棘の生えた雑草
転移した場所は普通の平原。だが近くには森がある。
「アリュー、この辺りなんだよね」
「まあ、そう焦らずに。まずは挨拶でもね」
四角形に地表が割れる。それが持ち上がる。
その下には人工物らしきものと何百ものユニバースたちがいた。
「随分な侵入だな。……歓迎はしないぜ」
その中の一人がアリューにそう言う。
「それは残念だな、紅茶の一杯でも出してくれればいいのによ」
デルがそう言うと返すのは独特な雰囲気を放つオリジナルだ。
「紅茶は出せないし、見下されるのは気分が良くないね【お釈迦様】」
オリジナルが取り出したのは黒色の球体その球体は広がり一瞬で私達を飲み込む。
「全員、集まって」
アリューのその指示に従い全員が集まる。
でも急に辺りに誰もいなくなる、焦ってはいけないこれはきっと相手の魔法。
そして黒が晴れるそこには私が一人と相手にはオリジナルが居た。
「やあ、久しぶりでもないね」
「さっきのは?」
「魔道具
「そう、私を一人にしたのは殺すため?」
「嫌、違うかな。どちらかと言うと君を知りたいからかな」
「どういう!」
「例えば君が昔の事をどれくらい覚えているか、とかね」
「お前は何を言って……」
「君は母親が殺されたあの日以前の自分の記憶が一切ないんだろう、何をしたか何をしなかったか」
「でも母親の記憶はある。君は何かが特別だ、君にはおかしな記憶もある。僕はその知的好奇心を満たしたい。殺してしまう前に」
「……話すだけ、無駄な事【線天:黒】」
私が出した魔力の線がオリジナルに届く前に消える。
「それは残念、そして君の相手は僕じゃない。それじゃ頑張ってね」
★
「みんな」
返事が無い後ろを見ても誰もいないはぐれた。さっきのは魔道具抵抗が出来なかった。
はーめんどくさい。
それにしてもどこだここは。辺りは真っ黒の壁でおおわれているその癖に物は見えるくらいには明るい。
「やあ、初めまして。精霊アリュー」
「君はオリジナルか。わざわざ僕の前に来て死にたいようだね」
「まあ、そんな物騒な事を言わないでさ。まずは対話できるか試して見ようよ」
「対話ね、まあいい。それで何を聞くつもりだい?」
「そうだね。まずは君の目的についてとか。君がなぜ自分で封印したあのフェンリルの魔術を自分でその封印をはがそうとしているのか、とかね」
「……おい、お前何を知っている」
声に気迫がこもる。
「僕は大抵は知ってるさ。補助魔法の精霊アリュー・ジルベス君」
その言葉は僕に少しの沈黙を強制させた。
「……さっきまで僕は君の事を多少背が伸びた雑草としか見えていなかったよ。黙らせたいのなら刈ればいいし、格の違いを分からせたいならば踏み潰してしまえばいいし、殺してしまいたいのなら燃やせばいい」
「でも君は棘の生えた雑草さ、刈るのも踏み潰すのもとげが刺さる。だから燃やす事にするよ」
「【審判 無情の罰】」
僕の攻撃魔法【審判 無情の罰】は僕が視界に映る生物全てに等しく痛みと傷を与える。
もちろんオリジナルも例外ではない。
「出来れば教えて欲しいよ、君があの時なんで心変わりしたかとか」
「っ!お前は何を知ってる!」
「ああ、やっぱり君でも知られたくない事があるんだね」
「
オリジナルが僕の魔法をその魔法で相殺する。
「魔法じゃないどんな攻撃も一度だけ無効化する魔道具さ」
「お前の目的は何だ僕をここに閉じ込めた理由は何だ」
「時間稼ぎかな。まあこれでも見るといいさ」
僕はオリジナルに映像を見せる。そこにはシータと二人のユニバースが居る。
「僕はさ、勇者を殺したい。このフェンリルはその器がある。魔術さえあればね」
「だから君にその封印を解いてもらう事にするよ」
……僕は決心がつかなかった。あの日魔術を教えた日、最初は返してしまおうかとも思った、が、それはこの子の気分一つで世界が滅びるという事実に決心が揺らいだ。そんな魔術を今ここで?こいつは自分が何を言ってるのか分かっているのか。
「どうやって?」
「あのフェンリルを殺すよ。君は特等席から眺めておくといいさ」
