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「リラ……君に会いたい」

動きたくない、休んでいたい。疲れた……もう、どうして僕の人生はこんな事ばかり起こるんだ……

涙が自然と零れだす。心の隅で認めたくない過去や想い出が溢れ出す。

まただ、この悲劇も僕のせいだ。僕が居たからロジャーは悩んで……僕が居たからマリーが死んで。

ここ数年、抑え込んでいた自己嫌悪が溢れ出すのだろう、勇者の涙は止まらない。

それでも立ち上がらなければいけない……ロジャーが送った獣人の軍を殺さなければいけない。

「【転移】」





勇者と獣人の戦い。

珍しく、勇者の叫び声が聞こえた。

それは、怒号だった。


「【転移】」

そして獣人を殲滅した勇者は【転移】で自宅へと戻った。

勇者が自宅へと戻った瞬間、あたりは静寂に包まれていた。

「リラ……何処に」

避難したのか?転移は僕もロジャーも居ないからノアールにいるのは間違いないけど。

とにかく探しに行こう。面倒くさい事は後回しにして……




三十分ほど前の事だった。

獣人達の襲撃を受けノアールの国民は避難所に避難していた。

リラも同じように避難所に避難していた。

(大丈夫かな……)

勇者の身を案じている訳ではない、彼が負けるなどありえないからだ。

だが言い表せない程のどうしようもない不安がリラを襲っていた。

手が震える、雨とは言え真夏の昼だと言うのに。悪寒だろうか寒気がリラの体を伝う。


「早く……帰ってこないかな」

最近は余り一緒にいられてないな、いつこの戦争は終わるのかな……。

……結局どちらかに付いてしまえばもう片方の事など気にかける余裕も無い。

「早く会いたいよ……」

リラがそう呟いた瞬間、ここに居た皆がマナの起こりに気付く。

巨大な魔法の障壁がこの国全体に張られるのを皆が分かった。

「何だ急に?」「何が」

正体が分かっても混乱は避けられない。

避難所にいた者達は多少の混乱を起こす、だがそれよりも奇怪な事が起こっていた。

「ゲフッ、ゲッフッ」

喉が焼けるように熱く、息も碌に出来なくなってしまった。

口と鼻から血が止まらず、まともに喋ることもできない。

「嬢ちゃん!大丈夫か!誰か!おい!誰か来てくれ!!」

リラの事を心配してくれる人の声が聞こえる。



だが、そんな声すらかき消して別の声が聞こえる。

「皆さん安心してください、今の結界は獣人とエルフを拒絶する結界です」

混乱を収めるが如く避難所の待合室に飛び込んできた男の声が聞こえる。

次々と説明する男、その声が続くほどここに居る人々の視線が私へ向くのが分かる。

「こいつエルフか獣人だぞ!」

誰かがそう言った、恨みを込めた眼差しで。

それを皮切りに次々と声が上がる。

「きっと獣人達のスパイだ!」「そうだ!」

「やれ!やっちまえ!」

憎悪、怒り、軽蔑。

それらをぶちまけようと私へ人が集まる。



「まっ……」

弁明しようとも声が出ない、体が思うように動かない。

ああ……この目を私は知っている。あの時、人間を恨んだ私と同じ……。

人を……殺せる目だ。

そう思った瞬間、人の怒りが飛んで来た。

その拳はリラを地面に叩きつける。弁明も聞かずに容赦なく叩き込まれる。

誰かがそのまま踏みつけられる。何かを言っているようだがリラにはもう聞えない。

まだ、無罪の罪人への罰は続く。

人が死ぬまで。

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