二人の精霊


私は刺さっている剣を抜き、結界魔法で腕を固定し回復魔法をかける。

(右腕は暫く動かせないな)

「はぁ、これが最後だぞ」

複数詠唱 四重詠唱

【九天衝落:黒天】【天垂:黒】【孤高の天:黒】【罰天:黒】

クエンの周り全方向から魔法陣が展開しそこから一斉に光線が放たれる。

天からの光線が降り注ぐ。黒の槍はクエンの体を穿つ。

そして四方からの攻撃は止むことは無い。

光線は、まるでクエンを包み込むように降り注ぎ続ける。

そんな光景を見届けながら私は思う。

(目は光っていなかったという事は【現実改変】は使えない。ならあの光線を躱す術はない)



私の方も限界がきたのか血涙が流れ吐血する。

(流石に、無茶しすぎた……頭が働かない。体が、重い……)

ここまでの魔法の同時発動は私の体への負担が大きすぎた。

意識が朦朧として倒れてしまう。





光線が止み、出てきたのは少し傷のついたクエンだ。

だが少し様子が違うようで肌は紫色に羽は黒く変色している。

「【有頂天】の100%使用【有頂天外】これ嫌いなのよね。冷静になっちゃうし」

「でも、楽しかったわ」

そう言ってシータに近づいて行く。

「これで終わりにしましょう」

そう言ってクエンがシータに向かって剣を構える。そして振りかぶった瞬間、剣が弾かれる。

「その子から離れろ」

そう月面を背景に、子供が言う。



「あら、あらあらあらあら!最高ね!」

その子供はアリューだ。

アリューはシータ転移させ、この場から逃がす。

「ラプラス……随分惨めだね」

アリューは冷たく言う。

這いつくばりながら様子を見ていたラプラスはアリューを見てただ、絶望する。

「アリュー、どうやって……」

クエンが恍惚の表情でアリューを見る。



「化け物ね……本当に期待以上よ!」

そして剣を構えて言う。

「さぁ、最高に楽しみましょう」

そんなクエンを見てアリューは呟く。

「僕は今楽しむ気分じゃないし。君の事も興味は無い」

「【雪辱】」

その言葉と共に、クエンの体は切り刻まれる。

「硬いな」

そう言ってアリューは刀に付いた血を掃う。

「がっ!ぁぁ、たまんないわぁ!何これ!こんなの初めて!」

そう言ってクエンはアリューに剣を振るう。だがアリューはそれを難なく躱す。

(シータの記憶を見て戦い方は分かった。後は対処するだけだ)



「【返上】」

クエンの体落ちるように宙に浮いて行く。

「もう一生君が地面を踏みしめる事は無い、永遠に浮いていけ」

だがクエンは動く。

【現実改変】で【返上】は無かった事になりそのまま駆ける。

「残念ね」

そしてクエンはアリューに剣を振るう。

「うざいね」

それを結界魔法で防ぎ切り一度距離を取った。

「もう、本気で行くよ」

「あら、私も本気よ?」

そう言ってアリューはマナを集める。



「【滅望】」

小さな黒い光のような物がクエンに向かう。

だがクエンは剣で防ぐ。するとクエンの剣は砕けボロボロになる。

「後これだけあるけど……何処まで耐えられる?」

そう言って夥しい数の黒い光の粒をクエンに見せる。

「【有頂天外】」

そうクエンが呟くとクエンの肌は紫色に翼は黒色に変わる。



「もちろん、全部よ」

そう言ってクエンは剣を構える。

するといきなりアリューの目の前に現れる。

咄嗟に結界魔法で防ぐが少し遅かったようだ。反応が少し遅れる。

それをクエンは見逃さない。先ほどとは比べ物にならない速さでアリューに剣を振るう。



「僕さ、少し前の一件で一つ思いついたんだよ」

「あら、何かしら?」

そう言うとクエンは剣をアリューの心臓に向かって突き出す。

アリューはそれを躱しながら言う。

「時間停止、あれは僕でもできるんじゃないかって」

「時間減速の補助魔法はこの世界にある。何度も何度も何度も重ね掛けするんだよ」

「マナの密度には限界があるわよ?」

心底不思議そうな顔でアリューに向かって剣戟を繰り返す。



「だから数秒なんだよ」

アリューがそう呟くと、アリューの姿が消える。

それと同時に空に巨大な魔法陣が現れる。

「それほんと?」

クエンはただただ驚いた。

そんなクエンを置き去りにして魔法陣から射出される白い光で空間が作られる。

「半径100m大規模補助魔法」

【減葬死域】ゲンソウシイキ

その言葉と共に空間の中の時が数秒止まる。

クエンは何かを叫びながら、剣を振り下ろす。だがその剣はアリューを斬る事は無い。

(本当に……あなたは)

時の止まった世界でアリューがクエンに歩み寄っていく。

黒い光の粒をクエンにぶつけていく。



クエンの体は黒い光に当たる度に崩れていく。

クエンは何も出来ず息の根が止まろうかと言うとき。口が動く。

「また会いましょう」

そう言って消え去って行った。


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