血の戦争:2

「なあ、良いのかよエヴィ」

与えられた家で座っているエヴィにデルが話しかける。

その言葉を聞いたエヴィリーナは机を叩いて叫んだ。

「いいわけないでしょ!……でも止められない」


「肥大化した思想を止める手段なんてない……ないのよ」

「どうすれば……どうすれば良いの?」

「このままだとエルフは勇者に」

「……うるさい」


空気が悪くなる、二人は勇者の強さをまじかに見た訳ではない。

だがアリューとシータからその強さを聞かされていた。

ここに居る全員で挑んでも傷一つつけられないと言う言葉が二人の中での勇者の認識だった。

その勇者に戦いを挑むエルフ達、それに勝つイメージなんて湧くはずが無い。

それに加え三決戦ではたった一人でエルフの国を落としたという逸話も残っている。

そもそもそれで殺せるような敵ならば世界は人間に支配などされていないだろう。


「なら、どうすんだよ!このまま黙って見てるのか!?」

デルが声を荒げる。それに対しエヴィは静かに答える。

「私だって、できる事があるならなんでもする。でも……もう手遅れ」

「ただ祈ることしか私達には出来ない、逸話が逸話であることを」



「とりあえず、一年前に金狼セトが現れた場所に行ってみよう。何か分かるかもしれない」

「そうだね」

【転移】を使っても良かったが人間にとっての【転移】の基準が分からない。

変に目立つのも避けるべきだ。

「人目のつかない所に行ってから移動しようか」

そう言って二人は路地裏に入り人気のない場所まで移動する。

そして【転移】を使い森へと移動した。



「でもどうやって探すの?フェンリルなんてそう簡単に見つからないと思うよ」

「確かに、普通ならそうだろうけど。私はフェンリルだよ、巣が作られやすい場所位は分かる」

基本的には森の奥深く、人間はあまり近づかない場所が好まれる。

だが稀に開けた場所に巣を作る場合がある、そこには木が切り倒されて、陽の光が差し込んでいるような場所。


そこには間違いなくフェンリルが居る劣等でもツヴァイでもない、フェンリルが。

これが知られていないのはフェンリルと出会い生き延びた例が極端に少ないからだろう。

「じゃあ、早速行こ。私ならすぐに見つけられると思うから」

「わかった、でもどうやって見つけるの?」

「見てて」

そう言ってシータは光を飛ばす、幾つも数え切れない程。

光は反射し森の中を駆け巡る。


「ねえシータ、何やってるの?ただ光飛ばしてるだけだよね?」

「光で地形を見てる、巣の地形ならすぐ分かるよ」

そう言ってシータは目を閉じる。

「あった!」

「ほんと?どこ?」

「こっちだよ!」


そう言ってシータは走り出した。その後ろをノアも追いかける。

数分走っただろうか、そこは木々に囲まれた場所だった。森の奥深くであるが陽の光が確かに差し込こんでいる。


そして確かに居た。ただそれは金色に光る毛並みのフェンリルではなかった。

フェンリルただはじっと二人を見ていた、縄張りに入った者を威嚇するように。

「貴様ら……何者だ」

女の声が聞こえた。この言葉はママと同じフェンリルの言葉だ。

「貴様、フェンリルか。ではなぜそんな姿をする」

「答える義理があるか?」


「そうか、セトから縄張りに入る者は逃がすなと命を受けている。意味は分かるな」

「ああ、分かるさ。…ノア来て」

そう言ってノアはシータに近づき差し伸べられた手を取った。

「後で、迎えに行くよ」

そう言ってノアを【転移】で拠点まで逃がした。


「さて……お前セトと言ったな。それは金狼セトか?」

「答える義理があるか?」

「私の目も衰えたものだな、まさかオウムをフェンリルと見間違えるとは」

その煽りに反応するようにフェンリルの周りのマナが赤黒く変色する。

「なん、だと?随分なめてくれるな、獣人」

「私はフェンリルだ、その事をお前の体に叩き込んでやる」


【悪評高き狼の意】フローズヴィトニル

フェンリルが【悪評高き狼の意】を放つ、それはフェンリルの周りを囲うシータの結界魔法によって防がれる。

「な……こんなもの!」

フェンリルが炎の魔法を使い結界を破る。


「いきなり【悪評高き狼の意】を使うとはな森を吹き飛ばしたいのか?」

「貴様こそ、掛かってきたらどうだ?」

「言葉に気を付けた方が良い、後悔すらできないからな」

「【罰天:黒】」

天から降る光の線がフェンリルを襲った、フェンリルは対処できず下半身に幾つもの穴をあける事となった。


「ぐあ……馬鹿な、何処に違いが」

「マナの使い方がなってない、マナを体に循環させて初めて魔法は魔法たらしめる。

 お前のはある物をだすだけなお粗末な魔法と言わざるを得ない」

「マナの使い方……だと。そんなもの」


もう少し痛めつけセトの情報でも吐かせようとシータは考えた。

だがその時ガサゴソと草むらが揺れた。

「ッ!」

シータは草むらに注意を向け、フェンリルは同時に何かを感じたのかシータと同じ方向をみる。

「来ちゃだめだ!」

フェンリルがそう言った相手は子供のフェンリルだ。

「クウ!」

子供が草むらから飛び出し、シータに飛び掛かる。

「あ、ああ」


だがその攻撃はあっさり防ぐ、そして攻撃を放った子供に自分の面影を見る。

母との暮らしを思い出し胸が痛くなる。

(そうだ、目的の本質を見失うな。ただ遭う事、遭って話が聞きたかったんだ)

「戦いを、止めよう」

震えた声で私はそう告げた。


子供掴みフェンリルの元へ投げる。

「なんだ急に、何か狙っているのか?」

フェンリルが疑いの眼で私を睨む。

「お前たちがどれだけ頑張った所で私を殺せない。目的を思い出したんだ」

「馬鹿が、我々に情けをかけると言うのか?それで貴様らに何の利益がある。目的を言え」


「私はセトに会いたいだけだ、ただ話をしたいんだ」

「……まあ、いいだろうどんな事を企んでいようとセトには通じない」

そうして私達はセトとの話し合いの場を設ける事になった。

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