化け物
「はぁ、行き詰まったね」
アリューは雲の上から、膨大で何一つないこの空を見てそう言う。
(もう手掛かりが無い、ハイルデザートは一体何処に?)
「本当に、いやな気分だ」
アリューは一人でそう愚痴る。
「マナを感知してみれば」
「まさか、こんな所に人間が居るとは……何者だ?」
アリューは声がした方に視線を向ける。するとそこには翼を持った女が居た。
「……君こそ何者だい?」
「質問に答えてもらおうか」
「君の方こそ人間では無さそうだね」
「当然、私は天使だ」
そう女が言う。その言葉を聞いてアリューは思わず笑みを隠せなかった。
「そうか、天使か……なるほど」
アリューはそう言って女に向かって歩き出す。
「ありがとう、おかげで楽できそうだ」
「何を言って……なっ!」
天使は驚いた。目の前にいた人間が一瞬で距離を詰めてきたから。
(こいつ!人間ではないな)
天使は咄嗟に距離を取る。そして手に持つ剣をアリューに向ける。
「お前、何者だ?」
天使はそう聞くがアリューは答えない。それどころか笑みを浮かべていた。
「答える気はないのか」
そう言って剣を握りなおす天使。するとアリューが口を開く。
(記憶が読めない……)
「悪いね、僕の質問に答えてくれるかな?」
「……なんだ」
「ハイルデザートは何処にある」
そう問いかけると天使は驚く。
「!なぜその存在を知っている!」
「質問に答えてくれるかな?」
アリューは笑みを崩さず天使にそう聞く。すると女は答える。
「無理だな、きな臭すぎる」
「そんな事よりだ!私の質問に答えない以上!私はお前に攻撃する」
「好きにしな、僕もそうする」
そう言い終わるとアリューが即座に魔法を唱えた。
「祈り、願い、その結果」
詠唱魔法
「【神託待つ愚者の悔恨】」
アリューの魔法が発動する。すると天使の上に大槌が迫る。
「こんなもの!」
天使は大槌を斬り切断しようと剣を振るう。すると剣は簡単に折れ、大槌はそのまま天使を押しつぶした。
「がっ……はっ」
アリューはそれに近づくと天使の顔を掴み上げる。
「僕の質問に答えてもらおうか?」
「私は天使だぞ……こんなの何かの間違いだ……」
(なんて威力だ……私じゃ勝てない……三大天使様なら)
「もう一度聞くけど、ハイルデザートは何処かな?」
「何が……目的だ……」
「ラプラスの悪魔、そいつを殺す事が僕の目的だ」
「ラプラスの……悪魔?待て、そいつは今ハイルデザートには居ない。逃げたんだ」
「……嘘はついて無さそうだけど、それならラプラスの悪魔はどこに?」
「そ、それは……私も知らない……」
「私の目的も同じだ……結託しようじゃないか……」
今にも泣きそうな顔で天使がそう言った。
「それは出来ないね、決着は僕が付ける」
アリューはそう言って天使の顔から手を離す。
(こいつ、化け物か……)
天使はそのまま雲を突き抜け落下していくはずだったが。
天使を誰かが抱きかかえた。
「み、ミザール様!」
「待て、動くな。安静にしていろ」
「今ハイルデザートに送る」
「あ、ありがとうございます」
さっきの女とは違う声が後ろから聞こえ、アリューは振り返る。
そこには黄金の翼が生えた男が居た。
「君も天使?」
アリューはそう男に問う。すると男は答える。
「まずは自己紹介と行こう、我は三大天使の一人、平等の天使ミザール」
アリューはそんな天使を鼻で笑う。
「ふっ、随分安っぽい自己紹介だね。教えるとでも……僕は補助魔法の精霊、アリュー・ジルベス」
(?…口が勝手に……)
「ほう、精霊とな……これは獄罰案件だな」
「そうゆう能力?まあいいや、粛清対象なんでしょ……かかって来なよ」
「ふふ、来ると良い」
そうミザールが言った瞬間、アリューは魔法を唱える。
