番手となった。


(あいつら、まだ未成年なのにすげえな)


 レベル10000からステータスに魔法レベルが表記されるようになった。「悪魔事典」によれば、魔法レベルは、


 C→B→A→S→SS→SSS→X→XX→XXX→M


となって行くらしい。悪魔の始祖三柱の魔法レベルは「M」だと自慢気に書いてあった。


(アネモネやクイーンですら、まだ発展途上なのか)


「悪魔事典」は魔法についても詳しく記述されていて、どんな魔法を取得するかは、本人の性格、体質、遺伝、スキルなどによるらしい。


 リズが「チャット」の魔法を覚えないのは、リズが控えめで、内向的な性格だからだと思うが、その代わり、「プロキシー」というチームのメンバーのどの魔法も唱えられるというチート魔法を身に着けたのだから、魔法は奥深い。


 もうそろそろ修道院に着きそうだ。馬車を降りる前に、俺は気になっていたことを二人に尋ねた。


「あの、クラウスさんにはスキルはあげなくていいんですかね?」


「骸骨さん、あのアホの名前は出さないでっ」


「そうです。あんなの放っておいていいですから」


 クラウス、さすがに同情するぞ。可哀想に……。


「そういえば、この間、君んところのサーシャちゃんに会っちゃったっ」


「え? いつ、どこでですか!?」


「私、ミントの聖女なのっ」


「いや、それは知ってますが……。ひょっとして、聖女検定にいかれてたんですかっ!?」


「うん、毎年、行っているよ。サーシャちゃん、リッチー二十体を2秒そこそこで浄化しちゃってさっ。いくら何でも、2秒はやり過ぎだなあ。教会は大騒ぎで、教皇まで話が行っちゃって、聖魔女にも報告されたみたいよっ」


 そうか、頑張ったな、サーシャ。


「ボーン様、ロリコン丸出しのニヤけ面はおよしになって」


 言葉は丁寧だが、テレサは酷いことをさらっと言う。


「俺、ロリコンじゃないですよ。サーシャは娘のように可愛がっているだけです。他の二人もです」


「リズちゃんとアリサちゃんも見たよ。話してないけど、二人とも可愛かったよっ」


 俺は三人の顔を思い出した。孤児院で別れて、まだほんの一週間しか経っていないが、随分と前のように思えてしまう。


「子供たちに見張りは付いている感じでしたでしょうか?」


「ついてなかったよ。あの三人はレベルが高いから、そもそも尾行はバレるし、ああ見えて、聖魔女は卑怯なことはしないからね。でも、聖魔女の配下は卑怯者揃いだから気をつけないとねっ」


 アネモネは子供たちには手を出さないだろう。浄化されそうになったが、不思議とアネモネのことは、今でもかなり好きだ。あまり真面目に俺への追っ手を差し向けていないようだが、今頃、何をしているのだろうか。


「そうですか。早く憑依のうつわを見つけないと、子供たちに会えないですね」


「ボーン様が修道院にいらしても怪しまれないように、フランソワ様はうつわは女性で探しておられるそうです」


 俺は憑依出来る人間をクイーンに探してもらっていた。「離脱」のスキルがあるので、骸骨本体は修道院裏の墓地に安置して、今は主にバロン伯爵に憑依しているが、アンデッドへの憑依やイリュージョンだと、俺だとバレる可能性が高い。


「クレアさんのような人がいいな、って思っています」


 しまった。何も考えずに思ったことを言ってしまった。まずい。きれいな女を所望していると思われてしまう。実際、その通りなのだが、聖女とテレサのジト目の視線が痛い。


「この骸骨さん、さっさと浄化しちゃおっ」


「そうですわ。それか、聖魔女に引き渡しましょう。聖魔女への私たちの信用度も上がりますわ」


「すいませんでした……。どんな人でもいいです。連れてきてくれた人に憑依します」


 その後、修道院に着くまで、子供たちのためにも、女性に対するサイテーな態度を改めるべきだと、散々二人から説教された。


(そういえば、前世でも派遣社員を容姿で選んでたら、部下の女性社員から「サイテーですね」って言われたっけ……。歴史は繰り返す、ってか)

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