思考だけが存在する世界

 

 風が吹く、なのにどうして草木の一本揺れやしない。

「これはお前の仕業か」

「これとはこの楽園の事ですか?」

「楽園?これがか?」



「ええもちろん。ここなら死、怪我、病気、争い。ありとあらゆる不安なんてものは無い。皆が生きてる、皆が死なないまさに楽園エデンでしょう?」



「楽園を作ることががお前の目的か?」

「いえ、マスターの悲願です」

「まあ、どうでもいいさ【罰天】」


 幾つもの光の線が一点に集中し、天から降りユニバースを貫こうとする。

「【終点】」

 ユ二バースの周りが歪み、小さな黒い点が現れる。

 光線がそれる、いや吸収された。




「これは【終点】光の魔法を吸収し無力化する魔道具です」

 光魔法が無力化?ただ面倒。どうするか。

「さあ、どうしますか?」

「どうにでもなる」

 転移魔法で懐に潜り込む。そして、顔面に一撃。

「がはっ!?」



 吹き飛んでいくユニバース、だが空中で静止する。

「危ないですね、魔法を封じられたら拳でなんて」

「……一つ勘違いを訂正させてやる。私の魔法は死んでない。【天鎖苦殺】」

 光が点と点を結ぶ、だがそれが軌道を曲げられ終点に集まる。

「ははは、無駄ですよ」


四重詠唱

【罰天】


さっきよりも太く、多く。そして速く鋭い光線がユニバースを貫こうとする。

だが全て終点に吸い込まれる。だが確実に吸い込む速度が遅くなっている。

このまま続ければいずれ。


「ふふふ、なんども言わせないで下さいよ。無駄ですって」

「なら攻撃してくるといいさ、こっちも退屈になってきた」



「ふふ、分かってるくせに」

「ああ、結界を壊せないんだろう。それで、こっちのスタミナ切れでも狙ってるのか?」

「御名答、結界魔法を維持するのはマナを消費しますしね。それを何重にも。いずれ尽きるのは明白じゃないですか」


正直まだまだ余力は残ってる。その終点と私の魔法どっちが上か試したいところでもあるが、

もういい。終わらせよう。


「ユニバース、私の事を少しは知ってるみたいだが。しっかりと予習しておくべきだったな」

「はぁ?なにを」

「【転移】」

 転移魔法を使いユニバース共々転移する。

(抵抗出来なかった。それほどまでに力の差が)



「どこですかね、ここは?」

 周りを見渡すユニバース、だがもう時すでに遅し。

「悪いな、あそこだと辺りが壊れるのが嫌だったんだ」

「転移魔法の準備をしておいた方が良いぞ」



「……全く」

「【フローズヴィトニル】」

 辺りが白に埋め尽くされる。ユニバースの結界は意味を成さず。

 白い衝撃に飲み込まれる。




「なんて脆い。」

 最後に何か言っているような気がしたが、聞かなかった事にしよう。

 どうせ碌なもんじゃなさそうだし。

 とりあえず、戻ってアリューたちの安否を確認しよう。


 ★


「やあ、待ってたよ」



 転移魔法で拠点に戻ってくると、そこに居たのはさっき殺したはずのユニバースだった。

「なんで生きている」

「生きてないよ。24はしっかり君に殺された」

「じゃあ誰なんだ。お前は」

「そうだね。僕は№0彼らユニバースのコピー元。つまりオリジナルさ」

 ……少しは話がつかめてきた。




「ちなみに、まだまだコピーは居るんだ。ほらあそこにも」

 指さす方向には一人の少女が立っていた。まるで別人のように。

(容姿は同じでも雰囲気が全く別物になっている)

「で、私を殺すんだろ、お前も」



「いいや、そんなつもりは無いさ君に勝てるとも思ってないからね。

 24は良い当て馬になってくれたよ」


「要件はそれだけか?」

「いや、まだ一つ。残ってるんだ」

「君さ僕に協力しないかな。この世界が終焉に向かうのをここで止めよう。ここは楽園だ。辛いことは何一つないさ」


「嫌だ、止まることに意味は無い。変革が無ければ刺激が無いし、刺激がなければ、退化する。終焉に向かおうとしてるのはお前の方だ」


「はあ、でもさ。この世界は素晴らしいよ。皆幸せになれる」


「そもそも、辛いことなど無いと本気で思っているのか?永遠の退屈ほど辛いものなど無いだろう」


「……そうかもしれない、でも死に怯え、生に怯え、それでも生に縋る。それよりマシだと思っているんだけどね」


「いい加減にしろ、話が平行線だ。私はお前らの楽園は認めない絶対に」


 そう言い残し私は魔法を使い攻撃を仕掛ける。


ユニバースは避けない。するともう一人のユニバースが盾になるように攻撃を受け止める。


「チッ、鬱陶しい」




「……ああ、僕のコピーが。……まあいいや。でも、また来るからね」

「逃がさない」

「ああ、楽園は一度切っておくよ。仲間を気にした方が良い」

その言葉につられアリュー達の方向を見てしまう。

その瞬間にユニバースは消えた。





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