いつの日かと見ているこの『夢』は
「騎士団長イシュメル・グルーバーは戦死しました」
「……は?」
少年はそれを聞いた途端頭が真っ白になった。
「誰に?どこで?昨日の今日でありえない……」
「それは知らされておりません」
呼吸が荒くなる。
「うそだ……噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ!」
少年は絶望する。
「ああ、そうか……」
「僕はもう……一人だ」
そして勇者の涙は止まることを知らない。
★
パルパの首都にて王室で二人の王が会話をしている。
「これで国家条約は締結された」
女王はそう、宣言した。
「以下パルパが武力的に国家が脅かされた時。勇者を動かし、武力行使を行う」
「本当に良いのか?このような条約の対価が我が軍の兵士一人で」
「ああ、ロジャー・ファブレ。この兵士一人で問題ない」
「そ、そうか……おい!さっさとロジャーとか言う兵士を連れてこい!」
パルパの王はそう怒鳴りつける。
「りょ、了解しました」
暫くして、パルパの兵士が一人の少年を連れて来る。
「よろしく、ロジャー・ファブレ」
歳は勇者と同じくらいであろうか、と女王は少年を観察する。
少年は女王に視線を向け言葉を発する。
「あんた、何を知って」
「おっと、その話はまた後でだ」
女王は少年の言葉を遮り言う。
「はぁ、別にいいけど。あんたたちの国へ行くのに一つ条件がある、俺の親父も連れてけ」
「構わないさ、一週間後迎えが来る。その時までに用意しておけ、それと敬語もな」
「考えとく」
「ああ、また会おう」
そして少年は王室から出て行った。
「パルパの王よ、私はこれで」
「あ、ああ」
★
そして一週間が経ち、玉座の間にて。
二人の兵士が跪いている。
「お初にお目にかかります女王陛下、ロジャーの父親。ルイーズです」
「ああ、よろしく」
女王は軽く返事をする。
「それでなぜ、我が息子を?」
ルイーズは女王に疑問をぶつける。
「知っているはずだろう、わざわざ問いかける必要もあるまい」
「ロジャー、見せてみろお前の力を」
「女王陛下、あんたやっぱり知ってたんだな」
そう言ってロジャーが女王を見上げた時、ルイーズに頭を叩かれる。
「お前な相手は国の頭だぞ。敬語を忘れるなよ」
「嫌だ、俺はどうも好きになれないあんたも……勇者も」
「……すんませんねえ。息子がこんなんで」
ルイーズは呆れてそう言うと女王がロジャーに言う。
「今は機嫌がいい。今だけは許そう」
「ありがたいねえ」
「ふん……」
ロジャーは立ち上がりそう言うと女王の方へと歩いて行く。
「あんたは俺の力を何処まで知ってる」
「そうだな……魔術の能力は分かる、ただその魔術の名と。どうしてその力を行使しないのか……それを知りたい」
「名なんて知って何になるかは知らねけど、魔術の名は
「そうか……なら何故使わない?」
「……国の勝利だとか、人類の繁栄だとか。綺麗事言って人を死なせてるあんたらに興味が無い」
「そうか……」
女王は玉座から立ち上がり、ロジャーの方を向く。
「私の望みをかなえるのに協力しろ。これは頼みではない命令だ……」
「あんたの望みって言うのは?」
「人間の永遠の栄華だ」
「それは俺に勇者と同じことをやれと言う事か……エルフと獣人の殲滅を?」
「そうだ」
二人は互いに睨み合う。
暫くしてからロジャーは口を開く。
「断る」
その一言だけ言ったロジャーは玉座の間から去っていく。
「あらら、ほんと申し訳ないねえ」
「……ほんとだぞ、子供の教育はどうなっている」
あからさまに不機嫌そうな顔で女王は言う。
「これでも頑張ったんですよ。じゃあ、まあ行きますかね」
ルイーズは苦笑い気味にそう返すと玉座の間を後にしようとする。
「待て……ロジャーに伝えろ。気が変わったら来いと」
「女王陛下も必死なこって……ま、承知いたしましたよ」
そう言い残しルイーズは玉座の間を後する。
「良いのですか、あのような無礼者に何の処罰も無くて?」
近衛兵が女王に言う。
「いいさ、もしあれ罰するとなれば勇者を動かさなければならなくなる」
「それは……」
「それに……ロジャーはきっと来るさ、必ずな」
女王はそう言って玉座にてニヤリと笑った。
★
ロジャーは与えられた自分の新しい住居へと足を進めている。
ただそれを見た瞬間、足を止めた。見ただけで分かった……その男が勇者だと。
ロジャーは自分に絶対的と言えるほどの自信があった、それは勇者にも劣らないと。
勝手にそう思っていた、だが実物を見れば圧倒言う間に覆った。
ロジャーはしばらくの間、足を止めたまま動けずにいた。自分が絶対的だと思っていた自信が、その瞬間に崩れ去るのを感じた。
目の前の男、勇者はただ立っているだけで圧倒的な存在感を放っていた。
しかし、それと同時にロジャーは勇者の瞳の奥にある底知れぬ悲しみと、何一つ希望の見いだせない絶望を感じ取った。
ロジャーは勇者の方へと歩いて行く。
「何があったんだ?」
「……ごめんけど誰かな?覚えて無くて」
「俺はロジャー・ファブレ……お前が勇者か?」
「……うんそうだけど知らないんだ」
「ああ知らない、だから教えてくれ。お前の絶望を俺に聞かせてくれ」
ロジャーのその言葉にきょとんとする勇者。
「はは……可笑しな人だな。でもきっと聞いてられないよ」
そう言って勇者はロジャーの横を過ぎ去っていく。
ロジャーはそれを黙って見ていることしか出来なかった。
そして勇者が見えなくなったころにルイーズがロジャーを後ろから呼ぶ。
「おーい、いたいたやっと見つけたぜロジャー」
「……」
「どうした」
「戻る……」
「戻るって何処に?」
「女王の所にだ」
「……ってはぁ?お前何があった?」
「少し心変わりした」
ロジャーはルイーズを急かして、女王のいる王室へと向かう。
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