負け犬と負け犬と
それにしてもここは何処だ?
森なことは見たら分かるが見覚えは無い。
だがまあいいか森であるなら住んでいける。
とりあえずはこの辺りで暮らすか。
そう思った時だ。
タッタッタッタと足音のような音が聞こえる。
「うっ」
一人の女が木の幹に足を引っかけ私の前に倒れる。
倒れた女は私に気づいたようだが。それより女は足を強く打って走れないようだった。
「ッ、どうして」
少し遠くから足音が聞こえる。なるほど何かに追われているのか。だが。
「人間同士で争い合うとは。愚かなものだな」
「…………人間……ふざけんな!私たちと人間を一緒にするな!貴方も獣人なら分かるでしょ!」
「………人間では無い、か」
足音は近づいているもうすぐそこに居るんだろう。
予想は当たっていて人間が何人か藪から飛び出してくる。
「おい、いたぞ!」
私には目もくれず女の方に走っていく。
どうやら私は眼中に無いらしい。
近寄っていく人間に対して女は何かを叫ぶ。
「近寄るな!触れるな!人間!私は……お前たちを……許さない!」
………………
女に触れようとしていた人間の手首が切り落とされた。
「……なにが?」
「人間じゃないんだろ。助けてやる」
手首を切り落とされた人間が耳障りな悲鳴を上げ泣きわめく。
「ぎゃぁあ!あああ、誰だ、お前。何してやがる」
本当に私に気づいていなかったようだ。
私は人間たちに視線を向ける。
そこには四人の男たちが居た。
一人は失った手を見つめて喚き散らしている。
残った三人は私の方を見ていた。
「てめぇ、なんなんだよ!こっちは急いでんだよ」
「……お前たちが追っているのはなぜか聞かしてもらおう。」
もしかしたら罪を犯しているようなそんな仕方のない理由があるかもしれない。
それならば見逃してやってもいいだろう。
「ああん、なんだよお前。教える理由なんてねえけど。どう見ても奴隷狩りにしか見えねえだろ。ふざけてんのか」
「……期待した私が馬鹿だった」
「さっきから。何だよおま」
「死ね」
人間の言葉を遮り魔法を使う。
光が人間を飲み込み通り過ぎ去った後には何も残っていない。
後ろの女は驚きを隠せない様子だ。
「殺したの?」
「そうだが。何か問題でも?」
「……いや、何でもない。ありがとう」
「礼などいらない……だが一つお前は私を獣人と言ったが私は獣人じゃない」
そう言って私は転身魔法を解き元のフェンリルの姿に戻る。
「その銀色の毛並み、月光のような目。…フェンリル、なの?」
「そうだ、分かったなら私はもう行く」
「ま、待って。お願い、助けて」
「……何故だ」
「今、私の村が襲われてる。貴方ならきっと救える。だから」
「私が言ったのは助けてほしい理由じゃない。なぜお前を助けてやらないといけないかだ」
「あまり、都合のいい妄想をするな」
そう言って私は立ち去ろうとする。
実際、私が女を助ける理由や義理は無いし既に一度助けている。
これ以上は必要ないはずだ。
「待って、貴方が助けてくれるなら。私は全てをささげる」
「何を言って」
「命をささげるって言ってるの!人生を!全てを!だからお願い!」
この女が言っていることは私に大した得は無い、それどころか面倒ごとが増えるだろう。
だが確かに迫力があった。私ですら一瞬、怯むほどの気迫が。
私はこの女の話を聞くことにした。
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