武神対勇者
「残るはお前だけだぞ、勇者」
武人は
「武人アストラレアス。いや、武神アストラレアス。お前は確かに強いのだろう、だが一つ言わせてもらおう」「私の前で人をやめた事、その上で私に敵対する事、それを後悔しろ」
勇者はそう言い構えた。
「人をやめた?ああ、そうかなったんだ武神に」
武神は自分の拳を握り、とても満足そうな声でそう呟いた。
「なら後悔は無い、これからどうなろうと俺に後悔は無い。最後にこの世界の絶対に、挑もうか」
勇者と武神は睨み合う、そのどちらもが今まで感じた事のない威圧感を放っていた。
★
最初に動いたのは武神だった。
「
その武神の高速の踏み込みは勇者の頬を擦る。
武神と勇者が一進一退の攻防を刻む、武神の一撃は勇者に当たらず、勇者の攻撃も武神にいなされる。
素手での打ち合い、両者の動きは次第に加速していた。
均衡を崩したのは勇者だ。勇者はこの攻防の中で魔法を発動していた。
「【レーヴァテイン】」
武神の死角から赤い刀身の炎の剣が襲う。
だが武神はその攻撃に反応し、腕を犠牲に致命傷を避けた。武神の腕は燃え盛る剣の炎によって炭化した。
だがそれでも次の瞬間には【現実改変】で無かった事になる。
「早々で悪いが決着を付けよう」
勇者はそう呟いた。それに対し笑みを浮かべ武神は言葉を返す。
「やれるものもんらな!」
距離はゼロ、インファイトは続く。
「
武人の拳は勇者の体を穿つ。だが勇者は後ろに回避、それと同時に魔法を放つ。
「【聖なる光を放つ聖剣の意】」
光を放つ巨大な剣が勇者の手に握られる。
その魔法の異質さ、異常さを武神は勘づいた。
だが武神に逃げるすべは無かった。【現実改変】は使用しクールタイムに入っていて、この剣の範囲外に逃げる時間は無い。そう勇者は思っていた。
武神は覚醒したことで、自身の【極地の祝眼】の力も強化された。
その一つは【現実改変】をストックできるようになったという事。
片目に五個、計十個まで【現実改変】をストックできる。
「【現実改変】」
勇者が光を放つ剣を振ると同時に光を放つ剣は消える。
その事をすぐに飲み込み、勇者は次へと移行する。
「神の剣、神殺しの剣、大蛇切し剣、まとめ十束」
詠唱魔法
「
全身が白く、一つの穴が剣の中心に空いた剣が一本。勇者の手元に現れる。
「とことん付き合ってやろう、武神」
勇者はそう宣言した。そして武神は次の攻撃に備え全身に力を入れ、武神は目を見開いた。
「
勇者と武神の拳が交差する。
そして勇者の剣は砕け、武神の拳も砕けた。
武神の拳から血が流れ、それとは逆に勇者は勢いを落とすことなく言葉を放つ。
「
その剣は【十束剣】の効力の一つ、【十束剣】は十の剣を生み出す魔法。
【十束剣】は一つで十の剣を生み出すが、その能力は使う剣によって違い能力のない剣も存在する。
【神度剣】もその一つである。
勇者の【神度剣】が武神に向け発射される。それはまるで剣が十字に重なったような形状をしている。
「
武神が放った掌底は真正面から【神度剣】を打ち砕いた。
だが時間と意識を割かせる事はできた。その一瞬の隙を使い勇者は次なる魔法へと紡ぐ。
「
武神はすぐに攻撃に転じる。
だが【神度剣】を打ち砕いた時間で勇者はすでに魔法を発動していた。
「
神々しいまでの白い剣が武神の真上から降り注ぐ。
この光景を見て武神は思う、ここで仕掛けると。
武神は【現実改変】で勇者の目の前と移動する、そこは既に【天羽々斬】の範囲外。
勇者は咄嗟に【二代目の聖剣】を発動する。
