勇者の参上

「死ね!」

剣を振るい鎧ごと兵を叩き切る。

「いいぞ、フォード!」

「もっとだ、もっと。恐怖と不自由を与えるんだ」

フォードはそう呟き民家の中へと入って行く。

「おいフォード!五人一組で動けって」

「許してやれ、少しあいつは気が立ちすぎてる」

「そんなんでいいのかよ」


そう話しながらエルフ達は街を制圧していく。

一方フォードは。

「ああ、くせえ匂いがする。ででこいよ人間」

そう叫んでいた時の顔は、随分と楽しそうだった。

一通り家の中を散策して最後にクローゼットを開けたところで。

「みいつけた!」

一人の少年を捕まえた。

「ひっ」

「不自由を、恐怖を、不条理を。与えないとな!」

「やだ、やだ。来ないで」

「ああ、いい気分だよ。そうだもっと恐怖してくれよ、昔の僕みたいに、お前らに与えられた分以上に!ほらほら!」


フォードが少年の髪を掴み持ち上げると、右腕に狙いをつけ剣を振り上げた。

「あ、いやだ、止めて」

必死に絞り出した声で少年は言うがフォードは止まらない。

「これが不自由、そして恐怖」

声とともに少年に剣が振り下ろされた。

フォードは少年の遺体を地面に捨てながら呟く。

「次は不条理だ」



「王よ、準備が整いました」

「急いでアノートにつなげ」

通信魔法の魔道具を起動するとアルバートの顔が写る。

「速く、速くつながってくれ」

そう祈りながらアルバートは通信相手を待つ。

「おやおや、誰かと思えばアルバート様ではございませんか。一体どんなのご用件で勇者をお呼びに?」


そう、この魔道具はノアールがすべての国に配った勇者を呼ぶためだけの魔道具。

「時間がない、報酬は後でできるだけ譲歩する。頼む勇者を呼んでくれ」

「できるだけ、譲歩する。ですか」

その胡散臭い顎髭を触りながらアルバードの言葉を繰り返す。

「……分かった、どんなものでも譲ってやる。だから勇者を、呼んでくれ」


「了解しましたアルバート様、報酬の件は後々にゆっくりと話しましょう。すぐに上に伝えに行きますよ」

「それでは遅いんだ!頼むすぐ、今すぐに」


「……真剣なのは分かりました、一刻を争うという事ですか」

「できるだけはやってみますよ、それと後ろに気を付けて下さいね」

そう言って通信を切られた。

どういう事だと後ろを振り向くと一人の兵が扉の前に倒れかかっていた。


「血だらけだ、何があった」

「侵入者です、二人、一人は我が軍最強のモーガン様が食い止められておりますが」

「もう一人はすぐそこまで……」

兵士はそこで息を引き取った。

「済まない」


「王よ、私が囮になります。その間に逃げて下さい」

「何を言ってる、私はお前まで失うのか」


「聞いて下さい、貴方はこの国の未来です。貴方無きアノートに未来はない」

「王よ、衣類を取り替えましょう、そうすれば少しは分かりにくくなります」

「……分かった、どうか生きてくれ」

「それは私も願っております」

その後衣服を取り換え、別々の場所へと逃げる。



「違うな、お前は王じゃない」

「何を、私が王だ」

心臓に穴をあけられた男はそう言い放った。

「だが、清き男だ」

「ふ、もう王には追いつけない。でも私にはもう一度追いつくことになるだろう」

「地獄でな」


その言葉を最後に男は息絶えた。

「ああ、すぐに追いつくさ」

そう独り言を言うと、後ろから声が聞こえてきた。

「ウォルター、王はやれたのか?」

「いや、逃げられたみたいだ」

「そうか、晒し首にでもすれば国民の支えを無くせると思ったんだがな」


「バートル、お前こそあの兵士をやれたのか?」

「ああ、問題ない」

「さて、これからどう動くつもりだバートル」

「アルマンアイアン採掘場の様子を見に行ってはくれないか、私は王を探す」

「了解だ」

そう言って二人は別れた。



ドタドタと騒がしい音が響く。

その足音は段々と近づき、ついには私の家の扉を開けた。

「勇者様、緊急で連絡が!」

いきなり言われたその言葉で私はすぐに動き始めた。

「分かった、少し待て」

魔法で戦闘服へと着替え、兵士の元へと向かった。


「一体何があった」

「勇者様、それが北の小国アノートで緊急の応援要請が」

「……アノートか、わかったすぐに向かう」

そう言って、私は壁に貼られている世界協定地図を見て場所を把握する。

「勇者様の無事を願っております!」

「ありがとう、でもそれは私に向けるべきではないさ」

そう言って私は転移魔法を使いこの場を後にした。



城の地下にある地下水路。

そこでアルバートとバートルは対峙していた。

「ここまでか」

そうアルバートは呟くと、その場に座り込んだ。

「まさか、王自ら挑んでくるとは思いませんでしたよ」

そう目の前に立つエルフ、バートルが言った。


「私は貴様らに見せる背中など無い、私が背中を見せる相手は国民だけだ」

「そうですか、ですが……死体ならどうなるのでしょうかね」

「ハッ、お前こそ勘違いをするなよ」

アルバートは苦しそうな笑みを浮かべながらそう言い放つ。

「……何を?」

「俺がここまでと言ったのはお前たちの侵略に対してだ」

その言葉を聞いたバートルは呆れた顔を浮かべ反論する。


「侵略だと、違うなこれは報復だ、復讐なのだよ」

バートルは剣を振りかざす。

「そしてさよならだ!死ねアルバート!」

その言葉とともにバートルの魔法剣はアルバートへと振り下ろされた。

だがその刃はアルバートへと届くことはなかった。

それどころか、バートル事態アルバートの目の前から消えていた。

「……流石、お速い到着だな。勇者」

一人になったその場所でアルバートは呟いた。

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