終わっていない
勇者は無言でメラニアの元へ行き、その怪我を治療する。その後ディ―ンにも。
「無事か?」
そう勇者は二人に問いかける。
「ほんま、何とか。な」
ディ―ンはボロボロの状態でそう答える。
「こっちも同じく」
メラニアも同様にボロボロの状態でそう答えた。
「そうか、今から私は奴らのアジトに進む。行けるか」
「もちのろん、って言いたいとこやけど。悪いけど少し休ませてくれへん?」
「私も少し休みたい。流石にダメージが大き過ぎてもう限界だ」
「そうか、分かった」
「ごめんなぁ、勇者様。ほな少し休むわ」
「そうしてくれ」
勇者はそう言い、その場を後にした。
★
勇者が見たのは地面が浮き上がりむき出しになっている奴らのアジトだった。
そして、そこに居る何十体のユニバース達。
勇者はその光景を見て思う。
「クローン?それともコピーか?」
そして勇者は更に視線を動かす。
「勇者様ですね、お待ちしておりました」
一人のユニバースがそう言った。
「お前は……」
勇者は警戒を解かずにそう問う。先のユニバースと随分雰囲気が違うと感じたからだ。
「ユニバースの性格は一人ひとり違く、個性もあります」
「そうか、それで。お前は誰だ」
勇者は再度問う。
「私は個体名ユニバース81です」
そう目の前の女性は答えた。そしてその言葉に勇者は言葉を返す。
「それで、お前は何をしたいんだ」
その問いに対しユニバースは問いで返す」
「私達のオリジナルは死にましたか?」
その言葉に勇者は答える。
「ああ、死んだよ」
その言葉にユニバースは目を開く。その目からは涙が流れ落ちる。
「そうですか、それは良かった。ようやく死んでくれましたか」
涙を拭いユニバースはさらに口を開く。「勇者様、私達はホムンクルスです。ですので勇者様の呪いには引っかかりません。どうかこの施設ごと私達を救ってはくれないでしょうか」
そう言い、ユニバースは頭を下げた。
「それは、殺してくれと。言っているのか?私に?」
「はい」
勇者はその言葉を聞き、剣を抜く。
「お前は何が目的なんだ?そんなに自分が憎いのか?」
「私達は確かにホムンクルスです。ですが生まれてから感情を持つようになりました、そしてその感情を学習する内に私は思ったのです」
そう言いユニバースは拳を握る。
「オリジナルが恐ろしいと、あれは何処までも軽薄で薄情な生き物です。そしてあれが生んだ産物、楽園は永遠の暇をもたらす、どうか壊してください。そしてもう一つアレが生んだ産物が我々です。一つ事を学べば『偽物』が私達の心を蝕み、二つ事を学べば自分たちがいかに『理から外れた生』を自覚する。それに苦悩することは私達が『本物』である証なのではと思う。ですが同時に偽物の癖にその思考を持つのは烏滸がましい事です」
そう言い、ユニバースは拳を解く。
「なのでどうかお願いします。死にたくはないのですだ、から私達を殺してください。」
その言葉を聞き勇者は剣を飛ばす。その剣はユニバースの体を真っ二つにした
「そうか、楽になれ」
全員が先の者と同じ思考ではないのかもしれない。だがここを壊す事、一人残らず殺す事、それは世界が望んでいることだ。
「だから、すまない【クラウ・ソラス】」
その言葉と共に一振りの剣が浮く。少しして剣が光を放つ天と地を貫通し、地面を焼き斬る。
光は広がるその光は止む事なく数分続き、後には何も残らなかった。
「…すまない」
勇者は最後にそう言いその場を離れた。
★
「危ない所だったね」
そう言ったのは死んだはずのオリジナルだ。
(魂と肉体の分離、初めて使う魔道具だけど上手くいったね。アジトに何体か魂の無いユニバースを置いておいて正解だった)
「それにしても、さっきの光。嫌な予感がして【転移】で逃げたけど。正解だった」
「さ~て、僕はここから何をしようかな」
★
「みんな、怪我は無いかな?」
アリューがそう問いかけると皆は頷き安否を知らせる。
「アリュー、もう大丈夫だから」
私はかけてもらっている回復魔法をやめるように言う。
「駄目だよ、まだ安静にしないと」
「大丈夫、心配性が過ぎるよアリュー」
「まあ、一番怪我してるのが大将って言うのはかっこが付かねえな」
デルがそう呟く。
「それは、ごめん」
