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言葉も無いまま勇者は呆然と立ち尽くした。

「整理がつかないか?だが時間は過ぎていくぞ、速く選べ魔王の宿敵勇者

勇者は絶望したような表情浮かべ、ロジャーへと向かい走り出した。

「やっとか」

「【レーヴァテイン】」

赤い刀身、炎の纏った剣を作り出し振るう。

熱波がロジャーを襲った。

「【粗末な夢】」

その瞬間、炎の纏った剣が発する猛々しい熱波が一瞬で消え去り、まるで何事もなかったかのように空気が静まり返った。

ロジャーは一歩も動かず、ただその場に立ち続け、静かに勇者を見つめていた。



ロジャーの【粗末な夢】は思い描いた物を生み出す魔術。どこまで作れるか。

どこまで制限があるのか詳しくはロジャーですら分からず、制限から外れた物を作ろうとすれば不発になる。

「行くぞ、ロジャー!」

「来い!勇者」

二人は声を荒げて叫んだ。

それと同時に勇者は魔法を唱える。

「【曇天穿つ巨神の剣】」

雲すら切り裂く巨大な剣が勇者の傍に現れる。

そしてロジャー目掛けすぐさま振り下ろす。

対してロジャーは一振りの剣を作り出して握る。

「いくぞ、勇者……!」



振り下ろされる巨剣をすら叩き切り、真っ二つにする。

その光景に驚きもせず、勇者は次の魔法を放った。

【今生権化終焉之剣】コンジョウゴンゲシュウエンノツルギ

黒い閃光を残しながら進む剣は全てを斬滅せんとする。

剣はその線上にある悉くを切り倒しながら突進を止めずに続く。

ロジャーは一瞬の間、勇者の放つ黒い閃光を見つめていた。

勇者の魔法は、全てを無に返すかのような圧倒的な力を持っているような。

「変わらないな、ずっと昔から変わらない」

独り言のようにそうぼやいて勇者を見た。


【闇衣無縫】アンイムホウ

そう呟いた瞬間、黒い閃光は音もなく散らされていた。


「【二代目の聖剣】」

勇者に一切の傷を負わせる事を許さない最強の鞘。

それを作り出し勇者はしっかりと掴む。



二人とも異様な緊張感が高まっていた。

決して短くない年月を過ごし、互いを知り親友として過ごした思い出は、互いに相手がどんな強敵であるかを知っているからだ。

呼吸を整えながらも緊張状態が止む事はない。

そんな均衡を破るように、二人は剣を作り出し全力で相手にぶち当たった。

剣と剣が鍔競り合った。互いに叫びながら剣を交える。

ぶつかり合い、剣が砕けてもなお、二人は戦い続ける。

勇者は剣を、ロジャーは槍を、それぞれ作り出し打ち合い続けた。

そして、その均衡が崩れる。


【殲滅を目指す魔剣の意】アポカリプス・インカーネーション

傍に剣を浮かせながら剣にマナを収束させていく。

その剣は一振りで一国すら滅ぼす剣、ロジャーとは言えど、まともに喰らえば命はない。

そんなマナをためながら勇者は剣戟を続ける。

「お前は凄いよ。本当に」

ロジャーはそう言ってから【粗末な夢】を使う。



「正義は勝者にあるとするならば、俺はこの戦いに勝ち正義を背負う」

そう言うと一瞬で剣を十数本以上を作り出す。

「この剣でお前の【二代目の聖剣】を貫けるか試して見よう」

ロジャーは作った剣は、全てを貫く能力を付けた。

狙うは一点、勇者の心臓だ。

勇者は追尾してくる剣を次々と避けながら魔法を唱える。

「神の剣、神殺しの剣、大蛇切し剣、まとめ十束」



詠唱魔法

【十束剣】とつかのつるぎ

全身が白く、一つの穴が剣の中心に空いた剣が一本。勇者の手元に現れる。

他、九本の剣は迫ってくる剣と相殺する。

「駄目か……【原初の閃光】」

剣群の中から白く尾をひいた一筋の光が打ち出され、剣をすべて光に帰していく。

だがあの剣は無事なようだ。

勇者は覚悟を決めた目をして、傍に浮いてある剣を手に取った。

そしてそれを振り上げる。

「これで……終わってくれ!」

【殲滅を目指す魔剣の意】アポカリプス・インカーネーション】」

勇者が剣を振り下ろすと同時に辺り一帯が白く消し飛ぶ。