「【激怒の中】」
アリューの後方から目に見えるほど赤い熱風が吹く。広範囲に吹く風は到底避けられずそれはミザールの体を包み込む。
「クク、痛いなあ!痛いぞ!」
ミザールは体の炎を一瞬で鎮火させる。
「我は今、アリューお前の魔法を避けなかった」
「避けれなかったの間違いでしょ」
「どちらでも構わないさ、重要なのは我が自分で不利益になる行動をしたという事だ」
「それが?」
「我がそうしたのだ、お前もそうしなければなあ?」
「君が何を言ってるか分からないよ」
「我の前では我と平等でなくてはいけないのだよ」
「我の魔術は『自分が行った不利益となる行動を相手に強制させる、【平の調】』」
「つまりお前は私と同じ行動、『相手の魔法を避けない』を今からしてもらう」
アリューはミザールを鼻で笑う。
「来なよ」
ミザールは両手を広げる。すると周囲に無数の炎が現れる。
「奇遇かな、我も炎を使うのだよ」
「【
アリューを中心に四方八方から炎が襲い掛かる。
(確かに避けれない、魔法で防御もできないか……)
「確かに結構痛いね、でもそんな物?」
炎が止み煙の中から無傷のアリューが姿を現す。
「ふん、少しは本気をだせそうだ」
ミザールは手から炎の剣を作り出し、アリューに向かって走り出す。
「本気ね……出させる気あるならさっさとしてよ」
ミザールが間合いに入る、アリューはそれを待っていたかのように魔法を唱える。
「【審判 無情の罰】」
僕が視界に映る生物全てに等しく痛みと傷を与える。
その魔法はミザールに傷をつけるが怯まず剣を振り下ろす。
それを結界魔法で受け止めるがミザールの炎は結界魔法ごと燃やし始めた。
「へぇーマナを燃やす炎か」
アリューは結界魔法を解除すると後ろに飛びながら魔法を唱える。
「【美を映し、刃を映し】」
ミザールの周囲に鏡が出現する。そして現れるのは剣や槍、それらは鏡から飛び出しミザールに傷を付けていく。
「避けられないのなら、受けるのだよ」
アリューはその攻撃でミザールが傷を負う瞬間を見る。
「さあ、次はお前の番だ!」
ミザールの【平の調】が発動する。
「【
そうミザールが呟くと
青い炎が現れ、アリューが攻撃を焼き尽くす。
「熱いのは嫌いか?」
だがアリューは余裕の表情だった。
「嫌いだね」
空間魔法
「【悔恨の末】」
アリューが魔法を唱えるとミザールの周囲に炎の囲いができる。
「なんだ?これは」
ミザールは不思議に思うがその炎は次第に勢いを増す。そして炎は円形に一気に広がり、球状となる。それはまるで密閉されたような空間だった。
(こ、これは!なんだ……何処か覚えがあるような……)
「だがこんなもの切り裂いてくれる……なっ?」
ミザールは炎の囲いに剣を振り下ろすが、剣が出現しない。
それどころかミザールは体外にマナを放出できなくなった。
「君がどんな光景を見て、どんな事になってるか知らないけど」
「ラプラスの悪魔の居場所を吐くか、ハイルデザートの場所を教えるか……さっさとしてくれると嬉しいよ」
「ククク、全くとんだ化け物だな。最高密度のマナで空間魔法を発動することで相手に抵抗さえ許さない魔法か……」
この状況で随分と余裕そうなミザールにアリューは疑問を持つ。
「随分、余裕そうだね」
「余裕か、確かに余裕だ」
「ならそのまま死ぬと良いよ」
ミザールはそのまま炎に包まれ身を焦がされる。
そんな中でもミザールは高笑いを止めない。
そして燃え尽きミザールは死に至った。
ミザールの死体は散り散りになり燃え尽きる。
「ラプラスは逃げたか……また手掛かりが無くなったな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます