願いと願望2




その後、解散し自由にするつもりだったんだけど。

アリューが「教えることがあるんだ」と言って私とデルとエヴィリーナを連れて部屋に入った。



「ここは?」

「僕の魔法で空間を作る。ここなら、全力をだしても大丈夫」

アリューがそう言うと空間が歪む。

「これは……」


「ここなら、僕が卍天魔法を使っても大丈夫そうだからね」

「卍天、なにそれ」

疑問に思ったエヴィリーナがそう尋ねる。

卍天魔法、私も前に一度アリューに聞いた事があるけど具体的にどんなものなのか知らない。

「卍天魔法、魔法においての最高峰とも呼べる技術だよ。マナの核を使い形成する魔法」


「で、それはどうゆう力なんだよ」

「ん~せっかちだね。まあ、見た方が速いかな。じゃあデル、君が言いだしっぺだし、結界魔法を使ってみてよ」

「ん、ああ、分かったよ」


そう言って手を前に出しそこから円形にデルの身を守る結界ができる。

と言うか、私と戦った時は使えてなかったのに、いつの間に。

「なんだよ、大将。目から鱗か?」

そういえばデルは最近から私の事を大将と呼んでいる。

「そう、かも」

なんとなくデルの問いに曖昧な返答で返す。

「……なんだよそれ。してんのかしてないのか分かりずれえな」


「ん~僕もそろそろいいかな」

アリューがそんなことを言いだす。

「ああどうぞ」

「うん、じゃあいくよ」

そう言ってアリューの手のひらには黒い球体が出来上がる。


「なに?それ。マナの弾?」

「その通りだよ。これはただのマナの弾。でもマナの核を使って作ったマナの弾」

「まあ、見てて。危険は無いから。それじゃデル、行くよ」

アリューがデルに向かってそれを飛ばす。

でも遅く、ふらふらと飛んでいく。


「なんだそりゃ、遅すぎだろ」

でもデルの結界に近づくと異変は、起きた。

「は?」

結界が無くなる、どんどんと。まるで吸い取られるように。

「デル、自分で解いてる訳じゃ」


「あるわけねえだろ」

そのままアリューの放った球はデルの目の前まで行きそして消えた。

「今のが、マナを吸う。卍天魔法。これを使えば他の魔法と相殺することも、結界魔法に阻まれることも無くなる」

「えっと、つまり?」

「この魔法を防ぐ手段は無い、よ」

アリューはそう言った。

「まじかよ」

「まじもまじ」

デルは呆然としていた。


「アリュー、それって私にも使えるの?」

「どうだろうね、使えて欲しいんだけど。教えられるものじゃないからね」

「これがあるって事だけ知ってたら。使えるようになるかも?」


「アリュー、本当にそれを防ぐ手段は無いの?」

アリューの言い方に少し違和感を感じた私はそう聞く。

「ん~有るにはあるんだけど元も子もない事だよ」


「つまり卍天魔法は卍天魔法でしか防げない。って事?」

「やっぱり察しが良いね~その通りだよ」


「そう、だとしたら結界魔法にも使えるんだね」

「試してって事?かな」

「うん、お願い」

「いいよ」


アリューがそう言うと現れたのは、薄黒い結界魔法。

「デル、エヴィ、シータ。三人の今使える、最強の魔法を使ってきな」

「大丈夫だよね」

「僕は大丈夫。これぐらいなら余裕だよ」

アリューはそう言う。


「なら、遠慮はいらないな」

デルはそう言い、エヴィリーナは黙ったまま準備をしている。

「私のは魔術だぜ【砕銃】かいじゅう

「大丈夫だよ」

デルが恐らく【閣屋】から武器を取り出す。

(スナイパーライフル!?)

