灰の王編

王の生誕と狼の再誕

ある小国のギルドは今日もある事に駆られていた。

それは持ち込まれたエルフの死体処理だ。

エルフの根絶に向け賞金がかけられてから、死体はギルドに持ち込まれ処理を丸投げされた。

「これで全部か?たく賞金は国から出るからいいものの死体処理の費用はギルド持ちだ」

「まあ、でも特別報酬があるんですしプラマイで言えばプラスじゃないですか」

「ギルマスはな……俺らみたいな一職員はただ仕事が増えるだけだ」

「確かに……僕らの給料は一切増えてないですね」

「無駄話はこれくらいにして、焼くぞ」

積み上げた死体を見ながら、火にかける準備をしている。

そして火のついたたいまつを死体に投げ込んだ。

「エルフは良く燃えるな……」

「そうですね」

次第に体は燃え尽き、灰になる。


灰が風に攫われる――風が灰を運びどこかを目指す。

灰はやがて、どこかへ向かうように空を漂い、各地から集まっていった。

風が巻き上げる灰は、やがて一つの大きな流れを作り、荒野を越え、森を抜け、世界中からエルフたちの残骸が一か所に集まっていく。

そして、それぞれの灰にはかつてのエルフたちの怒りや悲しみ、そして無念がこめられていた。


時間が経つにつれ、灰の塊は形を成し始めた。ひとつ、またひとつとエルフたちの哀しみの叫びが重なり、灰は異様な気配を帯びていく。最初は無秩序な塊だったものが、次第に人のような姿へと変わっていく。そしてその灰の塊は、かつてこの世に存在していたどのエルフよりも強大で、より憎悪に満ちた意識を持つ存在となった。

『【灰の王】』

その者の生誕だ。

生まれた瞬間から憎しみからだろうか、その手を握った。

「この世界め。必ず俺が壊す見ていてくれ全ての同胞よ」

「そして救ってみせる、今を生きる同胞を」

そして灰の王は目を開く。その力を持って、今すぐにこの時代のすべてを滅ぼすために。





シータたちの拠点。

既にシータが眠っていから三か月の月日が経っていた。

「アサイン、シータの様子はどうかな」

「また来たのかよ精霊様よ」

「いい加減アリューと呼んでくれないかな」

「断る、お前と関わる気はない」

「ふーん、まあいいけど質問に答えてくれれば」

「お前に従うのも癪なんだがな」

「もう一度封印されたいの?」

「やってみろよ、できるもんならな」

二人の間には一触即発と言う程の殺気が立ち込めている。



「そもそも、お前がしっかりしてれば私がでしゃばる必要も無かったんだ」

「どう言う事?」

「お前がシータを鍛えておけば、私が鍛える必要も無かった」

「シータとお前が居ればシータが弱くても勇者を殺せると踏んで、シータを必要以上育ててなかった」

「シータの力を恐れて……だろ?」



「どうだろうね」

アリューは静かにそう答えた。

「まあいい、シータの方はそろそろだ」

「ならそろそろ合わせてもらえない?」

「もう少し待て、あと少しだ」

「そう……まあ好きにしな、君と話すのは疲れるし僕はもう戻るよ」

そしてアリューはこの空間から姿を消した。




「アリューどうだったの?」

姿を現したアリューにすぐさまエヴィリーナは質問する。

「まだもう少しかかるみたい、全くなかなかいけ好かない人もいるもんだね」

アリューは不機嫌な顔でソファに座り込む。

「珍しいわね、アリューがそんな事を言うなんて」

「まあね、でも嫌いな人は嫌いだよ」

「そりゃそうね」



そう言うエヴィリーナだがそこにはどこか落ちつかない様な、焦りを感じられた。

「シータが目を覚ましても、このエルフの虐殺が収まるわけじゃないよ」

「……分かってる、でもきっかけが欲しい。そう思ってるだけ」

エルフの虐殺を止めようとすれば勇者が動くだろう、そうすればもう終わりだ。

「この辺りに来たエルフは出来るだけ保護しているけど、助からなかった人は余りに多い」



「力がないってこんなに恨めしい事なのね」

そう言ってエヴィリーナは悔しそうに歯を食いしばった。

「そろそろ、僕達も動かなきゃいけないみたいだね」

「そうね、やらなきゃいけない」





「シータ、あの精霊また来たぞ」

アサインの声にシータは目を開け、少し顔をしかめながら応えた。

「アサイン……まえ、次着たら合わせてって言ったよね」

「そうだっけ?」アサインは肩をすくめて答える。

「まあいい、すぐ会えるさ」と、シータを促すように一歩後ろに下がる。

「?」

シータは首をかしげながらもアサインの言葉に従った。



「三年だ、外では三か月しか経ってないがな」

と言いながらアサインは空間全体に力を放ち、出口を作り出すような動作を見せた。

「ここを出るぞ」

「そっか……」

「十分教えた、最後にその目を見せてみろ」

アサインの言葉に、シータはゆっくりと目を閉じ、一度深呼吸をした。

そして目を開けた時、その瞳には冷静さと決意が宿り、以前の彼女とは明らかに異なる鋭さが漂っていた。

「……どう?」

「満足だ」

そう言うとアサインは笑みを浮かべ、手を伸ばすと周りの空間を歪ませて再び扉を開ける。そしてシータは扉に近づいて行く。

「……頑張れよ」

「そこでしっかり見てればいいよ」

扉が開き外に出る、目の前が発光し光に包まれた。

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