曰く

「勇者はね人間を傷つけられないんだ」


 そうアリューが言った。


「それ、本当?」


 エフレンが真意を問う?


「嘘はつかないよ、勇者は人間を傷つけられない。敵は人間だったつまり勇者は解決できない」


「……でも、それでも勇者が解決できないなら世界が動くんじゃないの?」


「どうだろうね、勇者も世界も敵を分かっていなかったら?遅れて取り返しのつかない事になるかもしれないよ」


「アリューの言う通り、私達が動くべき。そして敵を一人も残らず殺す」


 ……そもそもなんで奴らが永遠に時を止めないんだろうか、なにか条件があると考えるのが吉かも。


「じゃあ、決定。ユニバースの目的は僕たちが止めよう。異論がある人は居るかな?」


「はぁ、行くなら私も連れて行って」


 エフレンもため息交じりだが納得する。それに続いて皆が同意する。


「もちろん、私も行くわ」「私もだぞ、ようやく出番だしな」

「私も同行するよ」「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」


 全員の賛同が得られた。


 ★


 日の光の入らない地下の奥深く。

 そこに一人、人間の女が鎖につながれている。


「起きたようだね、えっと確かユニバースだよね」


「はい、私は系統名ユニバースの78番目の個体です。個体の識別名はユニバース78」


 ユニバースを拘束してから二日。ようやく目を覚ました。

 焦りも、恐怖も無い。ただ淡々と受け答えする。


「状況は分かるかな」


「ええもちろん」


「なら、質問に答えてくれると嬉しいんだけど」


「どうぞ、ご勝手に」


 ユニバースは余裕の表情で答える。


「君たちはどうやってあの現象を実現させてるのかな?」


「……それにはお答えできかねます」


「ああ、そうなら後で強引にでも心の中を除いてあげよう」


「ふっ、どうぞご勝手に」


 何故かユニバースは余裕を崩さない。そこに疑問を持ちながらも次の問いを投げかける。


「君たちの目的を教えてくれる?」


 この質問を投げかけると少し間を置きユニバースは答える。


「ご存じないとは思えないのですが。ですがまあいいでしょう。私達の目的はこの世界に楽園をもたらす事。ただそれだけです」


 まあそうだろうね、そう答えると思っていたよ。でも本心は後で見せてもらおうか。


「じゃあ、僕が質問を投げかけるのは最後にするよ。君たちの拠点は何処かな?」


 これもどうせ答えないだろうけど。でもその予想は意外にも裏切られた。


「はい、お答えします。私達の拠点は世界協定地図第四号の横45縦70の位置その地下になります」


 世界協定地図……確か人間が作った世界地図だ。全部で24枚それを組み合わせると世界地図になる物だっけ。


「随分あっさり答えるんだね」

「拠点を聞かれたら答えろとそう命令されております」


 何故だ、もしかしてこいつは最初から見捨てられていた、何のためか知らないけど僕たちに場所を知らせるために。


「でもそれじゃ少々アバウトだよ」


「でしたら記憶を見たらよろしいのでは。詳しく分かると思われます」


 記憶を覗けばいい。そう言われれば覗くまでだ。

 僕はユニバース78の記憶を覗く。

 だが知ることは、この子いやこれはただの道具だと分かる事だった。


 記憶が無い、ほとんどの記憶があのオリジナルだろうかその命令「拠点を聞かれたらこう言うんだよ世界協定地図第四号の横45縦70の位置だとね」


 それと作られた意味「君はある場所に捨てていくから、ちゃんと役割を果たすんだよ」それと最後に「この拠点を上から見ると良い。きっと君の記憶をアリューと言う精霊が見る。


 わかりやすいようにね」すると上からの景色に切り替わる。これで記憶は最後。たったこれだけこの命はたったこれだけの為に作られた。動揺?していた時。何かが来る。それは精神汚染系の魔法だった。


 記憶を読むのにトラップを作っていたのか僕にはたいしてきかないけど、ただ「怒り」が来る。


「全く趣味と言うか性格が悪いね」


「これで、私の全てが終わりました。どうぞ始末してください。」


「言われなくても始末はするつもりさ。でもね僕は死にたがりは嫌いだだからこの事が終わるまでそれを保留にしておくよ」


「……それは困りました。では自死する事にしましょう」


 ユニバースはそう言うと魔法を使ったのか何なのか、目から生気が消える。


「本当にムカつくよオリジナルだっけか。誘ってるのか知らないけど僕が居る限り皆死なせないしお前は、焼き尽くしてやるよ。雑草」




 ★


 78に付けていた識別の力をもった魔法が死を示す。良好だ。


「78が死んだみたいだ。皆を呼んでくれるかい?」


「分かりました」


 №1、№2、武人アストラレアス。それからコピー達が集まる。


「オリジナル、ついにその一人を殺せるのよね」


「もちろん。あのフェンリルさえ殺せば後は簡単。装置を起動させ時を止めれば僕らの勝ちだ」


「オリジナルよ、いつ来る。そのフェンリルは」


「そうだね、多分明日か明後日かな」


「随分早いな」


「急な事は謝るよ。でも僕としては長い準備だったし、ここまで全てが予定通りだ」


「そうか、ならば良い。ではその日を待つとしよう。来たら呼べ」


 そう言ってアストラレアスが去ろうとしたときオリジナルが待ったをかける。


「君は転移魔法を使えないだろ。これを持ってくれないかな」


 オリジナルが差し出したのはある魔道具だった。


「補助魔法を一つ留めておく魔道具【追憶】だ。これを使えば転移魔法をいつでも使える」


「分かった、使えばいいのだな?」


 そうアストラレアスが言うと、オリジナルの前から消えた。


「じゃあ準備をしようか」「ええ、そうね」


 No1が返事をする。そして準備をする。歓迎の準備を。



 ★


「誰が行く?」

 アリューが拠点を聞き出すことに成功したので。もう一度皆を集め作戦会議と行った。


「昨日も言ったが私は行くぞ」最初にデルがそう答える。「私も」次にエヴィリーナ。次にエフレン。次にサーシャ。次にイーライ。次にノア。


 次々に「行きたい」とそう言う答えが聞こえる。でも流石に人数は絞らないと。そう思っていた時アリューが口を開く。


「皆、一つ先に忠告しておくよ。これは敵の罠だ。安心して僕が居る限り誰も死なせない。でも人数が多いともしかしたら守り切れないかもしれないんだ」


 アリューのその発言は皆に衝撃をもたらした。そもそも皆は守られるという立場だと思っていなかったからだ。


 それは守ってもらえるという意味でもあり自分達は力不足であると思ってなかったからだろう。


「それでも行きたいと言う人だけ残ってほしい」


「ごめん、これだと誰も手を挙げられないね。じゃあ僕が選んでもいいかな」


「……それで構わねえよ。ただ選ばれた奴らっていうのは守らなくてもいい奴らってことで良いんだな」


 アリューは首を縦に振りその問いに答える。それに続いて皆がアリューの提案に了承する。



 その結果。


 エフレン、イーライ、ルウ、デル、エヴィリーナ、サーシャ、ノア。猫の獣人のカネル

 そして私とアリューの10人だ。


「皆、異論はないかな?」


「はい、いろーん。カネルちゃんめんどーう」


 その言葉を聞いた瞬間イーライが頭を引っぱたく。

「痛いにゃー」


 アリューが皆の顔を見渡しそう問う。それに皆がうなずく。カネルを無視して。


「出発を急ぐよ。今からでも行けるよね?」


 答えは当然イエスだった。


「それじゃあ、行くよ」


【転移】

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