【鴉々】からすがらす

次の魔法はエヴィリーナのだ。黒い風のようなものが現れそれが形を成していく。


四重詠唱

「【九天衝落:黒天】」

私の頭上に巨大な漆黒の槍のような物が浮く。


「はっ、大将。あんたも十分バケモンだ」「え、ええ。なにこれ、こんなの」


二人とも驚いているようだ。これをアリューに……

でもアリューなら大丈夫。絶対に。


「じゃ、どうぞ」

その言葉と同時に私とデルとエヴィリーナが魔法を放つ。

デルは魔法と言うより銃弾だけど。



そして結果は、無傷だった。

デルの弾丸ははじかれて、私とエヴィリーナの魔法は結界に当たる前に魔法が消えていく。

まるで吸収されているかのように。


「で、どうだい。これで満足かい?」

「うん、ありがとう」

「なら、早速教えてくれよ。その卍天魔法をよ」


「ん~さっきも言ったけど。教えられるものじゃないんだ。自分で感覚を掴むしかなくて」

「それにマナの扱い方の時のようにズルもできなくてね」

「だからどうにか自分でマナの核を見つけれるようになって欲しいんだ」


「そのさっきから言ってるマナの核って何なの?」


「マナの核って言うのは、自然に生成されるマナの器と発生器でね」

「まあ、僕たち生物もマナの器と発生器ではあるんだけど……」


その話を聞いた限りマナの核と言うのはマナの生成と貯蓄を行うものらしい。

でマナが無い時マナの核は特別に他からマナを吸収する性質があるらしくそれを使う事で先ほどのような芸当ができるのだとか。

しかもその時自然にあるマナ以外は全てはじくそうで、アリューはその特性を利用したと言った。



「でも何で私達三人だけに教えたの?他のみんなにも」

「ん~君達三人は突出した才能があるんだけど。それでも正直言ってこれは覚えられるかどうか分からなくてね」

「それなのに他の子たちに言っても、無駄にハードルを上げるだけになるんじゃないかなって思ってね」

「そう、なんだ」


「シータ、君は使えるようにならなくちゃ駄目だよ?」

「うん。分かってる」

「シータはどうやって、その卍天魔法に覚えるつもりなの?」


「それはこれから考えるよ、でも考えてどうにかなるものだったら僕も嬉しかったんだけどね」

アリューは苦笑いしてそう言う。


「それじゃ。僕が伝えたい事はこれで終わり、かな」

「そっ、ありがとアリュー」

私はアリューに向けてそう礼を言う。

すると、アリューは少し嬉しそうな表情をしていた。



その後、アリューが作った空間は消滅しその瞬間、私とエヴィリーナとデルはそれぞれ自分の部屋に送られた。

「……アリュー、卍天魔法、本当に習得できるかな」

「まあ、でもシータなら大丈夫でしょ。元から才能もあるみたいだしさ」

「うん。そうなんだけど、不安で」

「ふーん。あ~そう言えば今日面白いこと聞いたんだけど聞きたい?」

そうして私はその日、アリューに色々な事を教えてもらった。

でも眠くなって途中で寝てしまった。


「寝ちゃったか、まあ7つだもんね。お休み」

そう呟いたアリューは私の頭を撫でていた。





それから何日が経った。

特に何事も無いが、そろそろ決めることが多くなる。

それは獣人達の役職だ、最初は全員情報収集に行ってもらおうとも思ったがそもそもに効率も悪いだろうし、全員に転身魔法と安全の為に転移魔法を覚えてもらうのも面倒だし。そして何よりフェンリルを食らうメリットがあまりなくなった。


力を得るならアリューの言う通り魔術の覚醒や卍天魔法を覚えた方が良い。そして問題なのが食料問題、今までは備蓄で何とかしていたけどそろそろ限界が見えてくる。そして一番の問題が獣人達が人間から買った食料を嫌がる所だ、気持ちは分かるんだけど……

はあ、自給自足にしよう。幸いにもノア達の村に場所はあるし、 畑を作れば自給自足もできる。後は、家畜とかもいつか欲しい。



そう考え事をしている時、扉が叩かれる。

「シータ様、イーライと」

「ルウよ」

「少しお時間よろしいですか」

「うん、大丈夫」

ルウが扉を開けるとイーライは跪いていた。


「とりあえず、どうしたの」

「「目的を話にきました(きたのよ)」」

……前に言った話、まとめてきたのかな。

「話して良いよ」


「我々獣人が望む事、それは獣人の地位復権です。今の獣人は人間の家畜です、奴隷です。そんな現状を変える。どうか、力を貸してください、獣人共々からの最初で最後の望みです」

「なるほど、でルウはエルフ達全員の意見なの?」


「そうよ。でも内容はイーライとほとんど同じ。このエルフが好き勝手に殺される現状がいやなの。

 人間はそれを何とも思ってない、私達は人間の地位を引きずり落としてでもそうしたい」


……高い目標だ、でもああ言ったのは私でイーライ達もルウ達も私を頼ってくれてる。

「それで、私は何をすればいい」

「……シータ様の目的を叶えて、勇者を殺して下さい」


……なんで?

「ごめん、私は無知なんだ。だから教えてくれない?」


「この世界のパワーバランスは勇者によって支えられています。もしそれが無くなる、崩れる事があれば。抑止力が無くなり。戦争が起きるでしょう人間対獣人とエルフによる戦争が」

「まるで500年前に起きた戦争、三決戦の再来です」


「三決戦?」

「ご存じありませんか?」

「うん、初めて聞いた」


「三決戦、それは500年前、人間対エルフ対獣人による三つ巴の戦争です。最初こそ三つ巴でしたがエルフが優勢になると獣人はエルフと手を組みました。

その戦争はエルフと獣人の圧勝、そのまま終戦を迎える筈でした」


「でも勇者の生誕で、戦況は一変しました。勇者はエルフと獣人を駆逐しその戦争を人間の勝ちに終わらせました」


「これが三決戦です」

「その戦争を起こしたいの?」


「はい、その戦争に勝ち獣人の地位を復権。それが私達獣人の願いです」

「なる、ほど」


結局は私の目的の延長線上、それどころか私が目的を叶えれば確実に起こる未来。

断る理由も意味も無い、なら

「分かった、獣人達の願いは私が叶える。で、願いはルウ達も同じ?」

「同じなの、この願いが叶えばエルフの地位が上がる。そうすれば私達みたいな悲劇は起きなくて済むの」


「……それが目的なら、言葉通り叶えてみせる」

まず勇者を殺す、随分と大きな一歩だ。

でもこれで失敗は許されなくなった。


「ありがとうございます」

「ありがとうなのよ」

二人はそう言うと私に対して深く頭を下げた。

私も、この獣人達の願いの為にも勇者を必ず殺すと強く誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る