故障品

「さっきまでとは違う場所。ここに居ない人は逸れたと見よう」


エフレンがそう言う。ここに居るのはエフレン、サーシャ、ルウの三人。


「……とりあえず、あそこに居る奴ら何とかしない?」

「いかにも臨戦態勢って感じなの」


目の先には何十体のユニバース達が居た。


「私がやる、下がってていいよ」


エフレンがそう提案する。


「……私も戦う」


「全員で行く、当たり前なの」


「そ、じゃあ私先に行くから」


エフレンがそう言って前に出る。そして両手に銃を構える。

その二丁の銃を交差させてユニバース達に構える。そして唱える。

【白炎】【黒炎】と。


それは白を基調とした銃と黒を基調とした銃。

そして装飾に黒と白が使われていて、色で言えば正反対の銃。


その二丁から放たれたのは白と黒の弾丸、着弾と同時に白い炎と黒い炎が噴き出す。

攻撃を食らいユニバースは倒れる。


「……私達も、行こうか」

「あいつは随分せっかちなの」


そう言いながら二人は前に出る。


「……じゃあ、手分けして倒そう」

「了解よ」



「誰なんだよ、お前」


他とは違う濁った右目のと赤髪。その容姿は女性と言うよりは男性に近い、それもかなり中性的な。


「名乗る必要、ある?」

その声は何処かやる気を感じさせない。


「今殺す奴の名前くらい知っても損は無いだろ?」


「……確かにそうかもね、僕は故障品の中の一人、名前は無いからエラーズとでも呼んでくれ」


「エラーズねえ。まあ、覚えとくよ!」


そう言ってデルは【閣屋】から【天逆之矛矛】を取り出す。


「やる気だね、まあやろう……」


デルとエラーズの戦いが始まる。




デルがエラーズに駆けると同時、【閣屋】からリボルバーを取り出しエラーズに発砲。

だが、その弾丸はエラーズに着弾する前に黒い何かに弾かれる。


「磁力……」

デルの呟きが聞こえる。


「正解……僕の魔術【磁界塊自】じかいかいじは磁力を操る」


「その周りにうよついてる奴はなんだよ」


「磁性流体……オリジナルがくれたものだから僕も詳しくは知らないな」


その液体はエラーズの周りに漂い、まるでエラーズを守るようだった。


「まあ、どうでもいいさこいよ!」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


エラーズが指を弾く、それと同時に磁性流体は弾丸のように発射される。

それをデルは結界魔法で防ぎエラーズに詰め寄る。


デルは【閣屋】からナイフを取り出しエラーズに投げる。

だがそのナイフは磁性流体によって防がれる。


「まあ、だろうな」


デルはそのナイフを囮にしてエラーズのそばまで近づく。

そしてデルは【天逆之矛矛】をエラーズに向かって振るう。


だがそれも磁性流体によって止められる。すぐさま磁性流体を切り刻みエラーズに剣を振るうが後ろから磁性流体が迫り武器に巻き付かれる。

そうして止められている間に磁性流体は鋭くなってデルを襲う。


デルは【天逆之矛矛】を諦めその場に捨て、その隙に【閣屋】から銃を取り出し発砲する。

放たれた弾丸は磁性流体に防がれ、磁性流体によってさらに追撃される。

その攻撃は結界を貫通しデルに直撃する。


「ぐぅ!」


攻撃を受けたデルは一度距離を取る。


(あの……磁性流体?はとにかく隙が無い。見るにほとんどオートガードそれに攻撃までできて遠距離攻撃すらこなしやがる)


