エクスカリバー(聖なる光を放つ聖剣の意):1

 屋台にいる男が私に話しかける。

「おいそこの嬢ちゃん、鼠肉の串焼きでもどうだい」

「要らない」


 とくに整備もされてない道をあるきながら私は目に見える城壁を目指す。

この国を滅ぼすために、この国に復讐するために、私は強くなる必要があった。

あの日以来、私は学んで、強くなった。

人の姿になっているのも復讐をやり遂げるためだ。


とは言ってもどう頑張ってもこの犬耳と尻尾だけは無くらなかったのでフードで頭を隠している。

「あれが、私の敵がいる国か」

 そうつぶやき、門まで歩いて行く。

 門の中に入ろうとしたとき門兵に止められる。


「待て、腕を見せろ」

「どうして」

「いいから見せろ」

 そうやって強引に腕をまくられる。

「良し、劣等紋は無いな通っていいぞ」

「なぜ、こんな事をする」


「知らないのか。…いいかそこら辺の奴を見てみろ。ここは犯罪を犯した奴らや、借金まみれのゴミ屑が集まるところだ」

「たまにいるんだよここからこの城壁を潜って中に戻ろうとするやつがよ」

「そうか」

「おう、そういうことだ、分かったならさっさと行け」

「言われなくてもだ」


 スラムという事か。助け合っていけばいいのに隔離し、差別する。人間はつくづく腐ってるな。

(まぁ、関係ない)

(私は私の目的を果たす)

 門を潜り城壁の中へと入って行く。


 ★


 壁の中は賑やかな町並みが広がっていた。

たくさんの人が行きかい、馬車などが走っている。

道端には露店が立ち並び、食べ物を売っている。

奥にはさらに城壁と王城らしきものが見える。


「それにしてもどこを見ても人間、人間、人間だらけ。反吐が出る」

 そう言いながら私は歩き続ける。

実行するなら王城に近い方がいいだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、 ドンッと音を立てる。

どうやら誰かにぶつかったみたいだ。


 相手がしりもちをつく。人間の男かどうでもいいな。

「あ、ああ?おいちょっと待てよぶつかっておいて謝罪も無しか?あ?」

そう言って男は立ち上がる。

がたいの良い男が威圧的に言葉を発する。

「そっちが私の方に体を寄せたのだろう」

「ああ!?ふざけんな、てめえなめてんだろ。こっちにこい」

 そう言って腕を引っ張られ路地裏に連れて行かれる。



「私に触れるな、人間」

そう言って腕を振り払う。

「ここなら人はこない好きにできるんだぜぇ?なあお前ら」

男の取り巻きだろうか、仲間が二人ほど現れた。

「へへ、兄貴今日は上玉ですねぇ。楽しみだ」

下品に笑いながら一人の男が近寄ってくる。そして私の肩を掴んでくる。

「もう一度だけ言っておく。私に触れるな」

掴まれていた腕を振りほどく。

「は?調子にのってんじゃねえぞ」

男が私を押し倒そうとしてくる。


「二度忠告したぞ」

押し倒そうとする男の頭を掴む。

「て、てめぎゃぁああああああ」

力を込めて頭を握りつぶす。

「あ、がぁあ」

バキィッと音を立てて頭蓋骨が粉砕し三分の一程度になった頭から血が噴き出る。

「次は誰だ」

「お、おい逃げるぞ!」

「あ、ああ!」

 残った二人が逃げていく。

「逃げるな」

 指を鳴らすと男の周りに円形の結界ができる。


「おい、なんだよこれ。出れねえぞ」

「待てよ、何する気だよ!」

「黙れ」


 結界を圧縮して潰す。

 グシャァ 肉片が飛び散った。

「これで少しは静かになったか」

 まだ結界魔法は使い慣れていないな。

 もっともっと練習しなければ。

「さて、行こうか」

 そうして路地裏からでて王城を目指しまた歩き始めた。



 ★



 あの日からずっと考えていた。なぜ私の母は死んだのかと。

母はあまり戦いを好まなかった、狩りもあまり好きでは無いらしく必要最小限しかしていなかった。


もちろん人間を襲う事なんて無く。人間が来ても追い払うだけの時もあったようだ。

魔法を使うなんて事はここ数年は無かったらしく母はフェンリルの中では特別弱かった個体だった。


だとしてもフェンリルは強いはずだ。なのになぜ負けたのか、それはきっと強者が居る。

【悪評高き狼の意】は広範囲、高威力の魔法だ。有象無象の雑魚が群れようとフェンリルは殺せない。


 一人か分からないがきっと居る。母をを超える強者が。

だけど、負けるつもりは無い。


 ★



「おはようございます勇者様、今日もいい天気ですね」

「ああ、そうだな」

「勇者様のおかげで、今日もこの国は平和です」


「そう、平和でなくてはな。そうでなければ愛する皆が安心して暮らせないからな」

「勇者様は皆を愛してるとおっしゃってますが、その、たった一人の女性を特別愛したりはしないのですか?……例えば、私とか」


「……私は人が好きだ。この国に住む人々、皆を平等に愛している」

「で、でもそれでは、勇者様の特別にはなれないんですか?」

「君には、幸せになってほしいと思っているよ。もちろん、国民全員にも」

「…………」


「そんな顔をしないでくれ。大丈夫、君はきっと素敵な人と巡り合える。私なんかよりもっと素敵な人にね」

「……はい」


 彼女は悲しそうな顔をしてこの場を去って行った。

思うところもある。でも誰か一人など私には選べない。

私は、人を愛しているのだから。



 ★



 次の城壁に着くまでに深夜になった。

城門を見ると既に閉ざされいる。

「まぁ、もういいか」

(【空中歩行】)

空を歩き正面から城壁を跳び越える。

「確かに綺麗だ」


 私は夜目が利く。空から見える景色は絶景と言っていいだろう。

(……私は今からすべて壊すと言うのに何を考えているんだろう)

 自分の思考に苦笑しながら城壁を越える。

空を歩き少し進んだところで止まる。

(ここからなら、この城を全て巻き込める)

まずは、ここ一帯を全て消す!


「【悪評高き狼の意】」


 私の足元から白い爆発が起きる。それはどんどん広がり、王都全体を飲み込んでいく。

 はずだった。

「やっぱり、予想は大当たりだ」

 私の周りには巨大な結界が張られている。


(この大きさの結界魔法で私の【悪評高き狼の意】フローズヴィトニルを防いでいるとは)

 おおむねは当たったが想定外な事が起きる、その原因に視線を送る。

「君は誰だ?」

 そこには一人青年が居た。

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