「それを僕がただ見ていると思うかい?君を殺してそこの二人を殺しに行くさ」
「
「【玉】」
見えている全てに重力を付与し潰す。
「君をここに留める事にして、どうやって攻撃をいなすか。物量で押すのは好きじゃなかったんだけど。存外都合のいい物はなくてね、だからこの2672個の【玉】でそれを成す事にしたよ」
オリジナルはそう言いながらまた新しい玉を出す。
「さあ、じっくりと見ていくといい。大切な子の死をね」
★
黒が晴れる。
「全員無事か」
イーライが指示を出す。
「大丈夫」「カネルちゃんも大丈夫にゃー」
それに答えるのはノアだ。カネルも返事を返す。
それ以外に返事は無く。ここに居るにはイーライを含め三人だった。
「とりあえず、目の前の奴らを倒せばいいのかなぁ」
「そうであってほしいが、まあ相手もやる気だ。行くぞ」
「カネルちゃんも~しょうがにゃいなー」
目の前には臨戦態勢の数十体のユニバースが並ぶ。
「来るぞ」
★
オリジナルが去った後、のちに二人のユニバースが現れる。
「こいつが楽園の異物。殺さなきゃね№1」
「そうだなNo2。幸せを壊す奴はころさないとな」
No1、No2はそう会話した後戦闘態勢を取る。
「死ね」
その一言が戦いの開始の合図。
「ぺらぺらと勝手に物を言ってうざったい。死ぬのはお前らだ
その言葉と共に辺りは№1と№2の足元と頭上に黒の光のが現れる。黒い光が地面と上に伸び両者を押し潰す。
「がぁぁぁ」「ううぅ」
「役者不足だ。さっさとオリジナルを出せ。私が殺してやる」
No1とNo2の体が押しつぶしている黒の光の形を変え黒い棘に串刺しにされる。
(私と同じ光魔法だろ、黒い光なんて初めてみた。それに実体を持ってるどれだけの練度だと)
そのままNo1とNo2を押し潰して殺してしまおうと言うとき。
急に拘束から№1と№2が抜ける。
「おい、おぬしらが死んだらが困るんだぞ。しっかりしてくれんとな」
「遅いぞ、武人」「そうだよアストラレアス」
武人、アストラレアスと呼ばれた男はNo1、No2にそう怒られる。
「やれやれ、折角助けてやったのに礼もいえんとは。まあ、ここから作戦どうりに行くとしよう」
「作戦通りにね」
No1とNo2はそう返しながら二人はその場から消える。
「次は何だ。老いぼれた爺さんが私の相手をするのか?」
「そんな老いぼれた爺に、あんまり期待させるなよ。血圧上がって死んじゃうかもな」
「さっさと死ね【線天:黒】」
黒い光がアストラレアス目掛け飛んでいくが、アストラレアスはその攻撃に拳を向け。弾く。
「この世界は武術を極めるにもまずマナを使う。武術だけでは武術の極みに到達できん…悲しい事じゃと思わんか」
「知った事か」
私はさっさとお前を殺してオリジナルを引き出して、話の真相を聞かなきゃならないんだ。
なのに、こいつ……強い。
武人は私に接近すると、そのまま拳を放つ。確かに避けれたと思ったのにその拳は私の頬をかすめる。
私の四重の結界を破壊して。
「これでちっとは年季の入り方が違うって事がわかってくれれば嬉しいんじゃがな」
四重の結界が破壊された。あれが最高高度の結界だと言うのに。
でも相手は近距離だ。それならドルガの時にいくつか学んだ。
後ろに下がり魔法を唱える。
「
この魔法は唱えると私を中心に光の幕で球体ができる。
その球体の中で光線が乱反射する。
接近戦殺しの魔法。私は成長している。
「なるほど、これは面倒。……でもな、ただそれだけなら少々なめすぎじゃぞ」
「知っておるか、生物が武術を極めると世界からまるで祝福されるように、あるギフトを送られる」
その言葉を放った瞬間武人の目の色が変わる。
黒から赤色に。
「
距離を詰めてくる。
「この目はな、見たい物だけを見れる」
武人は天球の範囲に入って歩いてくるなのに飛んでくる光線はひとつも当たっていない。
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