晴れたころには全てが、勇者もロジャーもその全てを消滅させたように思えた。

剣を振りぬいた勇者の視界には折れた槍が見える。



「……まだ、やるのか?」

無傷のロジャーは勇者の首元に槍を当てる。

そしてそこで呟いた。

「ああ……やれるだけやってみるよ」

「僕を殺す算段はまだ立たないのか?」

「お前は逆にどうしてまだ決着を付けないんだ」

「分かってるだろ……」

「そうか……」

数分の静寂の後、その時は来た。

ロジャーは首に当ててた槍を一度構え直すと再び振りかぶり突いた。

風を切る音がやけに響く、肉を切る音は聞えず。

ロジャーは槍を空振った。



「なあ勇者、嫌になるよな……世界も、自分も……」

ロジャーの声はかすかに残る気力で途切れ途切れだった。

「どれだけ怨んでも、返ってこない物がありすぎる……俺は、出来損ないだよ」

勇者は拳を握りしめ、ロジャーの言葉をただ黙って聞いていた。全ての言葉が心の奥深くに刺さる。何も言えない自分に、苛立ちさえ感じていた。

「結局、死んでしまえば楽になるから……それらしい理由を付けて、お前に俺を殺させるように。お前に……傷が残るって知ってるのに……はぁ、もう疲れた……」

ロジャーの声がさらに弱々しくなる。勇者は涙を堪え切れず、声を震わせながら呟いた。



「ロジャー、僕は……僕が嫌いだよ。でも、それでも……分かってくれる人がいる。君やリラのような人が……」

ロジャーはかすかに微笑んだ。それはかつての彼の強い意志が宿っていた頃の、懐かしい笑顔だった。

「マリーが居ない世界で、俺は生きていたいと思えなかった。でも彼女に報いるために何かをしないといけないと思った。けどもう許してくれるよな、天国には行けないだろうから、地獄でお前を待ってるよ、勇者」

ロジャーがそう言い終えた瞬間、二人は魔法を唱えた。


【栄者を称えん無名の剣の意】ワンライフ・グローリー

片方は剣を頭上に構えた。

【華終】ザ・グランドフィナーレ】」

片方は槍を構えた。

勇者とロジャー、二人の声が重なり、魔法の詠唱が響き渡った。その瞬間、世界は二つの力が激突するその時を迎え、緊張に包まれた。

勇者は【栄者を称えん無名の剣の意】を構え、ロジャーは【華終】を放とうとしていた。


「……これで終わりだな、ロジャー」

勇者の声は震えていたが、その目には覚悟が宿っていた。ロジャーもまた、疲れ果てた表情の中に、一瞬の安らぎを感じさせる微笑みを浮かべていた。

「そうだな。終わらせよう……」

勇者の剣が輝きを増し、ロジャーの槍が放つ魔力と共鳴するように、空間が揺れた。二人の魔法が交差し、すさまじい光と闇のエネルギーが周囲を飲み込んでいく。

「【栄者を称えん無名の剣の意】!」

勇者の叫びと共に、剣が閃き、栄者の力を秘めたその一撃がロジャーに向かって放たれる。無名の剣は、あらゆる英雄の意志を背負い、その威力は計り知れない。

「【華終】!」


ロジャーの魔法もまた、全てを終わらせる力を秘めた一撃を繰り出す。彼の【華終】は、彼自身の最後の魔法。

その瞬間、世界が静寂に包まれた。時間が止まったかのように、二人の間に何も起こらなかったように見えた。しかし、次の瞬間、凄まじい衝撃が大地を揺るがし、光が全てを包み込んだ。

視界が白く染まった後、勇者は息を切らしながら地面に膝をついていた。

ロジャーは体の半分以上を無くしながらその場に立ち尽くしていた。

「僕の全力だ……生きてるなら【粗末な夢】で直せよ」

「無理だな、もうマナが無い……それに言い残したことがあった」

「言い残したこと?」

ロジャーは一度だけ頷いてからその場に膝を落とすと、

「最後に……親友として、お前の幸せを……願ってる……」

そう言い残し、ロジャーは静かに息を引き取った。



勇者はその場に膝をつき、動かずにいた。心の中では感情が渦巻き、怒り、悲しみ、そして虚無が交互に押し寄せた。

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