善悪の無い選択

「終わったか……」

結局エルフ達は壁に阻まれ一人残らず【クラウ・ソラス】の光に飲まれた。

そう勇者が確信した時が勇者がいた場所に一つの矢が飛んできたのだ。

勇者が視線を向けるとそこに見えるは二人のエルフだ。

「もう、これしかないでしょうウォルター」

「そうだな。このまま逃げ帰っても結末が同じなら、ここで勇者の一皮裂いてやるぞバートル」

「ええ、そうですとも!」

ウォルターとバートルと呼び合っていたエルフはこ勇者を睨む。

「どうやって【クラウ・ソラス】から逃れたかはこの際どうでもいい。だがこれ以上悔いを重ねたくはないだろう、逃げる事を許そう」


勇者は街中にある躓きそうなゴミに向ける目と同じ目をバートルとウォルターに向け言い放つ。

勇者はそう言い放つが、バートルにはそんな言葉は耳に入らない。

「行くぞ!」

「ああ」

バートルが魔法で剣を作り勇者へと突っ込む。

だがバートルは何かをはがす動作をすると突然消えた。

(大方、別空間に行けるような魔術か……なるほどそれなら【クラウ・ソラス】をもしのげるかもしれない)

勇者はそう納得する。

「はぁ……お前達が何をしようとどうする事もできないぞ」

勇者は呆れながらそう言い放つ。


「馬鹿め!」

バートルは勝ち誇った顔でそう言って、消えたはずのバートルが突如現れる。

勇者はつまらなさそうに上を向いたその隙にバートルは背後に回り込み剣を振り下ろす。

それを見ずに素手で掴み、握りつぶし肘打ちで顔面を砕く。そして怯んだところに髪を掴み地面に叩きつけた。

「がはっ」

バートルはどうもできず、倒れたままだ。


だがそんな光景を見てもなおウォルターの闘志は折れてい無さそうだった。

そんな男の姿を見て勇者は一言。

「まだやるのか」

勇者の目は冷めていた。

「当たりま」

「一つ、言わしてもらう」

ウォルターの言葉を遮り勇者は話し出す。


「これは戦いではない、剣闘士に到底勝てない魔物を繰り出すのと同じような、ただの処刑だ」

その言葉にウォルターはただ何も答えず魔法を放つ。

【雨爆一週】うばくいちしゅう


勇者の周りを赤い光が囲む、それは勇者が動くと同時に爆発する。

すると円柱状に渦が出来上がる。

その爆発の渦中に勇者はいる。だが勇者はその渦をものともせず、その爆発の外へと出た。

「お前は何を望む、今から起きるお前に死に、何が起きれば満足だ?」


「……俺の望みはお前の死だ、お前が居るからこの世界のバランスが崩れる。お前が死ねば!何十万人のエルフが歓喜するだろうな!」


「それは不可能と言う物だろう」

「やるだけやるんだよ!」

空間魔法

【爆轟裂開】ばくとれっかい


そうウォルターが言い放つと辺りの風景が一変する。

その空間は、明るかった。

強烈な明かり、随分と巨大な太陽が空間を照らしている。

そして城壁が現れウォルターはその上に立っていた。

「これで全て終わりだ」

「そうだな」

勇者はそうやる気のない声で言う。


(リミットは三分!これをたえればこの空間の太陽が爆発し、俺の一番の攻撃が炸裂する。そればかりかこの空間に引き込んだ時点で圧倒的に俺が有利だ!)


そう意気込んだウォルターであるがただこの状況を見ると。

ウォルターは死にそうな顔をして、勇者は顔色一つ変えずただそこに立っている。

「元々消耗もしているだろう、なのに空間魔法。命を削ったか」

勇者の言葉にウォルターは言葉が出ない。

(こいつ、そこまで)

「黙れ!」


城壁の上にある砲台から弾丸が射出され勇者を襲う。

だがそれは途中で爆発する、その爆風の中からウォルターは猛スピードで飛び出してくる。

勇者はそのウォルターをただ見ている。

そのスピードのまま勇者に触れ手のひらから起きる爆発をくらわせる。

「少しはきいたか……」

ウォルターは勝ち誇って言うが、勇者の体は無傷だ。

「あ……クソ!」

今度は左手を突き出し爆発を勇者に当てるが結果は変わらない。


「下らないな【グラム】」

勇者は【グラム】と呼んだ剣を後方から飛ばす、それはウォルターの胸に突き刺さり吹き飛ばされる。

「ぐはっ」

ウォルターは地面に倒れ込んだ。


「……クソ!クソッ!クソが!テメエら全員死んじまえ!何が悪だ!生まれただけだ!俺達は生まれただけなんだ!それなのに何で虐げられる!」

勇者はウォルターのそんな叫びをただただ聞いている。


「俺達が悪者ならお前たちはなんだ正義か!保身と自己顕示と腐ったような匂いのする欲望しかねえくせに!偽善と語るのもおこがましい物をさも正しそうに振りかざしやがって!」

「お前達は悪だ!お前が悪だ!」


勇者はそれを聞いても顔色一つ変えない。

そしてまたウォルターに言う。

「違うな、私は正義だ悪だなどと言う考えはとうの昔に捨てている。何が正しくて何が悪いか、はぁ……そんなものいくら考えても終わらない」


「人に理解しえないことなど星のようにある善悪もその一つに過ぎない」

「善悪をかなぐり捨てて、大多数の望んだ未来の為に動く。それが善悪の無い私の選択だ」


「何を言って……」

ウォルターは勇者の言葉に絶句する。

「もういいか、終わらそう」

「【曇天穿つ巨神の剣】」

勇者はそう呟き腕をあげる、だが何処にも何も見えない。

(何が来る……)

ウォルターはそう思い勇者の方を見る。

(何もな……い)


だがそれは間違っていた、勇者が腕を振り下ろすとこの空間【爆轟裂開】が真っ二つに割れる。

その光景に思わず後ずさりした瞬間ウォルターの体もまた真っ二つに分かれた。

「なん……だと」

そう言葉を残しウォルターは真っ二つになる。


「ただ、この殺しに罪を感じないわけではない」

勇者は真っ二つになり死んだウォルターを見ながら呟く。

「そして、これだけは言える、お前の怒りは正しいと」

そう勇者が呟くと勇者は歩き出す。

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