これからの普通

訓練を再開して少し時間が経ったとき。目の前に約四十の獣人が現れた。

「あなた達、誰?」

いつでも魔法が使えるように準備をしながら尋ねる。

「え、いや。あの僕たちも分からなくて」

獣人の中から先頭にいる犬の獣人が答えた。

獣人達は混乱しているようであたふたしていた。

どうゆう事?訳も分からず私達も困惑する。

アリューが出てきて声をかけた。



「君たち、銀色の毛並みをした獣人に飛ばされたかな?」

「えっと。はい、そうです」

その言葉を聞いてアリューは納得する。

「皆、大丈夫。この子たちは敵じゃないよ」

アリューの言葉を聞き皆警戒を解く。

その時遅れてもう一人獣人が飛ばされてきた。



「ここが拠点?廃村じゃねえの?」

その獣人は飛ばされてきた獣人の中でも異様な空気を放っている。

でもそれよりもこいつは私たちの村を馬鹿にした。

その事に苛立ちを覚えた。言い返そうと思ったけど私より先にエヴィリーナが動いた。

「訂正しなさい、ここは拠点ではないけど私たちの村よ」

「ん~、そっかそっか。悪いな。そうは見えねえよ馬鹿が」

「なんですって」

獣人の言葉を聞いた瞬間、エヴィリーナは風の魔法を放った。




「おいおい、随分な歓迎だな。いきなり撃つんじゃねえよ」

しかし、その魔法はどこからともなく取り出した武器に切られ。

弾かれた。その様子に驚いたのは私だけではなかった。

その獣人はエヴィリーナに迫る。がその瞬間動きが止まった。


「一度落ち着こうか。ね」

アリューがそう言った。すると獣人の女から殺気が消えた。

それを確認した後、アリューはこちらに振り向く。

「嘘だろあのフェンリルより強い奴が居んのかよ」

空気が悪い。これが仲間?