「それでも、ここに全員いる。紛れもない私達の勝ち、でいいのよね。アリュー」
そう言ったのはエヴィリーナだ。
「うん、君達が頑張ったお陰だよ。今日は祝いにうんと豪華に行こうか」
「おーそれにはカネルちゃんもさんせー」
「こうゆう所だけは食いつきが良いな」
そうイーライが言葉にすると。
「なんか言ったかにゃー」
カネルがイーライを睨みながら言う。
「何も」
「そうにゃらいいにゃー」
「どうしたイーライ随分弱気だな」
「イーライ、カネルに遊ばれたもんね」
そんなやり取りをしている時、拠点に残っていた皆が部屋に集まってきた。
「戻りましたのね」
「ユナ、ただいま」
「皆さん、無事で何よりです」
そのご少しの間談笑が続くそんな中、デルが皆に提案する。
「皆でパーっと宴でもしねえか?」
「ん~宴か、まあ豪勢に行くとは言ったしね。やろうか宴」
その提案に皆は賛同し宴会が始まる。
★
「じゃんじゃん作るから、じゃんじゃん食べちゃってね~」
そうアリューが言うと皆は思い思いの料理に手を伸ばす。
「美味いです。アリュー様」「おいしいにゃ~」
カネルとイーライは早速、口に料理を運んでいる。
宴が進むと次第に酒も進む。
そしてしばらくして宴会が盛り上がりを見せる中。デルとエヴィリーナの二人はある話をする。
「ねえ、デル」
「あ~どうしたよ。エヴィ」
「後で最下層にあった、広い部屋に来てくれる?お酒が抜けてからでいいのだけど」
「?おう、分かったぜ」
★
「ねえシータ、少しいい」
「なに?ノア」
「戻ってきたときすごくボロボロだったけど、どんな敵だったの?」
「すっごく強かった、負けるかとも思った。でも相手は何でだろう、殺す気が無かった」
「まあ、あっても私が勝ったよ」
私がそう自信満々に言うと後ろからアリューが声をかけてきた。
「ん~ずいぶん無茶して勝ったのに、よく言うね~」
「アリュー、見てたの?」
「見てたというよりみせられたって感じかな」
「?」私はその言葉の意味がよく分からず首を傾げる。
アリューはそんな私に近づきある言葉を耳打ちする。
「少し、話したい事があるんだ。いいかな?」
「?分かった」
そう言うとアリューはニコッと笑い、宴に戻っていった。
★
「来たぜエヴィ、話したい事って何んだ?」
デルが私にそう問うと、デルは口をもごもごさせている。
「何、食べてるのよ」
「ん、ああ飴玉だってよ、アリューがくれた」
そう言うとデルは口に入れていたものをかみ砕く。
「よし。で話って?」
「……まあ、今日の戦いで私がいかに実力不足かを思い知らされたわ。だから私と模擬戦、してくれない?」
「まあ、いいけどよ。ルールは?」
デルは軽くそう答える。
「互いに【結界魔法】を張り、先に割られた方の負けでどう?」
「オーケーだ」
そう言うとデルは【結界魔法】を張り、私もそれに続く。
「じゃあ、始めようか」
そして私達は模擬戦を始める。
自然のマナを使った魔法の練習がしたくて、少し自分勝手だけどまあいいでしょ。
空間魔法
「【烏合の衆】」
その言葉と共に、空間が黒く染まる。
「あ?何だこれ?」
デルが辺りを見渡しながらそう呟く。
「空間魔法って言うらしいの。ちなみに制御はできないからね」
「……冗談だろ」「マジよ」
「マジか……」
デルは驚いたそぶりを見せる。
「じゃ、行くか【天逆之矛矛】」
デルは【天逆之矛矛】を手に取る。
「まあ、色々試して見ましょうか」
複数詠唱
「
風の矢が何本、何十本と空中に停滞する。
「……エヴィ、あのさ殺す気じゃ……ないよな」
デルは辺りを見渡しながらそう呟く。
「あら、こんなもので死ぬ気なの?」
風の矢が発射され、それがデル目掛けて一直線に向かう。
「言ってくれるな」
デルは閣屋から【闘気錬成:代一無閣】を取り出し、オレンジ色で身を守る。
風の矢は弾かれデルまで届かない。
「そうこなっくっちゃ」
「まあ、私もやるだけやってやるよ」
「ん~何やってるのかな二人とも」
どこからともなく現れたアリューが話しかけてくる。
「模擬戦よアリュー」
「そう……それにしてはちょっと本気出し過ぎじゃない?」
「だよな、私もそう思うぜ」
デルが同意する。それを聞いて私は思うところもある。
「新しく得た力を使いたいってそう思ったの」
「まあ、気持ちは分かったよ」
