歪な積み木の支え

「シータ!大丈夫?」「うん、私は大丈夫」

ノアが駆け寄ってくる私はノアの頭にポンと手を置く。


「アリュー、やっぱり意識はあったんだよね」


「そうだね、意識だけあった。だけど、体を動かせない。魔術だとしても対策があると願いたいね」


「だとしたら、これから聞くのが最適かな」


ユニバースをかばったコピーは今、ここに残っている。


「ほとんど死にかけだけど延命して話を聞こうか」


「アリュー、できるの?死にかけだけど」


「問題なーし、任せといて」


「じゃあ、お願い」


アリューは魔法を使いユニバースを治療する。


「治療したけど起きるのは時間がかかるかな、その間に拘束した方が良いね」


「その間に皆に状況説明もしようか」


その後アリューがテレパシーで皆に伝える。

(先の現象は敵の能力だよ、とにかく慌てないで拠点に一旦集まってくれるかな)

アリューがそう言った後、皆が集まったのはそれから数分後だった。

皆、拠点に集まるとまずアリューが話しを始める。


「……敵襲だよ一応聞くけど。皆怪我はないかな」


アリューの問いかけに皆が頷く。


「そうか、良かった。じゃあ本題に入るね」


アリューが今起こってる現象について説明する。

皆混乱しつつも理解はしてくれたようだ。


「皆はアレをどう思う?」


私は動けていたので皆の気持ちが分からない。


「体は動かず思考だけができる、はっきり言って地獄ですよあれは」

「ですね、あれが永遠に、考えたくもありません」

イーライとユナが答えてくれる。


「止めようか、僕たちの力で」

「そうね、アリューの言う通り。止めましょう」

アリューとエヴィリーナがそう答える。


「私の出番だな」

「……私は皆に従うよ」

デルとサーシャもそう言った。だが一人違う答えを言った者がいる。


「私は反対」

そう言ったのはエフレンだった。


「話を聞いた限り、アレは多分世界中で起きてる。それが解除されたなら世界が動くと思うんだけど」

「つまり、勇者が動く。もし勇者に私達の存在が知られたら間違いなく危険因子と認定される。全員まとめて死ぬかもよ」


それに反論したのはノアだった。


「あんなものを野放しにすれば、待っているのは永遠の地獄」


「そんなの勇者が解決してくれる」


「そんな保証はどこにもない」


「私達よりはよっぽど確率が高いと思う」


エフレンもノアの話を聞いて賛成こそしないが引き下がりもしない。このままでは埒が明かないな。


「二人共、少し頭冷やそう」

私は二人の間に入り、二人を止める。


「まずエフレン、その通りだと思う。でもこれは世界を救うためじゃない。身にかかる火の粉を振り払う為に行うんだ」


「そして勇者の問題だけど、そもそも私の存在は勇者に知られてる。それを問題視するなら私だけで行く」


「いや、そんな事ダメに決まってるでしょ。貴方私達のリーダーなんだよ分かってるの」


アリューがずっと何かを言いたそうにずっとこっちを見ている。


「あーんーとね、これは勇者には多分解決できないと思うな」

エフレンとノアと皆は少々困惑する。


「「……なんで」」「どうして」

「ああ、それはね。勇者はーーーーーー」




さっきまで綺麗に整えられていた絨毯を踏み荒らしながら、裕福そうな男が叫ぶ。

「何がどうなってるんだ」

「陛下、落ち着いて下さい、」

執事のような風貌をした男が荒ぶる男を鎮める。


「これが落ち着いていられるか!世界中の時が止まったんだぞ、一体何が起こっている!」


「私にも分かりません。ただ勇者に任せた方がよろしいのではないのでしょうか」


「勇者か、そうだな。勇者を呼べ、……速くしろ!」



陛下の呼びかけに答え、勇者が王宮に現れる。

「勇者よ、急に呼び立ててすまないな」


「いえ、陛下のご命令とあらば当然です」


「では、勇者よ。先ほどの現象を解明もしくは解決してくれるか?」


「承知いたしました。陛下」


「期待しているぞ。勇者よ」


その言葉を聞くと勇者は王宮から出発した。

「ふふ、ははは勇者が出たんだ。もう心配はいらん、すぐに国民と各国に伝えろ」

