武人アストラレアス

「じゃあ、そろそろ行こうか」

そう僕は武人に声をかける。


「そうだな、永遠の命が待っておる」

武人もそう答え、僕達は歩き始めた。



「残念ながら、お前たちの命運は今尽きた」



その声は冷たい声であり慈悲を感じられるような、そんな声だった。

その声の先に居るのは、ここに来るはずのない『勇者』だった。



「……どうして、ここが分かったのかな?あの暗号の魔法を一日かけずに解いた、とは答えて欲しくないね」

僕は勇者にそう質問する。


「ああ、そうだ。さあ命を差し出せ」

「はあ、馬鹿な君にそんなことが出来る訳ないじゃないか」


そう僕は勇者を嘲笑う、だが勇者は笑みを崩さない。それどころか自信に満ちた顔で笑っていた。


「君一人でどうする気だい、僕達に傷一つつけれないのに」

「確かに、だから私は助けを呼んだんだ」

そう勇者が呟いた瞬間。勇者の後ろから二人の人物が現れる。


「初めましてぇぇ!そしてさよならこの世にバイバイ!」

そう言って現れたのは女だった。その女……いや少女と形容した方がいいだろうか。野性味あふれるその少女は、両手には不釣り合いなほどの巨大な青竜刀を持っていた。


「おいおいメラニア。初めましてならまず挨拶だろうよ」

「俺は魔法騎士団団長ディーン。まあ冥途の見上げに覚えてくんな」

ディーンはそう言いながら不敵に笑う。


「同じく魔法騎士団副団長メラニア、死ぬまえに驕ろうぜぇ!」


「ああ、自己紹介ご苦労様」

僕はそう軽口を叩きながら二人を見る。


ディーンのその身にまとうマナは人の中でも上澄み事は分かる、メラニアの持っている武器は何かがおかしい。存在感が無い、あれだけ巨大な武器なのに意識しないとすぐ忘れそうになる。


(不吉だ……あれは)

「オリジナル、付き合う必要は無い。逃げるが勝ちよ」

「そうだね」

僕はそう言って【転移】を発動……できなかった。


「【空間遮断】」

勇者がそう呟いた瞬間、障壁がこの辺り一帯を包んだ。

それは【転移】を防ぐ障壁の補助魔法、ここまで広大な範囲で発動するのは流石勇者と言うべきか。


「一つ聞いていいかな?」

僕は勇者にそう質問する。

「なんだ?」


「契約は破られていない、どうやって抜け穴を見つけた」

勇者は僕の質問に対し、待ってましたと言わんばかりに口元を歪ませる。

「それは簡単な話だ、私から伝えなければ契約は破られない」

「……」


伝えて無ければどうして契約を……

「つまりぃ!私達が察したって事だよぉ!」


そう言った瞬間、メラニアの青竜刀が迫る。

僕はそれを躱し剣を抜く。だがディーンもこちらに向かってきている。


「武人、そっちを頼むよ」

「全く、人使いが荒すぎんかのぉ!」

武人はディーンに向かって行く。


そして、僕はメラニアと対峙した。

「おいおいおいおいおいおいぃ!その剣、どこかで見たことあるかと思ったら【蒼剣ソデモダ】か?」


「いや、複製品さ」

「はっ!確かに、劣化コピーだがよぉ。それでも、あの馬鹿の剣だろぉ!」


そう叫びメラニアは僕に向かって、その巨大な青竜刀を振るってくる。

僕はその攻撃を剣で防ぐ、そして押し返す。


「重いね」

「そりゃあどうもぉ!」


僕の反撃を物ともせずメラニアは連撃を繰り返す。

連撃を受け流しながら僕は隙を伺う。だが隙など微塵も無く、僕は攻撃を受け続ける事しか出来なかった。


「余所見はいけねぇなぁ!」

「うるさい」


僕はメラニアの連撃を剣で弾き飛ばす。そのまま僕は後ろに飛び退きメラニアから距離を取る。


【蒼剣ソデモダ】の蒼い斬撃で牽制しながら、メラニアの青竜刀を警戒する。


武人も先の戦いで消耗している、ディーンに勝てたとしてもメラニアには?無理かな。


仕様がない、あの手を使おうか。

僕はそんな事を考えながら、メラニアは僕に肉薄する。

青竜刀は何処に?メラニアの手に持っているはずの青竜刀はそこには無かった。


だが持っているような姿勢で振りかぶっていた。そして僕に当たる瞬間それはメラニアの手の中に現れた。

「なっ!」


僕はそれに驚き、反応が遅れてしまう。その隙をつき青竜刀は僕の肩を切り裂いた。僕は切られた傷は【蒼剣ソデモダ】の自動回復がある。だがすぐに追撃が来るため休む暇もない。


【空間遮断】の中ではありとあらゆる瞬間移動系の魔法、魔術は使えない。例え武器の力であろうと。

つまり、先の攻撃は実際に手の中に無かったのではない、あったのに認識出来なかっただけ。


(クソ、今度はしっかりと見ないと)

