烏合の衆

 基本的に空間は自然のマナで埋め尽くされている。それを私は乗っ取り自分のマナにできる。

 本来なら膨大なマナを使うこの魔法をノーリスクで使える。


「空間魔法?何をしたんですか?」



 見た目は何も変わらない。この真っ黒な空間では何も。

 でもはっきりと効果が私には分かる。この空間は私が使える魔法が無造作に決まりなく発動する。



 そしてすぐ【烏合の衆】は発動した。風の塔がユニバース77を襲いさらに【鴉々】も同時に発動した。

 ユニバース77は必死に避けるが攻撃は当たる。でも傷はつくがやはり大して効いていないようだ。



「畳みかけるってこういう時に言うのよね?」


【悪高鴉鳥】アクノトリタチ



 風の矢を二本、三本と放つ。ユニバース77はその矢を弾くが、途中で向きを変えユニバースに当たる。



「うーん、やっぱり制御が難しいわね」


「痛い、痛い。流石にこれは堪えますね」



【蒼剣ソデモダ】の防御力上昇と自動回復はやっぱり厄介でどうしても押し切れない。


「でも、やっぱり私の方が強いですね」


 ユニバース77が私に向かって剣を振るう、その刹那……

【烏合の衆】から発動された【鴉々】がユニバース77の体を貫く。


 それは二つ同時に重ねて詠唱されていた、私の出来なかった重複詠唱。

 威力が上がり始めてユニバースに傷らしい傷をつけた。



「……少し、イラつくんですよ」


 ユニバース77は剣を地面に突き立てる。するとそこから剣山の様なものが地面から生えてくる。



 不味い、と思った時。



 それを【烏合の衆】は風の刃で破壊する。無論【烏合の衆】で破壊できたのは偶然だった。

 だがその偶然それは言わずもがな、チャンスだった。



【悪高鴉鳥】アクノトリタチ



 その攻撃はユニバースに直撃し、大きく後ろへ後退させた。



「小細工を!」



 私はすぐ目の前まで迫っていた剣山を避けれずそれに貫かれる。

 突き刺さった剣山は容赦なく私にダメージを与えていく。



 痛い、痛い……でも、これで良いんだ。



 ユニバース77の手から【蒼剣ソデモダ】が離れた。




 この時両者の思考は一致した。

((相手より速く【蒼剣ソデモダ】を取る!))




 両者の距離はほとんど同じ、走れば数秒で届く位置にあった。


(転移魔法にはマナの組み立てがいるから数秒はかかる。否!やってみせる、コンマ何秒でのマナの組み立て!)


 ユニバース77は心の中でそう叫び、転移魔法の組み立てを始める。



「やってやりましょう!」


 ユニバース77がそう叫ぶ。



 私は走り出すと同時にユニバース77に【鴉々】を唱えた、だがその瞬間ユニバース77の姿が消えた。

 私は【鴉々】を空に向かって唱える。



「残念でした、私の勝ちです」



 転移魔法を使ったのだろう既にユニバース77は【蒼剣ソデモダ】のすぐそばに転移していた。



 でも、まだ終わっていない。


(今この空間は、いや、全世界は私のマナで埋め尽くされていると同義。なら)


 本来、遠距離に魔法を発動させる場合、魔法を発動される場所は自分のマナで埋め尽くされてなければならない。


 そして今この状況は実質的にその条件を満たしている。



 私は唱える【悪高鴉鳥】アクノトリタチを。

 それは【蒼剣ソデモダ】を弾く。弾かれた【蒼剣ソデモダ】はこちらに転がってくる。


「こういう時に言う言葉は知ってる?『チェックメイト』」


 そう言って私は【蒼剣ソデモダ】を手に取り、ユニバース77に向かって突きつける。



「覚えておきますよ」


「逃げないの?」


 転移魔法で相手はここに来た、なら転移魔法を使えばすぐにでも逃げれるはず。


「私は意味なく作られたんです。なら最後くらい潔くいきたいと思いました」


「……そう」


 剣を振る、蒼い斬撃はユニバース77を襲う。それを避ける素振りも無くユニバース77は蒼い斬撃を受ける。


 そうしてユニバース77は倒れた。


「はー……疲れた」


 私はその場で大の字になって寝転がる。


 ユニバース77を殺してもこの空間は無くならない。


 私は転移魔法を使えないしこの空間の破壊を試す元気もない。


 もう私にできる事は待つことくらいだ。


「これ、もらっちゃって良いわよね」


【蒼剣ソデモダ】の模造品を眺めながらそう呟く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る