いつの日かと見ているこの『夢』は

「騎士団長イシュメル・グルーバーは戦死しました」

「……は?」

少年はそれを聞いた途端頭が真っ白になった。

「誰に?どこで?昨日の今日でありえない……」

「それは知らされておりません」

呼吸が荒くなる。



「うそだ……噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ!」

少年は絶望する。

「ああ、そうか……」

「僕はもう……一人だ」

そして勇者の涙は止まることを知らない。





パルパの首都にて王室で二人の王が会話をしている。

「これで国家条約は締結された」

女王はそう、宣言した。

「以下パルパが武力的に国家が脅かされた時。勇者を動かし、武力行使を行う」

「本当に良いのか?このような条約の対価が我が軍の兵士一人で」

「ああ、ロジャー・ファブレ。この兵士一人で問題ない」

「そ、そうか……おい!さっさとロジャーとか言う兵士を連れてこい!」

パルパの王はそう怒鳴りつける。

「りょ、了解しました」



暫くして、パルパの兵士が一人の少年を連れて来る。

「よろしく、ロジャー・ファブレ」

歳は勇者と同じくらいであろうか、と女王は少年を観察する。

少年は女王に視線を向け言葉を発する。

「あんた、何を知って」

「おっと、その話はまた後でだ」

女王は少年の言葉を遮り言う。



「はぁ、別にいいけど。あんたたちの国へ行くのに一つ条件がある、俺の親父も連れてけ」

「構わないさ、一週間後迎えが来る。その時までに用意しておけ、それと敬語もな」

「考えとく」

「ああ、また会おう」

そして少年は王室から出て行った。

「パルパの王よ、私はこれで」

「あ、ああ」





そして一週間が経ち、玉座の間にて。

二人の兵士が跪いている。

「お初にお目にかかります女王陛下、ロジャーの父親。ルイーズです」

「ああ、よろしく」

女王は軽く返事をする。

「それでなぜ、我が息子を?」

ルイーズは女王に疑問をぶつける。



「知っているはずだろう、わざわざ問いかける必要もあるまい」

「ロジャー、見せてみろお前の力を」

「女王陛下、あんたやっぱり知ってたんだな」

そう言ってロジャーが女王を見上げた時、ルイーズに頭を叩かれる。

「お前な相手は国の頭だぞ。敬語を忘れるなよ」

「嫌だ、俺はどうも好きになれないあんたも……勇者も」



「……すんませんねえ。息子がこんなんで」

ルイーズは呆れてそう言うと女王がロジャーに言う。

「今は機嫌がいい。今だけは許そう」

「ありがたいねえ」

「ふん……」

ロジャーは立ち上がりそう言うと女王の方へと歩いて行く。



「あんたは俺の力を何処まで知ってる」

「そうだな……魔術の能力は分かる、ただその魔術の名と。どうしてその力を行使しないのか……それを知りたい」

「名なんて知って何になるかは知らねけど、魔術の名は【粗末な夢】チープドリーム

「そうか……なら何故使わない?」

「……国の勝利だとか、人類の繁栄だとか。綺麗事言って人を死なせてるあんたらに興味が無い」



「そうか……」

女王は玉座から立ち上がり、ロジャーの方を向く。

「私の望みをかなえるのに協力しろ。これは頼みではない命令だ……」

「あんたの望みって言うのは?」



「人間の永遠の栄華だ」

「それは俺に勇者と同じことをやれと言う事か……エルフと獣人の殲滅を?」

「そうだ」

二人は互いに睨み合う。

暫くしてからロジャーは口を開く。

「断る」

その一言だけ言ったロジャーは玉座の間から去っていく。

「あらら、ほんと申し訳ないねえ」



「……ほんとだぞ、子供の教育はどうなっている」

あからさまに不機嫌そうな顔で女王は言う。

「これでも頑張ったんですよ。じゃあ、まあ行きますかね」

ルイーズは苦笑い気味にそう返すと玉座の間を後にしようとする。

「待て……ロジャーに伝えろ。気が変わったら来いと」

「女王陛下も必死なこって……ま、承知いたしましたよ」

そう言い残しルイーズは玉座の間を後する。



「良いのですか、あのような無礼者に何の処罰も無くて?」

近衛兵が女王に言う。

「いいさ、もしあれ罰するとなれば勇者を動かさなければならなくなる」

「それは……」

「それに……ロジャーはきっと来るさ、必ずな」

女王はそう言って玉座にてニヤリと笑った。





ロジャーは与えられた自分の新しい住居へと足を進めている。

ただそれを見た瞬間、足を止めた。見ただけで分かった……その男が勇者だと。

ロジャーは自分に絶対的と言えるほどの自信があった、それは勇者にも劣らないと。

勝手にそう思っていた、だが実物を見れば圧倒言う間に覆った。



ロジャーはしばらくの間、足を止めたまま動けずにいた。自分が絶対的だと思っていた自信が、その瞬間に崩れ去るのを感じた。

目の前の男、勇者はただ立っているだけで圧倒的な存在感を放っていた。



しかし、それと同時にロジャーは勇者の瞳の奥にある底知れぬ悲しみと、何一つ希望の見いだせない絶望を感じ取った。

ロジャーは勇者の方へと歩いて行く。



「何があったんだ?」

「……ごめんけど誰かな?覚えて無くて」

「俺はロジャー・ファブレ……お前が勇者か?」

「……うんそうだけど知らないんだ」



「ああ知らない、だから教えてくれ。お前の絶望を俺に聞かせてくれ」

ロジャーのその言葉にきょとんとする勇者。

「はは……可笑しな人だな。でもきっと聞いてられないよ」

そう言って勇者はロジャーの横を過ぎ去っていく。



ロジャーはそれを黙って見ていることしか出来なかった。

そして勇者が見えなくなったころにルイーズがロジャーを後ろから呼ぶ。

「おーい、いたいたやっと見つけたぜロジャー」

「……」

「どうした」



「戻る……」

「戻るって何処に?」

「女王の所にだ」

「……ってはぁ?お前何があった?」

「少し心変わりした」

ロジャーはルイーズを急かして、女王のいる王室へと向かう。


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