「はいはいはいぃ!、次々いくぞぉ!」


メラニアが迫る、また青竜刀は見えない。

反応しきれない【転移】が使えれば、いやたらればは止そう。

武人の助けを待つか?だが彼もディーンに手間取っている。


青竜刀は僕の腹に深く突き刺さっていた。

「くっ……ああ!」

「まだまだぁ!」


メラニアはそう言うと青竜刀を抜き取り、振りかぶる。

見えないながらも軌道を読み、僕はそれに合わせ剣を振るった。


「あめぇ」


振るった剣は空を切る。タイミングをずらされた。ああ、不味い。

メラニアは青竜刀を振るった、右腕が飛ぶ。

これはまずっ。そう思った瞬間、僕の視界は鮮血で満たされた。



「オリジナル!」


青竜刀で胴を切り裂かれたオリジナルを見て、武人はそう叫んだ。

「余所見してる暇あると思わんことやな【黒矢】!」

ディーンは武人に黒い矢を放つ。

ディーンが使う魔法は闇魔法、光魔法と対をなす使い手の少ない希少な魔法である。武人はそれを躱し、ディーンに距離を詰めようとするがディーンの牽制射撃で近づけない。


「まさか、一日に二度も極地の祝眼を使う事になるとはの!」

武人はそう呟くと、その眼に赤き光が宿る

「【極地の祝眼】」


そう言った瞬間、ディーンは口元を歪ませる。

「嘘やろ、マジでもっとる奴。あの馬鹿以外におったんか」

ディーンはそう言ってさらに魔法を放つ。それは闇の刃が広範囲に襲う魔法だった。


【空間遮断】は全ての瞬間移動を封じる、だが例外はある。

それが【現実改変】なのだ。

【現実改変】で武人はディーンの前に現れる。


ディーンは咄嗟に反応し、武人の攻撃を躱す。だがそれはディーンにとって悪手だった。武人は直ぐにもう一撃をディーンに放つ。


【我武者羅】ガムシャラ

繰り出される七の連撃は当たった個所からディーンの肉を抉り骨を砕く。

「ぐ、う」


ディーンは血を吐きながら後ろに下がる。さらに追撃をしようとする武人をメラニアが止める。


「おいおい、私を忘れんなぁ」

メラニアはそう言うと武人に向かい青竜刀を振り放つ。武人は咄嗟に【現実改変】を使用。その蹴りは空を切る。


「忘れてはおらんよ」

【我楽多】ガラクタ

その掌底は深々とメラニアの腹に突き刺さった。


「か、は」

メラニアは血を吐き膝をつく。それを見たディーンは顔を歪めた。

「【黒矢】」


武人に向かい黒い矢が迫る。だが武人はそれを紙一重で躱した。

ディーンは先の攻撃で致命傷とはいかずともかなりのダメージを負っていた。そのはずなのにもう既に回復を済ましている。


武人は考え恐らく勇者が回復魔法を使っていると考えた。

「全く、そらないじゃろ」


(【現実改変】は一分のクールタイム中。勇者を含めずとも二対一それに加え回復されようものなら勝ち筋が少なくなる)


まずは、メラニアを殺し一対一に持ち込むのが先決だと武人は考え、メラニアに止めを刺そうとする。

「忘れねぇ方が良いぞぉ、今は逆じゃねえからなぁ!」


は?武人はディーンの言葉に疑問を浮かべるがすぐにその答えは出る。

意識外からの青竜刀の斬撃、武人は咄嗟にブレーキをかけるそれと同時、極地の祝眼の能力の一つ時間減速を自分に使い。

何とか躱す。(くっそ、忘れ取った)


武人は内心で悪態をつきながらもメラニアの一撃を躱した。今なら止めを刺せる、そう確信する。

だが、勇者はそれの邪魔をした。止めを刺そうと言うとき結界魔法でその攻撃は止められた。


「かっったいのう!」

武人は思わず叫んだ。


「さて、どうしたもんか」

武人はそう呟くと思考する。


(どうする?メラニアは無理じゃな、結界がとかれるまでは)


武人はチラリとディーンを見る。その隙をついて勇者は結界を解きメラニアは青竜刀を振るうが武人はそれを躱す。


(今の状態じゃどうやっても勝てんわの)

武人は内心舌打ちをしながら回し蹴りをメラニアに叩き込む、メラニアは勇者の所まで転がりながらも何とか体勢を立て直し、武人と距離を取る。


「余所見はいかんて」


ディーンはそう言って【黒矢】を放つ、それを躱しながら武人は考える。

(どうしようともこいつらには勝てん、逃げることも出来ん……詰みかの)


武人はそう考えた。


(今の今までこれほどまでに『死』を感じたことがあったかの)

飛んでくる【黒矢】を躱しながら一歩一歩と歩み始める。


(逃げることは出来ん、なら勝つしか無いんじゃ)

一歩また一歩と勇者に近づいて行く。


(濁りを無くせ、ただ集中しろ。武神になろう、今ここで)

そう決意を固め、武人は残り3分30秒の【完全集中】を使用した。

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