そう思ってた時シータが現れた。

「シータ?どうゆう事説明して」

「そのつもりだが…」



その後シータから説明があった。

私達だけでは人手が足りないから奴隷を仲間にしたとの事。

そんなの混乱するに決まってるのに。なんで言わなかったのかを問い詰めたら。

「その、昨日の夜思いついてアリューには言ったから皆にも伝わるかと……」

その言葉を聞いて私達は一斉にアリューの方を向く。

「あ、あーごめんね」

苦笑いしながらアリューは謝った。



「あと、デル。お前は何してるんだ」

「悪かったよ、ちょっとからかっただけだっつうの」

「人の思い出を馬鹿にしてからかったは無い。ただの挑発だ」

「はぁ、分かったよ。悪かったな」



「とりあえず自己紹介をしようか。獣人のみんなもさ」

アリューがそう言うと獣人達は順番に名前を言っていった。

そしてデルと言う獣人が最後に残った。

「私はデル、半狼、つまり半分フェンリルの獣人だよろしく」

そして、私達も名前を言っていく。

それが終わると拠点に移動するようだ。





「ち、地下」

怯えたように一人のが獣人言う。奴隷だったからか随分と怯えているようだった。

私達もこうなったかもしれなかったのか。と思うと少し悲しくなる。

獣人達に拠点を案内していると随分と大きくなっている。

新しい部屋がいくつもできている。恐らく一人一つ使っても余りあるほどの広さだ。

「皆好きに部屋選んでね。一人一つだよ」

アリューがそう言ったら獣人は達は混乱しているようだった。

「あ、あのアリュー様。本当によろしいのでしょうか我々のような奴隷の為に個室を使わせるなど……」



アリューに聞いたようだが答えたのはシータだった。

「言ったはずだちゃんとした扱いをすると。怯える必要はどこにもない」

その言葉に獣人達は少し安心したような顔をしていた。

でも先頭の男の獣人は違ったみたいだけど。



「シータ様、教えてはくれませんか。一体我々はどうなるのでしょうか」

「そう言えば言っていなかったか、お前達には諜報活動をしてもらう」

「諜報活動ですか」

「そうだ、外に色々してもらうつもりだが…」

「それは、危険を伴いますよね」

「まあ、そうだな。基本的には危険だ死ぬ可能性もあるにはあるか」

シータの言葉を聞いた瞬間ざわつき始める。



「それは!我々の命は保証されず捨て駒にされるのでしょうか!」

「命の保証は誰にもできない。だができる限りの事はする。でも、私を信じられないだろう。口先だけなどいくらでも言えるからな」

「分かった。もしここから出て行きていきたい者は好きにするといい。私は止めないし咎めない。だが今でて言ったところでその辺りで飢えて死ぬだけだろう」

「それでは!」

「だから時間をくれないか。ここが良いと思わしてやる。お前たちが奴隷の檻の方がましなど思わせないくらいにな」



その言葉を聞き獣人たちは黙ってしまった。

「今日は休むといい」

そう言ってシータは行ってしまう。

「じゃあ皆、とりあえず。部屋を選んでね。どこも変わらないけど」



アリューがそう言ったが皆動く気配はない。

するとデルが動き出した。

「ほら皆行こうぜ。いつまでもこんな所で突っ立ってても仕方ねえだろうが」

そう言いながらデルは歩き出す。そして通路の奥に指をさして声を上げる。

「ここにでかい部屋を作れよ精霊様。私にお似合いのな」

「全く、図々しい子じゃないか。嫌いじゃないけど」

アリューは呆れたようにそう言いながらもどこか楽しそうに見える。

デルの図々しさに呆れたのか獣人達の緊張が解けたようで動き出した。





少し時間がたってアリューが私の部屋に来た。

「獣人の子達はちゃんと決めれたみたいだよ」

「良かった。私はちゃんとできてた?アリュー」

「うん、大丈夫だと思うよ。獣人の子たちを見ても逃げた子は居ないしね」

「と言うかさ。君は少し変わったかな」

「なんで?私は変わってなんかいないよ?」

「うーん、なんていうか。そんなに他の人とか気にしないと思ってたから」

「そう、私はアリューの時から他の人と関わるのは好きだったよ。でも自分を律さなきゃって思ってただけ」


「そっか。ならいいんだけど」

「あと、アリュー。明日の朝。獣人達にご飯を振舞ってあげて」

「うん、任せてよ」





コンコンと扉をノックする音が聞こえる。

扉をあけられる。その部屋の中に居るのは獣人の先頭に居た獣人だ。

「ありがとう」

扉を開けられて開口一番に感謝を述べられた。

「どうしたんだ、えっとたしかニックだっけか」

「あってるぜ。あんたはイーライだろ。あんたが勇気を出してくれた。感謝してるんだ」



「そうか……なあニックお前はどう思う?この道が本当に俺達の正解だと思うか?」

「まだ、わかんねえ。でも奴隷商の商品になるよりは個室があって固い地面で寝なくていいだけで幸せだと俺は思う」

「そうか、そうだな。少なくともあの時よりも今は幸せだな」

「そう、だな」




夜が明けて朝になった。アリューが朝食の準備をしている。

テーブルに食器、皿、料理の順番で現れる。

「さ、皆出てきていいよ」

アリューが言った途端扉が開き獣人達が出てきた。

「さ、座って座って」



獣人達は戸惑いながらも席に着いた。

その時もう片方の扉からノア達がきた。

「さ、君たちも」

「いつの間にこんな場所ができたのよ」

「……アリューテレパシーはやめて。怖い」

「……怖いの?」

サーシャはむっとしながらそっぽを向く。



「はいはい。早く食べよう」

「分かったわ」

そう言って全員が座り。事が始まった。

「口に合うといいんだけど」

一口食べた瞬間驚いたような顔を見せた。

そして、そのまま勢いよく食べ進める。どうやら口にあったようだ。

「美味しい」

「おい、美味しいです」

ノアたちの反応はおおむね予想どうりだ。



獣人達はと言うと少々オーバーリアクションな気がする。

「奴隷になってからはパンだけだったのに」

涙を流して食べる者までいた。

「こんな贅沢して良いのかしら」

「これが普通なんだぜ、お前ら」




デルがそう言うと周りの獣人は目を丸くしていた。

「これからはこれが普通だ。そうだろ精霊様」

「そうだよ、これからはこれが普通だよ」

「あとアリューと呼んでくれないかな。精霊様は恥ずかしいよ」

「分かったよアリュー様」

「様も要らないよ」

「あっそ、じゃあアリュー」

「それでよろしい」

デルは聞く耳を持たずスープを口に運んでいる。





食事が終わると獣人達と私達はアリューに連れられて外に出ていった。

「あの、何をするのでしょうか」

まあ、恐らく昨日と同じだろう。

それは思った通りで昨日と同じ説明がされた。

「マナの扱い方…ですか」

「そう、覚えてもらうよ」

「アリュー様、私達のような者にできるのでしょうか」

「できるよ。というかできないと話にならないよ」

「そう、ですか」

「でも、安心して。僕が教えるから」



そこから先も昨日とほとんど同じでその感覚を体験さしてもらった。

私達も加わって続きを始める。

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