崩壊

アリューは空間魔法を解いて歩き出す。

歯を食いしばり、言葉を漏らす。

「スッキリしないもんだね、復讐って」

「この魔法、使わなければよかった」

そう言ってアリューは歩き出す。

拠点の入り口を見ると、人影が数人見える。

「出せー!カネルちゃんを行かせろ!」

ドンドンと結界を叩いている。



(あ、来られると邪魔だったから、入り口に結界魔法を張ってたんだっけ)

アリューは結界を解いてカネル達に話しかける。

「やあ、皆。久しぶりだね」

「カネルちゃん思いま~す。どこいっとたんじゃ!」

「本当にその通りね、こっちの気も知らないで」

「ですが無事でよかったですアリュー様」

「ん~君たちが僕の心配をするなど百年早いよ」

そう言ってアリューは鼻で笑う。

「アリュー様……何か変わりました?」

「そう?」

「それより戻ろっか、三人の様子も見たいし」

そう言って拠点に戻っていく。

(僕はもう死ぬ事すら許されない、この子達の結末を見届けるまで死なないよ)

(だから僕はまた逃げるよ)



ハイルデザートの王宮の一室。

その部屋のあるクリスタルから何かが形成される。

それはある大きさになった瞬間明確な形を成す。

「はぁ、もう。最っ高!」

クエンは突然大声を上げて笑いだす。

「おっと、笑ってる場合じゃないわね。速くしないとミザールに殺されちゃう」



白と金を基調とした建物が多いハイルデザートに死体と血が溢れ、その景観は見るも絶えないものとなっていた。

「ミザール!」

エルメスは叫びながらミザールに切りかかる。

それは複数人の天使によって止められる。

「ぐっ!」



「エルメス、簡単な事だ。その平の調を受け入れろ、我の僕となれ」

「お断りだ」

「なら、そこで待っているがいい」

「我がクリスタルを破壊した後、お前を殺しに来る」

「……何がしたいんだ!ミザール!」

なにも言わず去ろうとするミザールは天使達に命令を下す。

「動けないよう、力封じの鎖を付けよ」

天使達はエルメスに鎖をかけようとする。




「あら、止めてくれない?」

そう言って現れたクエンはエルメスの周りにいた天使を切り付け引きはがす。

「クエンか」

「あら?ミザール、これ貴方の力?」

(頭に響く、これを受け入れると下僕になるのね)

「生憎、誰かの下に着く気は無いのだけれど」



「ああ、だろうな。はなからお前は我の物になる気は無いだろう」

「そうよ、私は私だもの」

クエンは天使達と戦いながらミザールと会話を続ける。

「全く、他の天使たちは全員従えちゃって」

「クエンよ、我の邪魔をせぬなら見逃してやってもいいぞ」

「お断りね、見逃す気なんてないものね」

天使がクエンに襲いかかるが、それをいとも簡単に切り伏せる。



「ハイルデザートから逃げられないように結界魔法なんて張っちゃって」

クエンはミザールに向かって走る。

「【平の調】」

ミザールはただ立ち尽くす、だがそう呟いた瞬間クエンの動きも止まる。

「お前とやり合い勝てるとはさすがの我でも思えんのでな」



(不味い、これやばいわね。だってミザールが自害すれば【平の調】によって私も自害しなければならないし、当然ミザールが先に生き返る)

(もちろんそこでクリスタルを破壊されると私は生き返れないわけで……)

ミザールはクリスタルに目を向ける。


「分かっているようだな、クエンよ」

「もちろんよ」



(でもねえ、ここで諦めるのもねえ)

そう思考を回すといくつか思いつく。

(殺すか、逃げるか………泳がせた方が面白そうね)

「【現実改変】」

クエンは現実改変によって金縛りの状態を解除する。

それと同時にエルメスの下に駆け寄る。



「エルメス、速く【転移魔法】を使いなさい」

「クエン?」

「駄目だ【空間遮断】が張られている」

天使が切りかかるがそれをいとも簡単に避け切り伏せる。

そしてエルメスに触れようとする天使をクエンは殺す。



「そう、なら」

「【現実改変】」

「クエン?」

「しないと死ぬわよ!」

随分な笑顔でクエンがそう叫ぶと、エルメス達の体が光に包まれ消える。





「はっ」

クエンはさっきまでいた草原に転移される。

「ミザールからは逃げられたみたいね、でっどうするの?エルメス」

「……私は何が何だか」

「何って、ミザールが裏切って天使の大半を操ってる。それ以外に分かる事なんてないわよね」



「でも、ミザールが裏切るなんて……」

クエンはその言葉に疑問を持つ。

「貴方、まさか気づいてなかったの?」

「何を?」

「ミザールは暫く前から付喪霊が見えてなかったじゃない」

エルメスは驚愕する。

「まさか、クソ」

クエンは顎に手を当て考える。



「私はミザールを止めるぞ、クエン」

「ええ、頑張ってね」

「手伝ってくれないのか?」

「あら、私も私に害があるなら手伝うわ。でも正直そんなにワクワクしないのよね。もうちょっと事が大きくなったら私も動くけどね」

「クエン!これはそんな悠長に構える問題じゃない」



「貴方はね、でも私には関係ない」

「クエン……」

「私はね、エルメス。私が楽しければそれで良いし、この世界が滅ぼうとどうでもいいわ」「そして貴方も」

「え?」

クエンは笑顔でエルメスに言う。



「興味が無いわ、死んでても生きてても。私にとってはどうでも。だから私を縛ろうって言うなら、殺すわよ」

「……つまりだ、お前が興味を持てばいいんだろ」

「どうするつもり?」

「お前を楽しませればいい」

クエンは愉快そうに笑う。

「くっ、ふふふ」

エルメスもそれにつられる。

「なんだ?」

「いや、エルメス。貴方最高よ」

そう言って二人は笑いだす。



そんな二人に天使が切りかかる。だがその攻撃が届く事は無かった。

クエンによって切り伏せられたからだ。

そしてクエンは言い放つ。



「まあ、何があったか調べて教えなさい。面白そうなら手伝ってあげる」

クエンはそう言って歩いて行く。

それを見たエルメスも逆方向に歩いて行く。

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