アポカリプス・インカネーション
「家財を捨てて下さい!逃げて下さい!」
無慈悲なほどに振り続けてくる剣は、落ちると辺り一帯を破壊の限りを尽くしていく。
エルフの民は逃げまどう、走る者、諦める者、泣き叫ぶ者。
だがそこに救いは訪れない。エルフの国は破壊されていくばかりだ。
「イヤァァァ!」「死にたく」
剣の破壊に巻き込まれ、次々に人は死んでいく。
★
暫くしてから少年は瞼をゆっくりと開けた。
「直接会うのは初めてだな、勇者」
そう問いかけたのはエルフの王だった。
「……はい」
少年は静かに返答した。
「これを言うのもなんだが、私はお前を恨んでいるよ」
王は少し笑いながら、そう言った。
「僕は……貴方に謝る事は出来ません。これが僕の使命だから……」
少年は俯きながら言う。
王はそれを見て少し考え言った。
「一つ聞かせてくれないか?」
「……どうぞ」
「今は幸せか?」
「……いえ、全く」
「……そうか、それは良い事を聞いた」
その言葉を聞くと王は深い呼吸を一度挟み何処からともなく取り出した刀の鞘を抜く。
「王として、民に背中を見せなくてはな」
「王として、民を導くために」
「勇者よ、私はお前を……いや、お前だけは!」
「殺す!」
(ああ、やっぱり)
少年はそう思った。そして剣を構える。
それに対し王も刀を構えて言う。
「我が名はアルドラ!この命尽きるまで戦い続けると誓おうぞ!」
二人の剣が交わる。
そして戦いの火蓋が切られた。
★
ポタポタと掴んだ首から血がしたたり落ちている。
「……」
少年はどこか虚な瞳でそれを見ている。
「結局貴方も何も変えられない」
掴んだ首を投げ捨て、この虐殺を終わらせにかかる。
転移魔法で国の上空まで移動すると、魔法を唱える。
「
静かに剣を構え、辺りの魔力を収束させていく。
辺りに魔力が満ち溢れている。その膨大なエネルギーに周囲の物質は崩壊していく。
そして少年は……剣を振り下ろした。
その日、地図から一つの国が消え去った。
★
「女王陛下、耳に入れたいことが」
「なんだ?」
近衛兵の一人が、王女に近寄りそう言った。
「カルバドリア、ヘタル、パルパ。他にも様々な国から使節団が訪れています」
「ようやくか。通せ」
「承知致しました」
近衛兵は一礼すると、玉座の間を出ていく。
そして暫くすると、玉座の間にそれぞれの国の代表が揃っていた。
「女王陛下、お会いでき光栄です」
初めに口火を切ったのはカルバドリアの代表だった。
「思っても無い事を、まあいいか」
王女は微笑みながら言う。
「さて、早速本題に入ろう。お前らが来たのは……勇者についてだろう?」
言葉を聞いて目の色が変わる、代表たち。
「あれが、勇者ですか?破壊神ではなく?あの様な者が勇者だと?」
「そうだ」
代表は王女の言葉に失望していた。そして続ける。
「あんな物に、勇気ある者等と名乗って欲しくは無い」
「同感です」
その言葉にヘタルの代表も頷く。
「名は関係ないさ、それより早く用件を言え」
王女は冷淡に返し、要件を話すように促す。
「……単刀直入に言いますと、勇者の引き渡しです。あれは一国に任せるには余りにも強大すぎる兵器だ」
「我々も同意見です」
パルパの代表がそれに続く。
王女はそれを聞いて鼻で笑うとこう言った。
「論外だ、勇者を引き渡すなどありえん」
「女王陛下!」
「そもそもだ、あまりにそちらに都合のいい……いや、こちらにメリットの無い提案だと分かって提案しているはずだ。何かあるんだろうメリットを提示してみろ」
王女がそう言うと、パルパの代表が言う。
「ここから先は通信魔法を使い、我らの王とお話ください」
それを聞いて他の国も通信魔法の準備をしている。
王女はそれを見て頷くと、各国の代表に言う。
「良いだろう」
その言葉を聞くとの各国の代表は魔法を発動した。
すると映像が映し出される。
最初に映像に映ったのは王冠をかぶり、豪華な格好をした男。
次々に各国の国王が映像に映る。そして各国の代表は一斉に跪く。
「やあ、女王陛下」
まず初めに静寂を崩したのはカルバドリアの若王だった。
「それに各国の皆様もおそろいで」
若王は続ける。
「皆様。我らの要望は恐らく一致している。よって私が代表として話させていただきたい」
「もし違う意見があるとしても、私から先に言わせて欲しい。良いかな?」
構わない、とでも言うように全員首を振る。
「単刀直入に勇者の引き渡しを望む」
「さっきそれは聞いた。メリットを提示してみろ、勇者と言う巨大な戦力を手放せるほどのメリットを」
「もちろん、各国からの資源や技術の提供、それに軍事支援だ」
それを聞いて王女は言葉を返す。
「はっ……やはり話にならんな」
「勇者は30万のエルフの軍勢を瞬殺したと聞いた」
「しっかり考えてくれ女王陛下……貴方は、一つの国が世界を滅ぼせる兵力を持つことをよしとするのか?」
「あれは人間国の全てで管理するべき兵器だ」
各国は若王の言葉を聞いて、頷く。
「ふふ、それが世界の為か?」
「少なくとも僕はそう考えているよ」
その言葉を聞いて女王は思わず笑った。
「ふふふ、お前は人の欲という物をなめすぎている。各国からの資源や技術の提供?それに軍事支援だ?」
「そんなもの勇者を貴様たちにけしかければ手に入るだろう?」
「な、何を言うか!」「そうだ、貴様!これは宣戦布告とも受け」
「黙れ」
言葉を遮り女王は話を続ける。
「凡骨な貴様たちに、良いものを見せてやろう」
そう言うと、女王は立ち上がり水晶魔法を使用し映像を映した。
映像に移る勇者は、魔法を放つ。
「
それと同時に膨大な魔力が解き放たれた。その圧倒的なエネルギーに誰もが恐れおののく。
誰だってそうだろう、国が一つ消し飛んだのだ。
そして王女は言った。
「エルフの王は死に、この国は今、地図から消えた」
「お前達はこいつに本気で勝てるのか?」
その言葉に各国の代表は口を閉ざした。
だが誰かがある事に気付き口を開く。
「……待て、今だと?これは今起こっていることなのか?エルフは降伏宣言をしていたはずだ」
「それは蹴った」
「な!?」
「戦争は続いている」
「いいか?私は私の思い描く平和の為にある物を使いやるべき事をする」
「待て!貴方、まさか」
若王の言葉を聞き、王女は不敵に笑う。
「違うな、世界の支配などに興味はない」
「……なら何を?」
「世界を平和にする、そのためには手段を選ぶつもりはない」
その言葉に、若王は反応する。
「ならやはり、勇者は全ての国で管理すべきだ!」
「……はあ、少しは頭の働く男だと思っていたんだがな」
王女はため息を吐いて頭を振る。
「勇者を各国で管理する?そんなものはあり得ない、どの国かが自国だけが得をしようと動くだろう。それにだ」
「人間同士の戦争の抑止力にも成りえる、勇者が私の手の中にある限りはな」
「それは、貴方が我々に侵略戦争をしないという前提としての話でしょう?」
「ああ、そうだな。だがそれはあり得ない」
「貴方の言葉を信じられるはずがない!」
王女はその言葉を聞き鼻で笑うと言った。
「信じようと信じまいと、結果は同じだ」
「それよりも一つアドバイスだ……もしエルフの軍勢を相手取れなくなった時私に連絡を取ると良い。勇者を貸そう」
「連絡?それが取れなくて我々は使節団を送ったのだぞ!」
「ああ、取れないようにしていたからな。もうそれは無い」
「貴様!どれだけ人を馬鹿にすれば気がすむ!」
そして王女は一呼吸おいて言う。
「話は終わりだな?それでは失礼するとしよう」
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