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息を切らしながら勇者は城へと帰還した。

「よくやった……本当に」

騎士団長は勇者にねぎらいの言葉をかける。

「……うん」

勇者は疲れ果てた様に答えた。



勇者の顔はとてもではないが大丈夫そうには見えない。

「……少し仮眠してくる」

「そうだな……そうした方がいい」

そして勇者は自室に行った。




それから暫くしてのことだった。

またしても勇者は女王に呼ばれた。

「まずは労ってやろう、ご苦労だった」

「……」

「さて、本題に入ろう」

「エルフの国の壊滅、それにエルフの王の抹殺。よくやった」

「まだ、終わってませんよね」




「……ああエルフと獣人の国を殲滅するまでな」

「そうですか……次はいつですか?」

「いつでも結構だ、お前も休みたいだろう」

「……ふざけるな、命令しろ!僕は自分の意思でやってる訳じゃない!」

勇者は叫んだ。その顔はとても悲しそうだ。



「そうか、なら命令しよう。次の任務だ」

そう言って地図を取り出し指を指す。

「あの国の次に大きいエルフの国、ダルダストを殲滅しろ」

「今行けるか?勇者よ」

「……」

勇者は何も答えず転移魔法を使い移動する。





一時間がたった、それは闇夜に降り立った勇者が一国を破壊するのには十分すぎるほどの時間だった。

この国もまた悲惨な惨状に塗りつぶされていく。

それをただじっと眺めている勇者。

【殲滅を目指す魔剣の意】アポカリプス・インカーネーション

また一つ、国が消えてゆく。



「勇者よ、次はここだ」

命令されるがまま、勇者はまた移動した。

そして勇者はまた、命令されるがままに国を滅ぼした。

『命だけは!命だけは』『この子だけでも!』『お前のせいで!』

命乞いを聞く度に勇者の心を痛みが襲う。

そしてそれが終わると国が一つ消える。



「次は……」

国が亡びる



「今度は……」

国が無くなる



『助けて』『お願い』『いや、いやだ』

『どうして私達が!』『貴方のせいで!』



「僕は……」



『いやだ、死にたくない!死にたくない!命だけ!命だけはァァァァ!!』

『あは……あはは……これは夢だ……これは夢なんだ……』

『ハハハハハ……アアァァ……』



勇者の頬に涙がつたう。それでも勇者はまた命令を聞いていた。

そして次の国は無くなり、闇夜に溶けるように消え去った。



ノアールが虐殺を開始して一ヶ月にも満たない間に十何もの国は滅びていった。





虐殺の日々を過ごしていた勇者と反対にノアールの国民は平和を謳歌していた。

そんな中でも争いは起こる。

「エルフが攻めてきたぞー!」

逃げのびたエルフは徒党を組み、このノアールへと進軍していた。

「我々の恨みを知れ!勇者よ!」



勇者は女王の通信魔法で状況を知り勇者はまた、転移魔法で城へと帰還する。

何とか騎士たちが押さえていたエルフ達を一分と掛からず殲滅する。



「嘘だ……何だよぉこれ!おかじぃだろぉぉ!」

「やだよ!じにだぐなぃぃ!」

「俺は……ただ、帰りたかっただけなのに……」

次々と残党も始末し残るは最後の一人になった。



エルフは勇者に剣を向け叫ぶ。

「どうしてだ?俺達は何の罪を犯した?ただ、平和に生きたかっただけなのに!」

「……」

「何とか言えよ、何とか言ってくれよ……俺達が死ぬ……理由をくれよ!」

「……」

「結局お前は、人なんかじゃねえな。この殺戮兵器が」

勇者は無表情で剣を掲げ言う。



「【聖なる光を放つ聖剣の意】」

「あ……ああ……」

「いやだ、死にたくな」

そしてエルフは死んだ。





「僕は……僕は……何者なんだ?」

「僕は……何なんだ?」

自室でただ問いかける。

何も変わらない、僕の前には死体が山積みになっている。

「僕は……僕は……」

考えるだけ無駄だと分かっていても考えずにはいられない。