使用者に一切の傷を負わせる事を許さない最強の鞘。
勇者は「とことん付き合ってやろう、武神」と言った時点で【二代目の聖剣】【聖なる光を放つ聖剣の意】を使わないつもりでいた。
それは武神に敬意を払い。戦士して正しい最後を武神に与えたかったからである。
だが勇者は咄嗟に【二代目の聖剣】を使ってしまった。
それに対し武神は【現実改変】を使い、発動をキャンセルさせていた。
だが武神は一つのミスを犯していた。それは攻撃する前の一瞬の隙、それによる一瞬の油断を勇者は見逃さなかった。見える物ではまたキャンセルさせられる。そう考えた勇者は武神に感知されない不意打ちの魔法を発動した。
「
武神の攻撃、七の連撃が勇者に突き刺さる。
「まだだぞ、終わってねえ。【時間加速】」
武神の【時間加速】それは効力の発動時間が短くなる代わりに、その加速度を何倍にも上げた。
(たったの2秒、だが十分)
死角から放たれる魔法を水によけ武神は考えた。
「
武神の全身全霊を込めた一撃。それは勇者の胴に確かに貫通した。
「お見事だ、武神アストラレアス」
武神の荒い呼吸と共にゆっくりと話を続ける。
「だから一つ私は考えを改めよう」
「お前は、私にとって敵だ」
そして勇者は【二代目の聖剣】を左手に取る。その瞬間開けられた穴は再生武神の腕が吹っ飛ぶ。
「【十束剣】」
勇者がそう呟くと計五本の巨大な剣が宙に浮く。
それは武神に迫る、武神はそれを避けられず体から切断された。
だがまだ意識はある、【現実改変】を使い体を元に戻す。
「てめえ、勇者。力を隠して……」
その言葉と共に振り返った武神はその現状に驚きを隠せなかった。
「は?」
武神の周りには十の剣、そして勇者の手には【二代目の聖剣】が握られていた。
ストックを含め武神には9の【現実改変】がある、その力を使いキャンセルすることもできた。
だが武神には一つの核心があった。全くの無意味だと。
「そんなに驚くな、ただの【聖なる光を放つ聖剣の意】の複数詠唱だ」
「はは、さっき見たぜ。畜生が」
「なら、これはどうだ?」「
その言葉と共に武神の周りに現れるのは夥しい量の光の剣。それは数え切れない程に合われ壁のようになっている。
それを見た武神は【現実改変】を使い、発動をキャンセル。だが勇者はすぐさま【天叢雲剣】を再展開する。
「マジ、かよ」
「穿て、剣よ」
そう呟いた瞬間、武神に剣が向かう。
勇者は光の剣を全方位に発動、無数の剣を生み出していた。
そして【現実改変】によるキャンセルしても次が来る、瞬く間に【現実改変】が無くなり百の剣が降り注ぐ。
次々に剣が腕に胴に突き刺さる、足は切断され次に腕も切断された。
そして勇者が勝ちを確信し【二代目の聖剣】を解除した時、武神は五体満足で勇者の元まで【現実改変】を使い移動していた。
窮鼠猫を嚙む、武神は一つだけ【現実改変】を残しておいた。勇者が極限まで油断する、その時まで。
「我武者羅ァァァ!!!」
だがその拳は勇者に届くことは無かった。その前に一本の剣が武人に突き刺さった。
無情にも飛んできたその剣は【聖なる光を放つ聖剣の意】だった。
ドスッ その音と共に武神アストラレアスは倒れた。
ボロボロと体が塵となって消えていく。
「残す言葉はねえよ」
その言葉を残し武神は完全に消滅した。
勇者はその言葉に対して言葉を返す。
「私はお前とは友達になりたかったよ」
そう言い、武神アストラレアスと勇者の戦いは幕を下ろした。
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