勇者の惨状
「酷い有様だ」
転移した先の光景は言葉の通りだだった。
血と死体が至る所にあり、惑う市民と戦う兵士。
そして城や街の至る所から火の手が上がっていた。
その光景を空から私は眺めている。
「眺める必要もないか……さっさと終わらせよう」
そう言って私は魔法を唱える。
「【転移】」
それは私を連れて行くものでは無い、この国にいるエルフを別の場所へと送る。
この国にいる全てのエルフを、一人残さず。
「誰も殺すことなく終われば、楽なんだがな」
そう言って私はエルフを飛ばしたところへと転移する。
★
飛ばしたエルフ達は困惑を隠しきれないようだった。
「何が起こってる!」
「落ち着け、辺りの確認をしろ」
口々に騒ぎ出すエルフ達。
そんな時先頭に立っていた男から一本の矢が放たれた。その矢は私の方に飛び結界に突き刺さる。
その矢は同時にエルフ達の視線を向けた。
「奴だ、勇者だ」
その一言でエルフ達の警戒は最大まで上がる。
それと同時に多種多様な声が聞こえる。
「エルフよお前達はどうしたいのだ。復讐か?報復か?」
私はそう問いかけた。
「そうだな、私達の一番の望みは。貴様の死だ!」
先頭に立っていたエルフはそう言うと他のエルフに命令を下した。
「行くぞ皆!ここで500年の同族の悲願を終わらせる!」
その言葉を合図に他のエルフ達が私の元へと走ってくる。
「そうか、そうだな。私では対話など許されないか」
「仕方がない、仕方がないんだ」
そう自分に言い聞かせる。
★
バートルは思っていた。
(少し欠けたが2,000対1いくら相手が勇者であろうと屠れるさ)
そうバートルが余裕の笑みを浮かべたその時、突如として悪寒が走る。
「【五宝剣】」
そう勇者が呟くと五つの巨大な剣がエルフ達の周りを囲んだ。
剣と剣の間に壁ができ、エルフ達は逃げ場を無くした。
だがそれに億しもせずエルフ達は、勇者へと向かっていく。
勇者は浮かび上がり、少し迷い一言呟き魔法を唱えた。
「苦しませるべきでは、ないな」
「【クラウ・ソラス】」
現れた一振りの剣を掴み、エルフの列へと投げた。
その剣を中心に青い光が徐々に広がる。
「避けて進め、触れるな!」
ウォルタ―がそう言った瞬間、光は行きよい良く広がりだした。
その光を何人かは避けられず、触れた部分は一瞬にして消え去った。
その事に一人が困惑しているとそのまま光に飲まれていく。
「あ、ああああああ」
「逃げろ!その光から!」
悪寒は的中し地獄が始まる。
「逃げ場はないぞ」
勇者はそう叫び、光の範囲を徐々に広げていく。
「こっちにはこれない、逃げろ!」
ウォルタ―がそう叫ぶ。
光はエルフの移動速度と同等かそれより少し遅いくらいの速度で広がる。
剣の近くにいたエルフは逃げようと後ろを振り返るがさらに後ろのエルフはその光景と言葉に気付かず、後退が遅れ徐々に光の範囲へと入る。
そしてその光景をみたエルフが慌てて我先にと後ろに下がると逃げ遅れた順にエルフが光に入ってしまう。
「速く、速く行け!」
「誰か、誰か助けてくれ!」
そんな声を上げながら次々に光はエルフ達飲み込んでいく。
ここで全員が異常に気付きエルフの軍は後退していく。
★
数分が経ちエルフ達の闘志折れ、ただひたすらに逃げていた。
エルフが一人光にのまれるごとその悲鳴が響く。
その助けを求める声が響く、その絶望が濃くなる。
「止めてくれ!頼むー!」
「嫌だ、こんな簡単に」
その光景を見て勇者は。
「は、ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハ」
それが笑いなのか、自分でも分からないような笑い。
例えるなら、疲れ切った人間が笑うような、そんな笑いを勇者は続ける。
「ハハ、ハハハ」
笑っていた時に突然勇者は口を抑える。
「うっ」
胃から酸っぱい物がこみ上げてくるのが自分で分かる。
勇者は胃からこみ上げてくるものを必死に抑えようとする。
(駄目だ、吐くな。そんな権利が何処にある)
勇者はそう思い込み上げる物を抑えた。
「はぁ、はぁ。天国には行けないだろうな、私は大量殺戮者だ」
★
【クラウ・ソラス】の光に巻き込まれないようにエルフ達は必死に逃げる。
(何なんだよあれ、格が違うなんて話じゃない!勝ち目なんてなかった)
逃げる中、フォードは唇を噛む。
(なんでなんだよ!なんで世界は俺達にこんなにも理不尽なんだ、分相応な夢すら許されないこの世界で必死に生きたのに。その対価がこれかよ)
フォードは涙を流しながら逃げる。
(死にたくない、最初から望まなきゃよかった、そうしたらまたあの生活に……)
そう考えていた時、足を躓かせてしまう。
「待ってぇ!みんなぁ!」
だが後ろのエルフ達も止まらない、自分たちが少しでも生き延びるために。
「避けてくれ!まだ死にたく」
そう言いかけたところで後ろのエルフ達が通る、フォードの叫びも虚しくフォードは同胞に踏み潰される。
(痛い、痛い、いやだ死にたくない)
「死にたくない!俺はここだ助けてぇ!」
フォードは叫ぶ。
その叫び声は誰にも聞こえず次々と来る同胞に踏み潰される。
腕、足、胴、顔、踏みつぶされ歪な形になる。
「ああぁぁぁ!痛い、いたい、イタイ」
フォードは叫ぶがそれに反応する者はいない。
「嫌だぁ、死にたくない 」
そんな悲痛な叫びは誰にも聞かれることがない。
同胞たちが通り過ぎたが、体は一つも動かない、だがその先に見えるのは近づいてくる光だ。
「あ、ぁ」
そしてフォードは光に飲まれ消え去った。
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