血の戦争

ヴァンス国に入る。石で出来た家々が並び、少し古めの建物はどこか歴史を感じさせる。

ノアも同意見なのか辺りを見回していた。

「うん、綺麗だね。こんな街もあるんだ」

私達は冒険者ギルドを探すため町を歩き回っていると一際目立つ建物が目に入る。

それは木造建築の綺麗な建物だった。

「ここがそうじゃない?」

ノアがそう言った建物の看板を見て見れば確かに『冒険者ギルド』と書いてあった。


「入ってみる?」

「そうだね、入ってみようか」

そうして私達はギルドの中へと入っていく。

中には冒険者たちが依頼が貼られているボードを眺めていたり、食事を取るスペースで騒いでいたりしている。


「凄いね、綺麗な建物」

入ったは良いものの勝手がわからない。とりあえず見える受付にでも行けばいいか。

「ノア、まず受付にいこっか」

「うん、そうだね」

そうして受付に進もうとしたところにある人間が話しかけてくる。

「おーい、そこの別嬪の嬢ちゃん二人~何してんだよ女だけでよ~」


「話しかけるな、匂いが移る」

「そうだよ、近寄らないで」


私達が冷たくあしらうと絡んできた男は唖然とする。

「なんだよ~つれねえな」「あはははっティーズおまっ、ハハハハ」

「何だよ、お前ら笑うんじゃねえよ」

先ほどの奴らを無視して私達は受付へと向かった。

私達はその後窓口へと向かい話をしてみる。


「ようこそ当冒険者ギルドへ、今回は依頼ですか?それとも初めて見る方ですし冒険者登録で?」

「いや、どちらでもない。金狼セトについて教えて欲しい」

何か考えるように受付嬢は答える。

「冗談や悪戯ならやめて下さい、そもそも金狼はあなた達の手に負えるような相手ではありません」

その声は大きく、少し怒っている事が分かる。

「まあ落ち着けよ、受付さんよ」


そう言って後ろから話しかけてくる男が居た。さっきの奴だ。

その人間は私達を見てニヤニヤした顔で話す。

「確かに、金狼セトに挑むなんて無知にもほどがある。あれは名の知れた冒険者達が次々に挑み敗れた化け物だ、あれに挑んいい奴なんて【狼追い】とか【盲目】とかそこら辺の超上級の冒険者だけだぜ」

「うるさいぞ、ティーズ。冒険者でもない奴にそんな事を言っても通じないだろう。それに狼追いはここ近年活動してないぞ」

「うるせえよ!また現れるに決まってんだろ」

(狼追い、そこまで名が通っていた男だったのか)

