狼追い

数刻前

「じゃ、そこに並んで~」

少年が私たちに指示をする、それは精霊であるアリューだ。

「アリュー何をするの?」

「何って、前にあの子が言ってたでしょ。君たちを強くする」

「特訓ってことなの?」

そうルウが聞くとアリューは笑顔で答えてくれた。

「うん、そうゆう事だよ。今のままじゃ弱いからね~」

確かに私達は強く無い。力は欲しい。


「でもどうやって強くなるんですか?」

「それはね~、マナの扱い方を覚える事だよ。」

「マナの扱い方を?」

「そう、マナはね。ただ魔法を扱えるだけじゃ全く話にならない。マナの扱い方を覚える事で魔法によるマナの消費を抑えられ。

魔法の威力が上がっていくしそれに体内でマナを循環指して身体能力が上げることもできる」

「今のお粗末な扱い方と僕が教える扱い方で単純に見積もっても五倍は強くなるだろうね」


「え?そうなの」

「そう、だから頑張って覚えよう。と言いたいんだけど君たちは少しズルをしよう」

「……ズル?」

サーシャが疑問に思ったのか聞き返す。


「そう、ズル。本当ならこの扱い方は自分で感覚を掴むものなんだけど。僕が君たちにその扱い方の感覚を一度体験させる」

「そして、それを自分のものにしろって事?」

「そう」

「それでその後はどうするの?」


「後は簡単。その要領を掴んでしまえばあとは自分の力で何とかなるはずだよ」

「分かったわ、お願いアリュー」



「さて、どうかな」

アリューにそのズルをしてもらいそのマナの扱い方を体験さしてもらった。

「凄い、今までと全然違う」

「……すごい」

「こんな感じ初めて」

「何か違和感があるけど、これがそうなのかしら」

「そうそう、そんなかんじ」


体中にマナの巡りを感じる。

今までとは比べ物にならないほど体が軽い。

力が湧いてくるようなそんな気がした。

皆、初めての感覚に戸惑っているようだ。


「これをみんなは扱えるようにならないとダメだよ、ほら早速やってみて」

アリューに促され私達も実践してみる。


先ほどの感覚を理解し、再現する。でも一時間が経っても私はおろか誰一人出来ていないようだった。

「うーん、やっぱりあの子のようにはいかないか、まあ予想はできてたけど」

「あの子って言うのはシータよね。シータはどのくらいの時間で出来たの」

「あの子は確か三日位かかったかな。それでも早いほうだけど」


「そう」

「でもあの子はフェンリルだしマナの扱いは魔物や魔獣の方が優れているから何ともね」

「まあ、みんなマナの扱いは一か月を目標に頑張ってみよう!」

「わかったわ」「…頑張る」

「分かったのよ」「ええ」



「久しぶりだぜ酒はよ」

「どうしたドルガ。そんな金どこで手に入れた」

「なに、ちょっとな」

「まあいい、俺にも飲ませろ」

そう言って俺達は酒場に入り酒を注文した。


「ドルガ、お前盗んできたのか」

酒場の店主に酒を頼むなりそう言われた。

「ちっ、真っ当な金だよ。それよりさっさと酒よこせや」

「はいよ」

店主は渋々ながらも酒を持って。くる。

それをつまみと飲みながらだらだらと時間を過ごした。


「あー俺しょんべん」

そう言って連れが席を立つ。

すると誰かが店に入る、最初は気にも留めなかったがこちらの席に向かってくるのでそちらを見る。

「狼追い、お前さん随分面倒な客を連れ込んできやがったな」

「あー会員制の店だったけ?忘れちまってたわ。あとなジジイ俺を狼追いって呼ぶんじゃねえ」

「うるせえ、それよりだ。お前さんに一つ頼みごとがある」

「あ?何だジジイが俺に頼み事?笑わせるな」

「黙って聞け」

そう言うジジイは随分真剣だった。


「お前さんが連れてきた客、あれはフェンリルだ」

「……おいジジイ俺がそれだけフェンリルを追ってきたかは知ってるだろ。つまらねえ冗談を言うとぶっ殺すぞ」

「悪いが、お前が嫌いだからって嘘はついてねえ。あいつは正真正銘のフェンリルだ」

「……どっからどう見ても人間だった?いやフードをかぶって獣人?でも魔獣が人に化けるなんて」

「ありえない話じゃ無い。まあ、話を聞けよ」

「デルが買われた、取り返してこい」