「来ないならこっちから行くけど」


そうデルが考えて居るとエラーズがまたも指を鳴らす、するとエラーズの周りに磁性流体が集まり球体を成す。


【塊極磁電】かいきょくじでん


そしてその球体がデルに向かって加速し放たれる。


【痛之別】つうのべつ


それに対しデルは空から人一人を覆えるほどの巨大な盾を出現させる。

そして盾に磁性流体の塊が被弾する。


その瞬間、デルの体に痛みが駆け巡る。勢いは死なずデルは後方に吹き飛ばされた。


「がぁ!」


「速く立ちなよ、君が唯一の僕の最後の立会人なんだから。見届けてくれないと困るよ」


「最後?随分弱気だな、この状況で。煽ってんのか?」


「いや、まあいいよ」



僕は二日前に生まれた。生まれて初めて言われた言葉は酷い物だった。

「やれやれ、唯一の成功がまさか君みたいな故障品とはね」

そう言ったのは僕のオリジナルだ。


「君の寿命は後三日だよ、折角魔術を持った個体が作れたのに残念でならない」

オリジナルはそう言う、どうやら僕は失敗作だったようだ。

続いて言葉を言う、僕が何かを言う時間も与えず。


「まあ、一応生まれてきたんだから少しは役に立ってくれ。君を解剖でもして後に役立てようか」

そう言ったオリジナルは準備を進める、それを僕は黙ってみているだけだった。


見ているだけなのに、恐怖が恐れが僕を襲った。その時初めて意思を持った。

刃がオリジナルの頬に掠る。それは近くにあったナイフのようなものだ。


「何?反抗期?」


オリジナルはそう言う。だが僕は止まる事を知らなかった、鉄を飛ばして殴りかかったり色々やった。

だけどオリジナルに当たったのは最初の一回だけだった。


「君は愚かだよ、全く哀れで滑稽だ」

オリジナルはそう言うと僕を見下ろしながら言う。


(死ぬ……嫌だ、死にたくない)

オリジナルが僕に背を向ける。


「まあ、短い人生を少しでも伸ばしたいなら好きにすればいい」

そう言ってオリジナルは部屋を出ていった。


どうして今思い出したのか。そうエラーズは考える。

それは走馬灯だったのかもしれない。人より少し短い走馬灯。


「ああ、立ってやるよ。てめぇの焦る面見た後な!」


バァン!と銃声が響いた。それは真横、エラーズにとって予想だにしていない場所から。

【破銃】その弾丸はデルが引き金を引かずとも発射できる。


その弾丸はエラーズに向かって飛ぶ、エラーズは気を取られ横を向きその弾丸を自身に当たる直前で止めた。


だがデルはその隙を見逃すほど甘くない。息を大きく吸ってエラーズに近づく。

「閣屋!使わせろ!【白華一将】」


そう言ってデルは空から白い杖を取り出す。

デルの【白華百将】【白華十将】【白華一将】は自分の力を順番に百等分、十等分、一等分した魔物を作り出す杖である。


つまり今デルが使っている【白華一将】は自分の分身を作り出す武器と言って過言ではない。

デルが杖を突く、すると現れたのは体全体が白く姿はデルとよく似ている、が顔には目も鼻も口もないまるでマネキン人形のような魔物だ。


「行け」


デルの一声で白華一将は剣を【閣屋】から剣を取り出しエラーズに斬りかかる。

だがエラーズはそれを磁性流体で防ぎ白華一将を磁性流体で突き刺す。


だが痛みは怯む理由にならない、突き刺された白華一将はエラーズにしがみ付く。

「離、れろ」


エラーズが磁性流体で白華一将を攻撃するが、白華一将は磁性流体を離さなかった。

そしてデルは磁性流体の中に手を突っ込む。

「みっけ!」


磁性流体の中から【天逆之矛矛】を引き抜く。「白華一将!離さずそのまま抑えてろ!」

デルはそう言うと【天逆之矛矛】を構えエラーズに切りかかる。迫る磁性流体を切断、切り刻む。


「慣れてきたぞ、お前の磁性流体」


デルはそう呟くと迫る磁性流体を片っ端から切り刻む。

エラーズは今ようやく、白華一将を引きはがす事に成功していた。


「調子に……乗るな!」


エラーズはデルに向かって【塊極磁電】を撃つ、だが白華一将が盾となりデルを守る。

そうしてデルはようやくインファイトに持ち込んだ。


エラーズはデルの攻撃に対し磁性流体を防御に回すがそれはデルに届く前に切られ落ちる。

【天逆之矛矛】でエラーズに一撃、一撃、また一撃とエラーズに攻撃を与えていく。

エラーズは反撃する隙が無かった、デルの猛攻がそれをさせなかった。


(でも、これで僕は死ねる。どうせ散る命、ここまでやれたら満足……満足?)


エラーズはふと思った、ここままで満足かと。いや、この短い人生に満足なんてない。


(満足なんてしていない!……デル、君を殺して最初で最後の親孝行をしてやるよ、オリジナル)


「死に花にしてやるよ!デル」


その言葉と共に放たれる異様な圧にデルは思わず距離を取る。


「【磁界塊自】」

エラーズに磁性流体が纏わりつく、それはまるで鎧のように形を成した。

【苦磁の列】きゅうじのれつ


「僕の最後の抵抗だ、付き合ってくれよ!」


その言葉にデルはニヤリと笑った。

「ああ、勿論だ!」

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