そうアリューが言った時、【烏合の衆】から【鴉々】が発動されアリューに飛んで行く。
「問題ないよ」
アリューの目の前に結界が浮かび上がり、それに当たり【鴉々】が消える。
「まあ、アリューにはまだまだ追いつけそうにないわね」
「それは、そうだな」
「でもエヴィが空間魔法を使えたって事は、できたんだね自然のマナの掌握」
「まあね」
そう答えるとアリューは嬉しそうにする。
「自然のマナの掌握?なんだそれ?」
デルがそう質問してくる。
「この空間に漂う自然のマナをエヴィは自身のマナと同じように扱える、つまりマナが無限って事だね」「それ以外にも目視できるところならどこからでも魔法を発動できるわ」
「何それズルくね?」
「僕もこんな存在、生まれて初めて見るよ」
(デルがマナを使うまで僕は全くこの戦いに気付けなかった、マナの感知が全くこの子には効かないのか。恐ろしいねこんなステルスが存在するなんて)
アリューは呆れたようにそう言う。それに加えてもう一つアリューが話始める。
「僕が君に教えた空間魔法、実はもう一つ上の段階があるんだ。見たい?」
「……ええ、もちろん」
そう私が言うとアリューが微笑む。
「じゃあ、見ててね」
空間魔法
「【悔恨の末】」
アリューがそう言うとみるみる空間が変わっていく、まるで豪邸の一部屋のような。
「なんだここ、森?」
「一段階上の空間魔法はマナの密度が限界まで空間に有れば発動できる」
「この段階の一番の利点は、そうだねエヴィ、デル、魔法を使ってみて」
そう言われ私は手を前に出す。だけど幾らやってもマナが体の外に出ない。
「魔法が出ねえ」「打てない」
「そう、一番の利点はこの空間に居る発動者以外は魔法が使えないんだ」
そうアリューが言うと空間魔法は解け、空き室に戻った。
(私の魔法も無くなってる)
「これ、消費マナやばいわよね」
マナを密度限界まで空間に放出するなんて馬鹿みたいにマナを食うし、体に負荷がかかりすぎる。
「まあ、空間魔法の消費マナはどの魔法よりも多いね」
そうアリューは答える。
「だからこの段階の空間魔法を使える人は少ないよ」
「そもそも、使えても使う人が居ないけど」
早口でボソッとアリューが言う。
(そう聞くと使いたいわね)
「まあー、私にはよくわからんが、何か凄そうだな」
「そうだね」
そういえば、デルを呼んだ理由の一つをすっかり忘れてた。
「そうだ、デル。これをあげるわ」
そう言ってデルに渡したのは【蒼剣ソデモダ】だ。
「なんだこれ?剣か」
「ええ、私は剣なんて使えないしね。デルなら使えるでしょ」
「まあ、確かにそうだな。ありがとなエヴィ」
デルはそう言うとその剣を空中にしまい込んだ。
(さっきの剣、【蒼剣ソデモダ】いや複製品か、あのジークが?)
(オリジナルはジークと繋がっている?)
(……確かめようがない、考えても無駄か)
「さて、そろそろ僕はシータの所に行くから。君達は宴に戻るように」
「そうするわ、アリュー」
そう言うとアリューはエヴィリーナの部屋に向かった。
「じゃあ私も、皆の所に行くかな」
★
「待たせたね、シータ」
「大丈夫、待ってない」
アリューはシータの向かいの席に座る。
「で、話したい事って何?」
「うん、ちょっとね」
アリューは微笑むと真剣な顔をする。
「君の、お父さんの事なんだけど」
「……父、親?」
「敵から聞いた話だからね、突拍子もない荒唐無稽な嘘だ思ってもいい。でも一応話しておこうかと思ってね」
「分かった、話して」
「じゃあ、話すね。君のお父さんは、金狼セト。有名な怪物さ」
「金狼セト……」
シータはその言葉を復唱する。
「逸話が幾つもあるような、そんな怪物さ」
「その話は本当?」
「どうだろうね、でも嘘には思えない」
アリューはオリジナルの話が嘘には思えなかった、自分以外知らないような事を言ってみせた。
シータの魔術の件のように。
「合ってみたい?金狼セトに」
「うん、母親の事を聞いてみたい」
「そっか、じゃあ行ってくると良いよ」
「いいの?しばらく空けることになるよ」
「大丈夫だよ、ここには僕が残るから」
「なら、行ってくる」
シータはそう決意を固めた顔で言う。
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