「デルってあの半狼のか?」

「そうだ」

「俺があんたを嫌ってる理由を知ってるはずだろ」

「ああ、だがそれを踏まえた上で頼んでいる」

「…………」

「あの子だけは渡せない。それにお前の恨みも晴らせるし一石二鳥だ」

「受けるなら後で店に来い」


「……」

「じゃ、頼んだぞ」

「けっ」

俺はそう吐き捨てた。



「皆、休憩しよっか」

「ええ、そうね」

「……うん」

「そうね、少し疲れたかしら」

アリューにマナの扱い方を教わり始めて数時間が経った

少しも感覚がつかめていない。

アリュー曰く一か月でモノにできると言ってくれたので頑張ってはいるのだけれど。

「ねえ、アリュー一つ聞きたい事があるのだけれど」

「ん?なに?」


「精霊が個の為にここまでするなんて聞いた事が無いのだけれど」

「ん~、確かに精霊は個に執着することは珍しいね。でも僕はあの子が気に入っているんだ」

「何で気に入ってるかとついでにどうやって会ったか、聞いてもいい?」

「いいよ、教えてあげよう」


「あの子はね、五年くらい前ある森で出会ったんだ。あの子はとても寂しそうで悲しそうだった」

「その時にあの子に話しかけたらね、案外すなおで可愛い子だった。復讐のために力を求めてた」

「復讐、人間を恨んでる事は分かるけど一体何があったの?」

「それは、あの子は人間に母親を殺されているんだ。色々あったらしいんだけどその事を僕はそれ以上知らない」

「そうなの」


「それで、力を欲してたあの子に色々な魔法を僕は教えた。それからは一緒に過ごすようになっていった」

「頼られて、僕は嬉しかった。精霊は独りぼっちが多くてね。僕も寂しかったんだ。あの子と居る時間は楽しかった。本当に」

「だからあの子には幸せになって欲しい。あの子の笑顔が見れるのならば何でもする。僕の命を懸けてもね」


「そうだったの」

「アリューは優しいの」

「……アリュー好き」

「いい話じゃない」

「わ、私もそう思います……はい」


周りにはいつの間にか皆が集まっていた。

アリューの想いを聞いて皆、思うところがあるようだ。

「さて、そろそろ再開しようか。みんな頑張ろう!」

私達はアリューの掛け声とともに再び訓練を開始した。



まぶたを閉じるといつも浮かんでくる光景がある。

滅ぼされた村と血に濡れた銀色の毛並みをした狼だ。

それから何十年フェンリルを追い続けたか。

4年前フェンリルは日銭を稼いでるクエストで突然現れた。

そのフェンリルを俺は殺し損ねた。あと一歩だったのに。

武器のせいだった。普段使っている物は鍛冶屋に出していて。

持っていたものは鈍らだったから。

フェンリルを逃がして俺に残った者は喪失感だけだった。


やる気を失って何ににも気力が入らず。浮浪者に落ちた。

もうこれでいいと思ったのに、もうあきらめたと思ったのに。

何の因果だクソ野郎!これがなければ俺は諦めがついたのに。

そう思いながら戸を開き階段を降りる。


「よう、来ると思ったぜ。狼追い」

「ジジイ、ここに連れてきた理由はなんだよ」

「お前はまた、フェンリルに挑むんだ」

「それがどうした」

「これをやる」

ジジイが何かを投げてくる。

それを受け止めるとそこには短剣が包まれていた。


「これは……」

「俺の持ってるやつで一番の業物だ。それをお前にくれてやろう」

「そしてこれがそのフェンリルの居る場所だ」

ジジイは地図を取り出し丸された所に指をさす。

「居る場所?拠点でもあるのか」

「ああ、この先にある森の中にフェンリルは住んでいる」

「そうか」


「ところで狼追い、腕はなまってねえだろうな」

「さあな、知らん」「そうか、なら行け」

「言われなくてもだ」「はっ、そうかい」

悪態をついたまま俺は店を出る。

地図で示されていた場所を見てそこまで行くのに二週間かかるな。

短剣が包まれていた包の中には他にも多少の金も入っている。

「どれだけ親バカなんだよ。ジジイ。少しは半狼の子だって外に出たいだろうによ」

そう言いながらも足は森へと進んでいた。

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