誰ノ為ノ慰メ

玉座の間へと戻ったロジャーは女王の元へと歩く。

「何用だ……ロジャー」

「あんたに協力をする……」

「そうか……ではお前に力を貸してくれ」

「その前に言っておく、俺はお前の行動に正義は見出せていない」

「それでも今はあんたに力を貸すと決めた」



「ふふ……良いだろう。では早速だがお前にやってほしい仕事がある」

女王は不敵な笑みを浮かべたままロジャーにそう言った。

「どこの国だ……エルフの殲滅か?」

「ああ、そうだ。場所はへタルとの国境付近にあるアルストだ」

「分かった、すぐに行く」

「頼むぞロジャー」

女王に背を向け去ろうとした時。



「そうだ、一ついいか?」

その言葉に言ってみろという態度で返し。

「殲滅が終わったら…………」

女王はその言葉に驚愕する。

その目でロジャーを見据える。



「何が目的だ?」

「教える必要も無いだろ」

ロジャーは女王の元から去って行った。





何度も経験したはずのこの道も今は歩く度に足が重くなる。

大理石で装飾されたこの道はコツコツと足音を響かせる。

その足を前へ前へと踏み出す度に心臓に針を突き刺されるような気分になる。

また人を殺す、罪の無い人を、生きたがっている人を……僕が。

胃からこみ上げてくる気持ち悪い物を抑えながら、何とか扉を開ける。

「……今度はどこですか?」

「お前と言う奴は、少しは会話という物をな」

女王は軽くため息を吐くと勇者に言う。



「まあ、いい。今度はアルストだ」

「分かりました」

勇者はそう言うと王室から出て行った。

「ロジャーよ……お前は何をしたい」





転移魔法でアルストに飛ぶ。

いつも、この瞬間が嫌いだ。

綺麗な物を、誰かが生涯を注いで積み上げてきた物を壊す瞬間が嫌いだ。

自分が酷く罪深く思えて、大嫌いな瞬間だ。

移動が終わり、目を開く。だけどそこには思っていた景色は無くて。



既にアルストは火に包まれ、真っ黒な煙を立ち昇らせている。エルフの国が、そこにはあった。

「おい」

急に声が聞こえると一人の男が僕の前に現れた。

「お前さっき、聞いてられないって言ったよな……で、どうだ?これでもまだ聞いてられないと思うか?」

「君は……」

さっき、僕に話しかけてきたおかしな人。



「言っただろ、俺の名前はロジャー・ファブレ。お前の絶望を、聞かせてくれ」

訳の分からない事を言う。

だけどその言葉を聞いた時僕はただ、焦ると同時に頭の中の霧が少し晴れたような気がした。

「ロジャー君がこれをやったのか?」

「ああ」

「そっか」なら共犯者だ。



涙を流しながら口を開ける。

「絶望くらい、いくらでもあるさ。何から聞きたい?」

「最初から最後までだ」



二人の少年は日が暮れるまで話続けた。

一人のやつれた少年は何度も何度も涙を流しながら。

もう一人の少年は、ただずっと話をきいていた。

少年は過去を悔いるように全てを話した。




それから数年の年月が経った。

その間にエルフの国は全滅し、獣人も人間に下り。

人権すらない家畜同然となった。

今となってはエルフは森の中にいる害虫のようなものまで成り下がってしまった。

戦争は人間の圧倒的な勝利に終わった。

そしてそんな年月は二人の少年を青年にし、二人を親友した。



「もうすっかり平和だな……」

「そうだな、俺達の仕事も無い」

ロジャーと勇者は、街の木で作られたベンチに腰をかけ会話をしている。

「あ!勇者様だ」

一人の子供が勇者の足元に駆け寄り言う。

子供がそう言うと辺りにいた住民は振り返り一斉に勇者の方を見た。

勇者が手を振ると住民は笑顔で返す。



「なあロジャー」

「なんだ?」

「僕は……間違っていたと思うか?」

勇者は不安そうな目でロジャーに問う。

そんなの決まってるだろ。

「そんな訳ないだろ。お前は正しい事をした」

「そっか……」

勇者は安心したように笑う。

そんな勇者を見て、ロジャーも笑った。

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