クソオヤジ

それからエヴィリーナは身支度を済ませ、村の人と一通り話しをして別れた。

「フォードと何があったの」

「別に、売り言葉に買い言葉って言うのも違うか。喧嘩を売られた、それだけだ」

「さっきフォードと少し話をしたわ、フォードは、その」

「聞いて気分が良くなるものじゃねえだろうな、まああの性格じゃな」

「いや、次は跪かせるって」

「はっ、プライド捨ててねえんだな。てっきりああいう奴は負けたら愚痴るような奴だと思ってたぜ」


「私はそもそもあんなとこ初めて見たから」

エヴィリーナは少しバツが悪そうに言った。

「まあ、エヴィには悪いと思ってるよ。もっと穏便に済ませりゃよかった」


「それを言うのは私の方。デルについて来てほしかったそんなエゴでデルを不快な目に」

「結果論を気にするほど無駄な事はないぜ」

私はそう言ってエヴィリーナの後を追う。

「なあ、あと拠点までどれくらいだ?」


そう言うとエヴィリーナは少し悩んで指で二を現す。

「二時間?」

「いや?二日」

「……は?」



案内された道は木々がなぎ倒されて、まるで道を示しているようだった。

「こんなんじゃ、すぐ居所なんてばれるはず」

「セトの縄張りに入った愚か者は文字どうり雷が落ちる」

「横に見えるあの焼け焦げた跡がそうか」

「ああ。だが、この跡は最近できたものだ」


そう言ってフェンリルは道の先を見る。木々の隙間から光が漏れていた。

セトの縄張りに足を踏み入れようとする、するとフェンリルは私を睨みこう言った。

「もう逃げられんぞ」

もう逃げるつもりはなかったがと軽口を言おうとして止めた、ここは冗談を言って和ませる場面でもないだろう、何より空気が重い。そしてこのフェンリルはここで去ってしまった。

道を抜けるとそこには開けた場所に出た。


「ほうほう、これはまた妙な奴が来たな」

私の視線の先には間違いなく金狼が居た。

毛が金色に輝き、毛先はなびいてる。そのせいで多少の光がこちらに反射している。

「人の姿をしているフェンリル、それにだ。雄と雌が混じってるなその魂、ま、八割雌ってところか」

金狼は微笑みこう言った。


「意味が分からない、私は女だ」

「そうか、それは失敬。んじゃあ本題だ、何しに来た俺の可愛くねえ子供クソガキ


「やっぱり私の父親はお前か」

「ああ、そうだ。俺の目は色々特別でな見ただけで色々分かっちまうんだ」


「【千物知覚】か」

アリューから聞いた事がある。本来視覚よりも何倍と多い情報を知覚する事が出来る。

例えば走っている所を見れば筋肉の動きやその力の入り具合などを知ることが出来る。

その目は瞳が六つに分かれている特徴がある。


「当たりだぞクソガキ。で、さっさと言えよ本題をよ」

「……私は母親の事を聞きたいんだ」

「母親?ああ、俺も丁度その話がしたかった。少し話をしよう」

そう言うと金狼は地面に伏せた。


「座れよ、こっちが緊張しちまうだろうが」

その言葉に甘えるように私は腰を下ろす。


「まず自己紹介からだ。俺はセト、好きに呼んでくれて構わねえぜ?クソガキ」

「私の名はシータだ。クソオヤジ、そう呼べばいいか?」


「いい度胸だ。気に入ったぞクソガキ」

「まあ、話してやるよ母親の事をよ」



「いい雌だったぜあいつは。力はそれほどだけどな心に持つものが違う、しんが強え」

「俺を愛してた、俺は愛していなかった。だが情は湧いた、だからお前を残した。初めてだっただぜ俺も」


「で、ここで俺はあいつに飽きた。つまらなくなったからその日のうちにテキトーにどっか行ってそれっきり」


「いやあ芯の強い奴だとは思っていたけど、まさか雄を捕食せずガキを身ごもった状態で。そのままガキを産めるだけの栄養を確保するとか驚きだよな」


……とりあえず、頭を整理した方が良い。

1・こいつはクズだ。間違いない。

2・とりあえずこいつは嫌いだ。


「で、なんでお前はのあいつ喰ってんだよ」

「……え?」

全く予想のしていなかった時に全く予想をしていなかった問いを投げかけられる。

「お前が殺したのか?喰うために?」

「いや、それは」


殺したのは私じゃない、喰らったのは備蓄の無い冬を生き残るために……いや違う、ママが死んだのは。私が言いつけを破ったせいだ。そうだ私のせいで……


「死んだのは私の……せいだ。ママを殺したのは私だ」

「そうかよ、まあ大体理解した。次は俺を喰らう気か?」

「違う、私は」


「はっ何も違わねえ!俺は俺のしんを信じる、クソガキィ!てめえは敵だ!」

「私は……」

「これ以上何も聞きたくねえよ、死んでくれ」


そう言うとセトは立ち上がり私に向かって金の剣を飛ばす。



それを咄嗟に結界魔法で防ぐ。

そしてこの話し合いは殺し合いに移行した。

セトの足に雷が溜まる、セトが飛び出した瞬間金の剣を生成しそれを口に加えた。

「てめえにもう逃げ場はねえ!」


セトが剣で私を切り裂こうと肉薄する、それを四重の結界魔法で何とか防ぐ。

「なあ、クソガキどっから持ってきたその補助魔法。誰に教わった」

「答える訳ないだろ」


結界を挟んで私達はお互いの顔を睨む。

「そうか、じゃあもういい」

「もう、死ねよ」

セトは宙返りをして離れたそれと同時に雷が天から落ちてくる。

その瞬間四重の結界が破壊された。大体が軽減されてはいるが体がしびれる。


「もういい、話し合いなんて。お前は私の糧にしてやる」

こいつは嫌いだ、お前にママを思う気持ちなんて許されない。

ママに苦労をさせたことを許さない。


「かかってきやがれ、クソガキ」


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