来る勇者

「君は何をした?アリュー・ジルベス」

 状況が変わりオリジナルは目に見えて焦りの表情を見せる。

「いや、僕が答える必要もないよね」


 あの時僕はシータの感情を少しいじった。

 でも少しなはずなのにここまでという事はもとより君はやる気だったのかな。

 まあ、このまま殺しちゃえ。君ならできる。


「じゃあ、僕達もそろそろ終わらせようか」


「どうやって?」


「審判 指針 恩情無し 結果は断罪」


 詠唱魔法

「【苦楽の末】」


 僕の背後に大きな門が現れる、その門の中には大量の刃が敷き詰められている。

 その刃はオリジナル目掛けて発射される。そして大量の【玉】が消費された。

 門の刃が元の数に戻る、それはもう一度発射されることを意味する。


「その数で足りるかな?」


「……全く化け物め」


 ★


 武人は極地の祝眼の能力の一つ、完全集中を使用した。

 完全集中は人によって効果が異なる。それは人により集中力が違うからという当然の事だからだ。

 よって基本極地の祝眼を持っていようとも完全集中が奥の手になる事は少ない、

 だが武人が完全集中を使う場合他のものとは違う事が起きる。


 それは自分の未来の軌跡が見える、実質的な未来予知。

 そして完全集中使用した武人はゆっくりとシータに近づいて行く。

 その異様な雰囲気に気が付いたのか、シータが身構えた。


 ★


(奥の手……何か変わった様子は無い。はったりか?)


 私は即座に直感でその考えを否定した。武人の纏う空気感が明らかに変わったからだ。

 それはまるで獲物を狙う獰猛な獣のようで。


「!」


 すると急に動き出し私の目の前まで移動する。

 そして右手が動く、腹、肩、首と狙いすまして攻撃が放たれる。


「ッ!」


 結界魔法も私が取った防御も攻撃も全て現実改変によって無かった事にされ、その攻撃に当たる。

 右肩は外れる程の衝撃を腹と首は肉が抉れている。

 更に追撃とばかりに武人が私に肉薄し腹部に拳が突き刺さった。

 私は大きく吹き飛ばされ地面を転がる。


 転がっている最中に吐血した血を拭い、回復魔法を自分にかける。

(完全集中を使った武人の攻撃……見えなかった。いや、見えたけど行動が追い付かない)

「やっぱり、こうでなきゃ」


 そう呟き次の手を考える。【線天】や【罰天】みたいな魔法は躱されるうえにマナの無駄。

 かと言って広範囲の魔法は現実改変で巻き戻されるうえに使用マナは戻らない。

 私にマナがまだどれだけ有るかは分からないけどとにかく無駄遣いはしない方が良い。

 なら、乗ってやるよ、接近戦インファイト


 狂気にも見えるような笑みを浮かべながらシータは悪手とも思えるような行動に出た。


 ★


 武人の攻撃を結界魔法で防ぎ、その隙に私は武人の腹部に蹴りを入れる。

 だがそれは当然のように躱される、そして躱した瞬間に魔法で追撃を入れる。

 だがそれは体をねじり避けられる。

 その回転した勢いで上段の廻し蹴りというカウンターを合わせられ結界を貫通しガードした右腕に強烈な一撃をもらう。


「くッ」


 右腕が痺れる、だがまだ動く。魔法で距離を取りながら回復魔法をかける。

(この状態は不味い。現実改変と武人の奥の手のせいで攻撃が全くと言っていいほど通らない)

 更に武人の攻撃は止む様子を見せない、武人が一歩踏み出すごとに一歩後ろに下がるという形が続いている。


 四重の結界も奥の手を使われた武人には意味を成さない。

 接近戦は行うだけこちらを不利にする、【天球の乙女】も全く当たっていない。

 だが接近戦は続ける。武人、覚悟しろ詰みってやつを見せてやる。

 