これで国民の混乱も避けられる、そう思い胸を下ろした。



その後勇者は動き始める。

彼は王宮から去った後、真っ先にある場所に向かった。


【転移】その先で見た物を見てまた【転移】またその先で見た物を見てまた【転移】

それを何十回と繰り返す。「全く面倒な趣味だ」


勇者は呟いた。そして、また【転移】そこは森の中。


その森の中に和風の家が一つ。その縁側に一人の女が本を読んでいる。


「やあ、僕の謎解きはゲームは楽しめたかな?」


「面倒だったと言っておこう」


「ふふ、そうかいそれは嬉しいね」


「それで、あの止まった時の中で私を呼んだと言う事はお前がこの現象の首謀者か」


「ああ、そうだよ」


「そうか、では勇者が命じる。今すぐに投降しろ、そうすれば命までは取らない」


勇者は剣を抜く。その切っ先をユニバースに向ける。



「ふふ、君さ。無駄なことはやめた方が良い、だって勇者は「人間を傷つけられない」んだから。」


「悪人だろうと君を殺そうとする輩でもそれが人間なら決して傷つける事はかなわない。だって君は勇者なんだから」



「……」

「でも不思議だよね、君は人を傷つけられないくせに……自分は傷つけられるんだから」


勇者の手首を掴み剣を勇者の首元に押し当てる。首から血が出るがすぐに力で振り払われる。


「……何故、それを知っている」


「何故って500年前じゃ常識だったんだよ。勇者は人を殺せないそう言う呪いをかけられているってね」


「君じゃ僕を殺すことも止める事すらできやしないで、君何ができるのか。尻尾巻いて国に帰るかい?」


「……何故、呼んだ。あの止まった時の中何故、私を呼んだんだ」


「少し話をしようか。……僕はね今二つの世界を見たいんだ。一つは楽園だよ。マスターの願いの叶え楽園を見守り続けていたい」


「楽園とは、あの止まった世界の事か?」


「そうだよ。もう一つは、君と言う支えが無くなった世界をね」


「この世界はいびつな積み木さ、君に支えられて何とか崩れていないだけのね。人間は仮初の平和を過ごしてる。それが無くなった世界を僕は見て見たい」


「本心はこれさ、僕のマスターの望みも自分の願望も叶うのはどちらかまだ僕も分かっていない」


「なら一つ教えてやる、どちらも叶わない。お前を世界が殺す」


「まあ、好きにするといいさでも君は僕の居場所を知らない。その間にまた時が止まるかもよ。そして、君もまた動けず思考だけしか残されていない。それでどうやって僕の邪魔をするのか楽しみだね」


勇者はその言葉を聞くとユニバースに背を向けて歩き出す。


「そうだ、国には敵が人間なこと言わないでくれないか。二週間で結構だからさ」


その言葉に振り向き言葉を投げかける。


「今更命乞いか?」


「命乞いでは無いかな。邪魔しないで欲しいことがあるってだけさ。でも確かに君にメリットは無いね。それならこれを貰ってくれないか」


「これは?」


それは白紙の紙切れだった。


「これはね。僕達の拠点が記してあるよ」


「人を馬鹿にしているのか、ただの白紙だ」


「今はね。二週間後その紙に浮かび上がるはずだよ」


「それが真実だとどうやって証明する?」


「それもそうだね、なら契約魔法を使おうか。」


勇者は少し考えた後、ユニバースに問いかける。


「……分かった、速くしろ」


「せっかちだね【契約】」


「今、我契約を結ぶ。契約は開示。破れば罰その罰は自死とする」


「我、契約を受ける。契約は黙秘。破れば罰その罰は痛みとする」


「これで契約成立だ」


「じゃあ二週間後また会おう。君はどうやって僕を殺すのか楽しみにしておくよ」


「おしゃべりは終わりだ。二週間後の死を待つと良い」


勇者はまた歩き出す。そして【転移】で姿を消した。


(あの勇者は本来なら三日後に拠点を見つけてた。それを二週間に伸ばしたそれだけで十分、でも)


「もう少し、話をしても良かったかな。あの勇者の悲劇とか。でもいっかおおむね順調だし」


ユニバースはそう言ってまた本に視線を落とす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る