願いと願望
「起きたみたいだね」
「アリュー」
目を覚ますと目の前にはアリューがいた。
周りを見るとここは拠点の中らしい。
「危ない所だったよ。回復もせず戦うなんて」
「ごめん、でも頑張ったよ」
「うん、そうだね。よくやった」
アリューは私の頭を撫でてくれる。
「アリュー、私の魔法はどうだった?」
「凄かったよ、あんな魔法初めて見た」
「そう?なら良かった」
「でも、危なかったなら僕を呼んでほしかったな」
アリューが少し怒った顔でそう言ってくれる。
「……怒るかもしれないけどあの時。私は自分と相手以外全てを忘れてた。何もかもきっとアリューも」
「そうだったんだ」
「だから、ごめん」
「良いんだよ。生きてるなら」
「……うん」
アリューがなでるのをやめようとする。
その手を掴んで止める。
「もうちょっと」
「はいはい」
アリューはまたなでてくれた。
★
少ししてから部屋を出ようとドアノブに手をかける。
その手を見ると無くなったはずの右手が戻っていることに気付く。
「アリューこれって」
「僕の魔法で繋いだんだ。まだ完全じゃないと思うから無理しないでね」
「うん」
ドアを開ける。そこにはノア達と獣人達が居る。
そして皆々心配の言葉をかけてくれる。
「シータ起きたの大丈夫!?」「……心配したよ」
「よかった、大丈夫そうね」「し、心配させるんじゃないのよ」
「大丈夫ですか、シータ様」「何やってんだよ」
皆が私を心配している。私の居場所がある。
「ありがとう」
そう言いながら私は笑顔になった。
★
ドルガとの戦闘から二週間がたった。
これと言って変わった事はない。当たり前だ。
いや変わったことはある。それは獣人達やノア達と信頼をきずけたことだろう。
距離が近くなった。そう感じる。
でもそれはそれとして。
「暇」
「……そうだね」
でもそれが普通なんだから。仕方がない。
ちなみにアリューは私の膝の上でくつろいでいる。
「そういえば、何になってるの?」
「キツネだよ、キツネ」
キツネ言われてみればそうだ。
耳と尻尾が生えている。毛並みが気持ちいい。
「ふふ、くすぐったいなぁ」
「くすぐったいの?やめる?」
「いや、続けていいよ」
ふふふ、と笑い声を出しながらアリューは答える。
「こんな所にも耳がわるんだけど」
私の耳を触りながらノアがそう言った。
「確かに、くすぐったい」
「そう、なら止めとく?」
「続けていい…」
そうノアに返すと何か考えて。
「そ、なら続ける」
そんなやり取りをしていると誰かが入ってくる。
「あら、アリュー様。その姿は」
「ん?ああユナ」
ユナ、獣人の中のひとりで狐の獣人だ。
アリューが似合うからと和服を渡したのがきっかけでそれ以来ずっと着ている。
「私達とおそろいですわね」
私の膝に居たアリューをひょいと持ち上げると自分の頭の上に乗せた。
「こら、返して」
「嫌です」
「ん~人気者は困るね」
そんな風にふざけ合っていると。
時間は経っていった。
★
コンコンと扉を叩く。
返事は来ないので扉を開け中に入る。
そこには一人の男が座っている。
「狼追いか……違う、お前は!」
「狼追い、確かドルガは自分の事をそう言ってたな」
「お前さんが来たって事は…ドルガは死んだのか?」
「ああ、私が殺した」
「クソ、あいつめ。腕はなまってんじゃねえか」
「そんな事はない。ドルガは強かったさ」
「ただ、最初から最後までやる気がなかった。簡単に死を受け入れて。声には覇気が無くどこかけだるそうだった」
「そうなんだな。まあ、何でもいいさ……それでお前は何をしに来たんだ?」
「お前はそれを分かってる」
「ああ、そう、だな」
店主は立ち上がり、裏の奴隷売り場の方に逃げていく。
(魔獣避けの障壁まで逃げろ。ここで死ぬわけに)
「……【線天】」
光は店主の頭を貫いた。
カーテンで仕切られた奥の部屋でドサッと音が聞こえる。
「帰ろう」
★
その後、何事も無く拠点に帰る事が出来た。
ただ、店主は殺してしまうべきだったのだろうかと悩んでしまう。
デルには何と言おうか、考えがまとまらないうちに拠点に帰った。
「シータ,おかえり」
「うん、ただいま」
「ねえ、アリュー。皆を集めて?」
「どうしたの」
「伝えたいことがある」
「分かったよ」
★
皆が集まる。
獣人達、そしてノア達。
「どうしたのシータ?話って」
「私は、私のエゴの為にお前たちを動かす。少し前までそれで問題ないと思ってた」
「でも、それじゃ嫌だ。お前達が私のエゴの為に動くように私もお前たちのエゴの為に動く」
言葉を言い終わるが皆、ポカンとしているように見える。
(……私の言った事伝わらなかった?)
「…どういうこと?」
ノアがそう言う。
「いや、えっと。もう格好つけるの止め。要は全員の目的を全員で叶えるってこと」
「何か目的があれば、話してほしい。出来る限り協力を私含め皆でする」
「……シータ様、いきなり過ぎます。思いつきませんよ」
そう言ったのはイーライだ。他の皆もウンウンと首を縦に振っている。
「そ、そう。ならじっくり考えてくれ」
「……うん」「はい」「分かりました」「了解」「うーん」「そうだね」「そうしよう」
それぞれバラバラの返事が帰ってくる。
だが、皆が納得してくれたみたいで良かった。
「皆笑ってる。君は案外リーダーが似合うみたいだね」
アリューがそう呟いていた。
「いや、似合わないよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「ねえ、君は目的を僕の目的も叶えてくれる?」
「?当たり前だよ。アリューの頼みなら」
「そっか、ありがとう」
アリューはそう言いながら笑っていた。
「じゃあ、いつかでもいいけど見つけてくれるかな、ラプラスの悪魔を」
「ラプラスの悪魔?」
アリューがそう口に出す。
「ちょっとした旧友でね。今は悪魔なんて呼ばれてるらしいんだけどね」
「悪魔じゃないの?」
「ん~まあ、この話は良いよ。探すのも後回しで、力も入れなくてもいいさ」
「あの子は僕と同じ永久の時を生きる子だからね。いつか会えるよ」
アリューはそう言った。
確かにそれなら急いではしなくてもいい
「わかった。約束する」
「ありがとう」
アリューは嬉しそうに笑う。
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