「嘲る者」

 極地の祝眼の能力は


 一つは、五分間の完全集中。


 一つは、少量の時間だけ自分に対する時間加速。


 一つは、少量の時間だけ自分に対する時間減速。


 一つは、見たい物が赤くそれ以外を白く見える。


 一つは、現実を捻じ曲げる。


 これだけの力が武人アストラレアスには与えられている。


 ★


 なら直接叩き潰してやる。


「【九天衝落:黒天】」


 黒い光が連なり槍になる。


「よく狙え、若造。この魔法の範囲内で儂が避けるのは難しいぞ」


 その言葉と共に、槍が放たれる。その体を黒い光が貫く。



 けど確かに私は体を貫いたはずだった。なのに槍は見当違いの方向に飛んでいる。


「残念、この目にはまだまだ能力があるのよ。そのうちの一つ、現実改変」


 現実改変は、自分が現実に起きていると信じている事を自分の都合の良いように書き換える事が出来る。例えばさっきなら、私の攻撃は外したのではなく外させたに書き換わる。


 余りにも理不尽すぎる。


「例えば、こんな風にも使えるてな」


 その瞬間私の目の前に武人は現れる。


【我楽多】ガラクタ


 武人の掌底が深々と腹に刺さる。


 臓物がひっくり返る様な痛みと浮遊感。


 そのまま私は地面に叩きつけられる


「儂も年でな。本来なら肉ごと弾き飛ばせる代物だったぞ」


 ……痛い、あばらが何本か折れてる。でも何でだろ笑みがこぼれる。


「ほう、笑っておるな。どうした」


 痛みの中私は立ち上がる。


 楽しくなってきたなって。そう思っただけかもしれない。


 ★



「まあ、大方予想通りだね。この子は武人に勝てない。ほら速く彼女の魔術を返してあげなよ」


「随分もの言いだね、僕が素直に聞くとでも?」


 余裕な態度をオリジナルは崩さない。


「死んでも魔術を返さないんて。きっと後悔するかもね」


 オリジナルはあの子が負けると踏んでいる、確かに今映っているのは劣勢。


 でもこの子は自分の実力を生かしきれてないだけだ、僕ができるのは少しだけだけど。やっちゃえよ。



 ★



 スコル、スコール、スコッル、スケルとも呼ぶ、その名前は古ノルド語で「嘲るもの」「高笑い」を意味する。


 ★


「ふ、はハハハハハ。なあ武人とか言ったよな。楽しくなってきたな」


「あ?なんじゃお前。急に……」


 武人に同意を求めるが、武人はおかしなものを見る目をこちらに向ける。

 この高揚感はドルガと戦った時と同じだ。無敵感、無双感。


「武人、私はちょっと焦ってたみたいでさ。ここからが勝負だから。覚悟してよ」


「ふ、言うなあ!さっきまでとは違うんなら。結果で示せぃ!」


 四重詠唱、それを複数。複数詠唱。

「【九天衝落:黒天】」


 漆黒の槍がいくつもできる。だがそれは発射せず待機だ。


 四重詠唱

「【天球の乙女:黒】」


 膜を透明に光線は数を増やす。


 武人の方を見るとこちらに迫ってくる。


「これ以上、そちらの有利にはさせんぞ」


 私は魔法を放つ、光線が武人を囲む。しかしその攻撃を武人は回避する。


【我執】ガシュウ


 光線が連なる。だが全て弾かれる。

 何かの技のようで光線を弾きこちらに迫る。


「接近戦だけって言うのは考え物じゃな」


 黒色の光の棘が二本、武人へ延びる。武人へ当たる瞬間、棘は別々の方向にずらされる。


 現実改変を使われたようだ。


 そのまま武人は私の目の前まで迫り、拳を叩き込まれる。


 だがそれは結界で守れる。一度目は現実改変と予想を立てた、それは大当たり。


「この近距離、不利なのはこっち?」


 まず足を奪わなきゃ。


「【顎:黒】」


 この空間全てに、地面と天井から実態を持った光を放ちプレスする。


「てめぇ、ちっとは出し惜しみを覚えんかい」


 だがそれは発動前に戻されてしまう。現実改変、何か発動条件かクールタイムの合図があると良いんだが。


「さっきまでの余裕はどうした武人!私はまだピンピンしてるぞ」


「おい!待て。やめとけ」


 そう武人は言った。その瞬間、№1と№2だっけ。そいつらが飛び込んでくる。

 一人は一つ槍を使い貫き殺す。「がぁ!」と言ってすぐ絶命した。一人は光で押し潰す。


「まだ、溜まってねえのに」


 武人は生きている方を見ているようで、こちらを見ていない。


 片目が赤色に光った瞬間、生きている方が武人の手元まで瞬間移動する。

 目の色、恐らくそれがクールタイム終了の合図だと、そう私は予想を立てた。


「№1……嘘。やだよ」


「とにかく退け、№2。お前達じゃ相手になれん」


「う、うん」


 そう言って№2は壁の中に消えていく。


「悪いが仲間の死を悔やむ暇は無い、私を退屈させるな武人」


「あぁ、そうじゃなあ。そろそろこっちも奥の手を切らんと行けないのう」


 この時武人は極地の祝眼の能力の一つ、完全集中を使用した。



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『スコル、スコール、スコッル、スケルとも呼ぶ、その名前は古ノルド語で「嘲るもの」「高笑い」を意味する』

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