話が長くなりそうだったのでノアが受付に話しかける。


「それで金狼セトについて教えて欲しいんです、情報だけでいいですけど」

「情報だけ……失礼しました。ここだとうるさいので奥でお話しませんか?」

「ありがとうございます」

そう言うと私達は奥の個室へと通される。



「お待たせしました」そう言って受付嬢は私達にお茶を差し出してくれる。

それと同時にある男が部屋に入ってくる。

「お待たせしました、私はこのギルドのギルド長をしております。カーマと申します」

「ノアです」「シータだ」

そう言って私達は挨拶をする。カーマと名乗った男は60代だろうか?白髪で髭も生やし、渋いイメージだ。


「それで金狼セトの情報ですかな?」カーマは私達に改めて聞く。その佇まいからは落ち着きのようなものを感じられた。

「はい、金狼についてはあまり知らないので情報が聞きたいんです」

ノアがそう答えると。


「失礼かもしれませんがお二人は学者か何かで?」

違うと答えるよりはそうした方が話が速いだろう。

「まあそんな所です」とノアが答える。


「なるほど、冒険者以外の知識人は助かります。セトの事を話しましょう」

カーマは話し始める。金狼セトはここ何十年も人里には出ておらず目撃情報も少ない。

おもむろに地図を取り出しカーマは指を指した。

「最後に目撃されたのが今から一年前、それがここです。その一度で数十人の冒険者が挑みそして散っていきました」


「冒険者達の話によると雷を纏っていた、金の剣を加えていた、体毛が金色だったなどと言われています」「雷……それに金の剣、金色ですか?」

「ええ、現場には雷で焦げた跡や武器が落ちていたので間違いないかと。ちなみに剣は後で調査班が調べた結果本物の金でした」


「なるほど、わかりましたありがとうございます。ところでその金狼セトが居る場所は?」

「それが……」そう言ってカーマは言葉を濁す。

「わからないのか」


「はい、ですがお二人は学者なのでしょう?場所を知る必要も無いと思いますが」

確かに私達には場所を知る必要は無いだろう、まあだがもういいさ。


「それもそうだ、ノア帰るよ」

「え、もういいの?」

「うん」


私はそう答える。そんな私達を見てカーマは心配そうに私を見る。

「お二人とも若いのに大変ですね」

「いや、もう慣れてるさ」と私は呟いた。



「エヴィ!どこだよここ!」

「ほら、行くわよ。迷子になったら二度と帰れないからね」

【転移】で飛ばされたデルは文句を言いながらエヴィの跡をついて行く。

「ちなみに何処に何しに行くんだよ」

「あら、言わなかった?これからエルフの村に行くの」

「……理由は?」

「そうね、簡単に言ったら壊滅報告と縁切りよ」

「あーますます分かんね~」

「はあ、交流があった村に私達の村が壊滅したって言いに行くの。簡単でしょ」


「まあ、だいたいは分かったよ」

「そう、それともう着くわよ」

エヴィがそう言った瞬間、目の前の景色が変わった。

そこは暗い森だったがすぐに晴れ、目の前には緑に囲まれた村があった。

「ここがエルフの村か」デルが驚いたように呟く。

「そうよ、ほら行くわよ」

そう言ってエヴィは歩き出す。その後をデルも追う。

村に入ってエヴィは出会う人達と会話を始めていく。

「エヴィリーナちゃん!久しぶりだね」


そうエヴィを呼んだは農作業をしていた初老のエルフだ。

「お久しぶりです、メイサットさん」

「おや?でも今日は随分人数が少ないね?」

「ええ、ちょっと訳があって」

「そうかい、まあ何にせよ歓迎するよ」

そう言ってメイサットはエヴィの背中を叩く。

「それで?そちらの人は?」

「ああ、こちらは私の連れで」

「どうも」デルは軽く会釈する。


そんな二人を見てメイサットが怪しそうに見る。

「……もしかして、獣人かい?」

「そうですよ」とエヴィは答えたがメイサットは混乱しているようだった。

「何があったんだいエヴィリーナちゃん」

「それを村長さんに伝えに行きます、今村長は居ますか?」

「ああ、居ると思うよ。付いておいで」


メイサッットに連れられエヴィとデルは村を歩き村長の家へと向かう。

その道中もすれ違うエルフ達は物珍しいそうにデルを見るが、特に誰も話しかけてこない。

そんな視線に気づいたのかデルは少し居心地が悪そうにしていた。

「おーい、エヴィ!」

そう話すのは三人のエルフの女性だった。

「久しぶり」

「元気にしてた?また遊ぼうよ」

「ええ、また後でね」

そう言ってエヴィは三人と別れる。


「着いたよ、ここが村長の家さ」

そこには他の家とは違い大きな家があった。メイサットに言われるがまま二人は中に入る。

「村長、お久しぶりです」

「おお!エヴィリーナか!」

家の中でくつろいでいたエルフが立ち上がりエヴィを出迎える。

「四か月ぶりだな、少し背が伸びたか?」

そう話すのは白い髭を生やした老人だった。


「いや……エヴィリーナ、そのマナその力何があった?」

そう言って村長はエヴィをじっくりと観察する。

「村長、今その事について話す必要はありませんが。今から話す事は少し関係があります」

「ほう、なんだ言ってみろ」


村長はエヴィを見る。その視線の意味を理解してエヴィは答える。

「私達の村は壊滅しました、生き残ったのはウル、サーシャ、ミーニャ、ノアそれと私を含む五人。それだけです」

「な、なんだと……それは本当か?」

「奴隷狩りにやられ私達の村は壊滅、運よく助けが来て私達は奴隷にならずすみました。」

「そ、そうか。それでその助けとやらは?」


それからエヴィは事の顛末を話したシータに助けられ、暮していることなど。

「なるほど、フェンリルと精霊。にわかには信じがたい事ばかりだ、そしてその力。マナの使い方を学んだか」

「ええ、まだまだ精進しなければですけど」

「そうか、それとなエヴィリーナ。俺も話さなければならない事がある」


「我々エルフは多数の村と手を結び一国を落とす計画、エルフは今こそ再建する」

その言葉を聞いてエヴィとデルは顔をしかめた。

「本気で行ってるんですか、勇者に挑む気で?そんなの自殺行為でしか」

「だがな、もう我々にはそれしか手が無い。エルフが再建するにはそれしかない」

「だからって、そんな」

「もう既に多くの村が兵を集めている、総数にして8,000しかもだ。この内の500人がマナの使い方を学んでいる」


「8,000……そんな数のエルフが」

「ああ、エルフは人間より何倍と優れている。その事を証明してやるのさ」

「でも、勇者に勝てるとは思いません」

「分かっている。だが、やらねばならんのだ」


村長の眼には覚悟が見て取れた。本気なのだ。本気で勇者に戦いを挑むつもりだ。

「エヴィリーナよ、お前は何を望む。お前がこのまま我等の村を見守るか?それとも我々の仲間となり共に勇者に挑むか?」

「それは……」考えるように目を閉じたエヴィは口を開ける。

「私にはできません、もう仲間が居ます。自分勝手に行動は出来ない」

「そうか、ではどうする気だ?」

「私は仲間と共にエルフの再建に挑みます。例えその道が修羅の道だろうと、その先にエルフの再建があるのなら」


「……そうか、残念だ。もし辛くなったらいつでもここに来なさい」

「ええ……ありがとう村長」

そうしてエヴィは家を出ようとすると。

「しばらくはここに居ると良い、それくらいならいいだろ」

「はい、ありがとうございます」

そうしてエヴィとデルはエルフの村で1週間ほど過ごす事になった。

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