消えない『汚れ』は
「ああ、お前は間違ってないよ……”お前’’はな」
お前は被害者だ、いつだって何も悪い事は無い。
でも俺は違う人殺しも虐殺も、俺の意思で、俺の判断でやった。
俺は善人ぶって、汚い部分を見ないで……。
いいや、見るのが怖かっただけだ。
ここに居る資格も無いくせに、笑顔でここに居る。
「ロジャーなにぶつぶつ言ってるの?」
森の中に小さな一つの村、何も知らない彼女は俺に笑顔でそう言った。
「……何でもない、すぐ行くさ」
でも、今は何よりもこの瞬間が心地いい、そう思えた。
此処は生き残りのエルフの村だ。数年前にに俺はこの村を見つけた。
エルフの殲滅を命令されてはいるが勇者の代わり以外に従う理由も無い。
そもそもこの虐殺に疑問が強くなっていった、それと同時に罪の意識も。
エルフの本音が聞きたくて、俺はエルフの村に足を踏み入れた。
でもそれは叶わなかった、この村にいたエルフは全員もれなく変わり者だった。
人間である俺を歓迎した、憎むことに疲れたと言った。
「マリー、今日は何だ?またキノコか?」
「当たり前でしょ。エルフの村の食料はキノコしかない」
マリーは笑いながら言う。
「なあ、マリー」
「ん?どうしたの」
「……いや、何でもない」
俺は彼女が好きだ、失いたくない。
でも、此処は危なすぎる。見つかりにくい森の奥地とは言え、此処は開けていて近くに来ればすぐに見つかってしまう。
もし、悪意ある人間でも来れば……。
パチンっとでこに弾かれた指が当たる。
「どうしたの?今日ぼーっとしすぎじゃない?大丈夫?」
「……ふっ何でもないさ」
「あ!笑った……」
マリーは嬉しそうに俺に言う。
「そんな事で喜ぶなよ……俺だって笑うさ」
「滅多にそんな事ないじゃない」
マリーは口を膨らませて言う。
「そうか?まあ、それなら皆の前では笑ってみるさ」
「それがいいよ!やっぱり笑顔が一番」
そう言って微笑んでくれるマリー。
ああ、そうだな。やっぱり笑った顔が一番だ。
★
今の人間達は平和を謳歌している、何万何億の屍の上の平和を。
そしてそれを作ったのは他の誰でもない僕だ。
もし、また人間達が戦争を始めればきっと僕はまた力を使うだろう。
また、人を殺すとき。僕は耐えられるだろうか、その重圧に、人の命の重さに。
「どうしたんですか?」
そう心配そうな声で話しかけてきたのはエプロンを着た。一人の女性だ。
「そんなに辛そうな顔して、何かありました?」
「いや……何でもないよ」
僕はそう言ってぎこちない笑顔を見せる。
「ん~そうは見えませんねー……そうだ!ちょっと待ってください」
そう言うと彼女は奥に引っ込んで行ってしまった。
何を?そう思っていた時だ、彼女が戻ってきて、手には赤い花を持っていた。
「この花何だか知ってますか?」
「いや……」
「ふふふ、これはねポインセチアって言う花なんです!綺麗ですよね……」
「うん、確かに」
彼女は本当に幸せそうな顔をして。ポインセチアと呼ばれた花を見る。
「この花には「貴方に幸あれ」って意味があるんです」
「貴方に幸あれ……」
「はい!貴方に幸があるように……って事で。受け取って下さい!」
そう言ってポインセチアと呼ばれた花を差し出す。
「あ、ありがとう……」
僕はそれをそっと受け取りその花を手に握る。
不思議と心が落ち着いたような気がした。
その時、顔を上げた僕の目に映るのは沢山の亡霊だった。
「……あ」
今までに殺した人達がそこに映る。僕の幸せを許さないように。
僕を見つめる亡霊。その目は恨みの目で僕を離さない。
『お前が憎い』『お前さえいなければ』頭の中に声が響く。
「う……」
息が荒くなる、頭が痛い。思わず頭を抱える。
「だ、大丈夫ですか!?」
『お前だけそっちに行くのか』
「団長……」
『分かってんだろ、俺が死んだのは俺がお前に肩入れしたらだって』
『なのに俺は死んで、お前は幸せになるのか?』
『貴方なんて愛してない』
「母さん……」
『貴方なんて拾ったばっかりに、私は巻き込まれた』
『拾ってから、後悔しなかった日は無かった』
次々と目に映る恨みの籠った顔。後悔してももう遅い、もう二度と取り戻せない。
「う、あああああ」
止めてくれ、二人はそんな事を言わない。
『そう願ってるだけだろ』
自分の声がする。
『そんな事に気がつかないふりをして、誰かに許しを請いて、自分を正当化して』
『間違っているかいないか、何でロジャーに聞いたんだ?』
『ロジャーはいつも気遣ってくれただろ、欲しい言葉をくれただろ。でもきっと本心じゃない』
「やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ」
頭を抑えながらそう叫ぶ。
ドサッという音と共にその場に倒れんだ。
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