「勇者は僕じゃない」

「僕は勇者じゃ無い」

「僕は人間じゃない」

「僕は怪物だ」

自分で言っていて悲しくなってくる。でも、そう思わずにはいられなかった。



「ハハハ……」

自己の認識を確認し勇者は限界に達した。

「もう……嫌だ……」

それから少年は泣きわめいた、そして疲れ果て再び眠りに落ちる。



そしてそれを壁を一枚挟み騎士団長は聞いていた。

「そうだよな……辛かったよなぁ」

「お前はこんなに幼い子供なのに……」

「ごめん、ごめんな」



涙で葉巻に火がつかない。それでも彼は火をつけ、吸う。

「う、うう」

嗚咽が漏れる。



騎士団長は部屋に入り紙切れをおいて、去っていく。





騎士団長は玉座の間にいる王女の元へ向かう。

「女王陛下、少しお話が」

「何だ?騎士団長」


「勇者の事です。あの様な状態では、とてもではありませんが、これ以上の活動など……」


「だからどうした?」

王女の言葉に騎士団長は言葉を失った。

「だからどうしたと言ったのだ、いくら心が壊れたとしても体は動く」



「例えそうだとしても……あいつは人間ですよ!」

「少しは!人間らしく扱ったらどうですか!」

王女は騎士団長の言葉に少し考えると言った。



「私は、飼いならせとお前に命じたはずだ。情を移せなど命じた覚えは無いが」


「……あいつはガキなんですよ!まだ少年だ、なのにあれだけ苦しんでる」

「兵器なんかじゃない、心を持った幼い少年だ……」

「辛くて、泣きたくて、皆殺しなんて重圧を耐えれるような人間じゃない」



「……だとしたら、どうすれば良い?ここからどうやって引き返す?」

「もうエルフの殲滅は半分以上終わっているんだ、代替案でもあるのか?聞かせてもらおうか」



そう女王が問い詰めると、騎士団長は口を開けずにいた。

「まさか、案も無く来たのか?一時の感情で?貴様こそ現状を見ろ」


「だとしても、俺達大人が始めた戦争で一人の子供がこんな目に遭っていいはずがない」


「うるさいぞ……所詮お前もただの人だろうが!」

「誰も勇者の代わりなど務まらない!お前のようなただの人と違ってな」



「責任は我々大人が取るべきなんっ」

そう言いかけた途端騎士団長の腹部に強烈な衝撃が走る。

後ろを見ると近衛兵が騎士団長の体を剣で貫いていた。

「うっ……あんたか」



「……」

近衛兵は無情にも騎士団長の体に剣を突き挿した。



「今……あいつを思う人はいないんだ……世界で一番、悲しい子だ!」

騎士団長は振り絞る様にして声を出す。

騎士団長は剣を抜き、近衛兵を振り払うと女王に向き直る。



「お前……まさか……」

女王は驚愕の表情を浮かべている。

そのまま騎士団長は女王へと駆ける。



「地位も金も名誉ももう要らない、覚悟は決まったんだ!」

「そうか……それがお前の答えか」

騎士団長の刃が女王の首へと届く。



だが、刃が女王の首を刎ねる事はなかった。

「……クソ」

「騎士団長、貴様の負けだ。やれ」

女王がそう言うと、後ろから近衛兵が剣で心臓を貫いた。



(……ごめんな、今まで分かってやれなくて)

(ごめんなまだ一人ぼっちにさせちまうみてえだ)

(何も残して……やれねえな)


そして、騎士団長の命は消えた。

「これで良いですか女王よ」

近衛兵は何とも悲しような表情で言う。



「ああ……そうするしか無かったんだ、そうだ仕方なかった」

女王は色の無くなった【玉】を見ながら言う。





少年は眠りから覚め起き上がると机に置かれた紙切れに気が付く。

そこには見覚えのある筆跡でこう書かれていた。

『俺がどうにかしてみせる、大人に任せとけ』

それを見て、まだ自分を人間として接してくれている人がいる事に少年は涙が零れる。


どれだけ振りかの嬉し涙を……


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