 ★


 武人は私のガードの上から【我楽多】を打ち込む。

 そのまま追撃の蹴りを入れられ更に浮き上がり地面に叩きつけられる。

 その直前【転移】を使い、武人の目の前に転移する。


【韋駄天】いだてん


 私の目の前に三角形の魔法陣が出来上がる。

 それはカウンターの魔法。武人の攻撃に反応し爆発、光線を飛ばす。

 武人が瞬時に後ろに下がり残りの光線も避ける。

 そこに【罰天】と【先天】を使い追撃する。


 だが武人はあまりにも滑らかに、見とれるようなその美しい動きで魔法を全て躱し距離を詰めた。

「【我俊】」


 武人の攻撃が当たる前に【転移】を発動し武人の後ろに転移する。

 私はそのまま背後から光の刃を飛ばす。完全にヒットしたそう思った。だがそれは違った。

 武人が消える。


(ッ!ま た現実改変か!)


「儂の勝ちじゃ狼」

【我武者羅】ガムシャラ


 武人は私の後ろにいた、そして攻撃が当たる。

 瞬時に繰り出される七の連撃


 吐血、それと同時に大量のと血液を吐き出した。

 それだけではない攻撃を受けた所は抉れる、削り取られたように。

 武人も流石に限界なのか息が上がっているように見える。

 延命の回復魔法をかけながら私は立ち上がる。


「武人アストラレアス。満足した、これで終わりだ。感謝を述べよう」


 手を広げ武人に言葉を伝える。


「儂もじゃ、楽しい時間じゃったぞ狼」

 そう武人は満足そうな顔で言った。

 ああ、今ようやく準備が終わったよ、お前を殺す準備が。


「【閉天】」


 そう呟いた瞬間光の壁が全方位から急速に迫りくる。

 逃げ場はないつまり。


「【現実改変】」

 武人は現実改変を使い壁の外へ転移した。


「私も楽しかった、ありがとう」


「【閉天】」

 武人の顔がみるみる悪くなる。

 それも当然、もう現実改変は使えない。

 そう呟くと壁は武人を閉じ込める、そこに待機させていた槍を打ち込む。


「【天槍】」

 そして武人は跡形も無く消えた。

(……終わった)

 武人を撃破するのと同時にシータは地面に膝をついた。

「シータはよくやったね」

「さあオリジナル。これで君の負けだ、さっさと死んで貰うよ」

「確かに、これで僕の勝ちは無くなったみたいだ」

「だけど、負けはまだだ」

 オリジナルはそう言って自分の胸に手を置き魔法を発動した。

「【転移】」

 オリジナルはそう呟いた。

「させないよ」


 そう呟き転移や瞬間移動を防ぐ妨害魔法【空間遮断】を発動させる。

 だがそれは発動しなかった。(……小細工を)


 魔法は発動しなかった、なのにオリジナルはまだ【転移】していない。


「一つね、話がしたくてさ。僕の望みは楽園を作る事なんかじゃない。僕の望みはこの子と一緒さ」

「勇者を殺す事、だから最後に一つあの子に教えてあげてくれ」


「何を?」


「君の父親は生きている、……その名は金狼。力を得たいのなら喰らうといい。とね」


 オリジナルはそう言って消えた。

 消えると同時空間が消え元の場所に戻ってくる。

 それは僕だけではなく他の皆も同じだった。


 だがそんな事は二の次だ、倒れているいシータに急いで回復魔法をかける。

 傷は深いがひとまず命の心配は無いと確認したところで。

 皆が声を上げる。


「アリュー、大将は大丈夫かよ」


「ひとまず安静にしていればね、……急ぐよ、速く!」


 やばい、まずい奴がこっちに来ている。

 隠そうと思えば隠せるだろうに威圧なのかな、目的は分からないがここに来ている『勇者』が。

 僕は急いで【転移】で皆を拠点に転移した。


 転移してすぐ辺り一帯を覆いつくすほどの【空間遮断】が展開された。


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