憎悪増す複製品の意
「やあ、武人。生きてて何よりだ」
「お前さんに不老を教わるまで、儂は死なん」
そう軽口を叩きながら僕達は合流する。あの閉じ込められた瞬間【追憶】を使い脱出したんだろう。
そしては僕は武人の状態を確認した。まあ、大した傷はなさそうだ。
「で、どうだった。あのフェンリル」
「そうじゃな、端的に一番恐ろしい所はマナの総量よ。底が全く見えん」
「だがそれを自分で分かっておらん見たいじゃ」
「だから儂は少し長く戦えた、避けられん大技三発うちこまれりゃもっと速く逃げ取った」
「それに、【現実改変】のルールにも気づいておったかもしれん」
「十五秒以内の縛りかい?」
「そうじゃな、【お釈迦様】の空間の外にあの壁を作っておったんじゃろうな」
「儂に気をそらすために無茶なインファイトを挑んできたのもそのせい、じゃな」
そう言ってヒョイと寝そべった状態から立ち上がった。
「よくあの一瞬でそれが分かるね、流石だよ」
「儂も久しぶりに滾ったよ、あのままやっておればもしかしたらなれたのかもしれんな武神に」
「なんだ、またその話かい?」
武神とは、武を極めた人間が濁りを澄むことでなれる、らしい。
「ずっと、その扉は見えておる。だがびくともせん、まあ不老を手に入れれば時間の問題よ」
「そう」
そう話をしていると武人は「そういえば」と声を上げた。
「いいのか、置いてきた奴らは」
「ああ、大丈夫だよ。今回で処分する気だったから」
「楽園を信じながら死んだんだし。まあ悔いなく逝けたでしょ」
嘲笑を含みながら僕はそう言った。
「……とことん軽薄、お前に心があるとは到底思えんわ」
「だが、大丈夫なのか?№2は生きておる。もし一人で楽園を始められたら」
「大丈夫。あの子馬鹿だから一人じゃ装置の起動もできないよ、ねえ№2」
そう名前を呼ぶ、武人の後ろに居る№2は酷く動揺しているようだった。
きっと今ここに来たんだろう、装置を起動させるために僕を呼ぼうとして。
「……嘘、嘘だよねオリジナル。皆、皆……捨て駒でマスターの願いを叶える気は最初から」
「ないよ」
まるでさも当然のようにそう答える。
「僕の目的は楽園の創造じゃない、真の目的は」
「勇者を殺す事だから」
そう言って僕は笑った。
「……お、オリジナル……」
No2は青ざめた表情で僕を震える指で指さす。
「あの時、500年前。マスターが死んだのは、いや殺されたのは」
「そうだよ、僕が殺した。欲しい物は殺してでもね」
その告白で№2はさらに動揺する。
「う、あああああああ」
そう叫び声をあげ№2は走り出した。
「いいのか、追いかけなくても」
「ああ、できる事なんてないだろうからね」
僕はそう言ってまた笑った。
★
『どうして』が頭の中でこだまする。
信じていた、家族だった。奴はそう思っていなかった。
私の居場所を教えてくれたマスターは、奴に殺された。
『どうして』とそんな疑問ばかりが浮かんでくる。
「はあ、はあ……」
No2は走る、目的地もないがただ走らないといけない気がした。
そんな時足が縺れ地面に転んでしまう。擦り剝けた傷の痛みなど今のNo2にはどうでも良かった。
「あぅ」
涙がボロボロと頬を伝う。それを拭う事もせずNo2は……何もしなかった。
何もできない、何も変えられない。
なら、もう動く意味など無いと。No2はそう思ったからだ。
『どうして』という思いだけが胸の中で渦巻くがそれを声に出すことも億劫でただ蹲る。
ただ、それでも感情は死なない、怒りが憎悪が私を襲った。
ふざけるなふざけるなふざけるな。
「オリジナル……」
No2は怒りで震える手を地面に叩きつけた。
№1は少しやんちゃだったけど優しかった。
ユニバース達だって、こんな扱いをされていいはずがない。
クローンだろうと、ホムンクルスだろうと生まれた命だ。
馬鹿にするな、愚弄するな。
「殺す、絶対に……オリジナルを」
その目には強い憎悪が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます