辛い 苦しい 痛い 逃げたい そう思っても

「なんて、言ってると思うか?エルフの王の奴?」

女王は近衛兵にそう問いかける。

「分かりませんが、そう言っていたとして。はたして動くのでしょうか?」

「動くさ、奴らは正真正銘の一枚岩だ。エルフの国が幾つあろうと、エルフの王はあいつだけなんだよ」

「それに、勇者は化け物だ。ほっといたらどうなるかなんて目に見えている」

女王がそう言うと近衛兵は口を開いた。



「それで我々は何を?」

その問いに女王は答える。

「決まってる、宣戦布告だ」

「勇者を真正面からぶつける」

「それだけでいい、それだけで奴らの心は折れる」

「分かりました。ではそのように」



近衛兵がそう言って部屋を去った後、女王はポツリと呟いた。

「高みに上がってやる……お前を殺してな、エルフの王」





少年が騎士団長の元へと訪れる。

「どうした?」

そう聞く騎士団長に少年は答える。

「僕はこれからどうすればいい?」

その問いに騎士団長は問いで返した。

「お前は最初に人を殺した時、どう思った」

「……最初は何も、僕が痛かったから。でも、生きたいと願ってる人を見て、僕は」

少年は思い出す。自分がした事を、その痛みを。

「許されないって思った」



「それは何故だ?」

「お前はただ命令に従っただけだ。何も気負う事は無い」

「で、でも」

少年は騎士団長に訴えかけるが、騎士団長は少年の言葉を遮るように言う。

「そう思え、これは命令だって。仕方ないんだって。俺のせいだと思え、お前に命令してるのは俺なんだから」



「お前はきっと英雄になる。俺達がなれなかった英雄に。人に称えられろ、尊敬されろ、きっとそれがお前の薬だ」

騎士団長はそう言って少年に言い聞かせた。

「うん……」

少年はそう呟いて、部屋を後にした。



それから数日が経った頃。

少年は女王に再度呼び出された。

「女王陛下、勇者です」

近衛兵は女王にそう伝えると、女王は口を開いた。

「人を殺す用意は出来たか?」

「……はい」

「そうか、その言葉。信じるぞ」

そう言うと女王は水晶魔法を発動した。

「何をなさるおつもりで?」

近衛兵の言葉に女王は答える。

「言っただろ、宣戦布告だ」



水晶が割れその破片が長方形に変化する。

そこに映るのは、エルフの王だ。

「何のつもりだ。ノアールの女王よ」

「いやいや、そろそろ勇者に恐れをなして、降伏してくるころだと思ってな」

「こちらから聞きに来たまでよ」

その女王の煽りに側近らしき男が反応する。

「な!貴様!王を愚弄するか!」



「降伏するなら今の内だぞ、エルフの王よ」

「本題に入れ」

エルフの王はそう返す。女王はそれに答えた。

「では本題に移ろうか」

「一ヶ月後の今日。勇者一人と貴様たち全軍による虐殺行おう」

女王の言葉にエルフの王は驚く。そして、続けて言った。

「……誰が信じる、罠に自ら飛び込む馬鹿がどこに居る」

「私の言葉に、一切の偽りなし」



堂々とした態度で女王は答える。

「……【契約魔法】を使え、話はそれからだ」

女王はその言葉で笑みを見せると。

「いいだろう、契約魔法を発動しよう」

「今、我契約を結ぶ。契約は言葉の真。破れば罰その罰は自死とする」

「我、契約を受ける。契約は逃亡の禁止。破れば罰その罰は自死とする」

女王がそう言った後、光が辺りを包む。

「これで契約は交わされた。兵士に言い聞かせておけ、一ヶ月の命を楽しめと」

女王がそう言い終わると水晶は崩れ落ちた。




「王よ、今思ったのですが。あれは囮でその間に他の人間が攻めてくるという可能性はありませんか?」

側近がそう話すとエルフの王は答える。

「無いな、契約の内容でそうすると自死する事になるだろう。他の国も得体の知れない人一人が孤軍奮闘で戦争すると言って動くと思うか?」

「……確かに」

側近は納得するように頷く。

「こちらも準備しなければな」

「他の国からも兵士を募り、30万の兵士で奴を迎え撃つ」

エルフの王は側近に向けてそう命令した。





少年が部屋に戻ろうとしたとき、騎士達が少年を見てヒソヒソと話していた。

少年は下を向いて聞いていないふりをした。

すると騎士達は少年に聞こえるように声を大きくして、少年を嘲笑いながら言った。

「何が勇者だよ」

「お前みたいな化け物が生きてるなんてな」



少年はその言葉を無視して、部屋に戻った。

少年はベットに寝転び考える。

「もし……英雄になれば……」

何かに希望を見出しながら少年は眠りについた。

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