御伽噺
それから何日か経ち、男達はノアールへとたどり着いていた。
「着いたな」
王国と呼ぶのに相応しい巨大な城、強固な砦。
美しい町並みは男たちを昂らせる。
「今から、俺達はあそこで住めるぞ」
男達はそう呟きながら馬車を降りる。
そして、その砦へと足を進める。
そんな時、門番の口が開く。
「そこで止まれ、入国か?」
「ああ、そうだ」
門番の男は訝しげな顔をしながら言う。
「悪いが、一般人の本国への入国は断らせてもらってる」
「……どういう事だ?」
「エルフとの国境沿いの国々からの移民がこのノアールに押し寄せていてな」
「それ以外にも不安に駆られた者たちが強固で強靭な我が国に移住しようとしていてな」
「もう国は人でごった返してんだ、悪いが飲み込んでくれ」
「なんだと……」
それを聞いた一人の男が門番に詰め寄る。
「それじゃあ、俺達は入国出来ないのか?」
「ああ、そういう事だ、悪いが諦めてくれ」
そんな門番の言葉に先頭の男の一人が叫ぶ。
「これを見てくれ」
そう言って男は馬車の荷台から少年を引きずり出す。
「んーーー!んーーー!」
「こいつを」
「……待て待て、何してるんだ」
門番が焦った様子で男達に言う。
「こいつは不死身のガキだ、ノアールの軍に売りに来た」
「ふ、不死身?何を言って」
「試して見るか……今ここで」
そう言って男は剣を抜く。
「……んーーー!」
少年の叫び声が響いた。
振り下ろされた剣は少年の首を飛ばす。
「な!」
男達が声を上げると同時にその首は再生した。
「はは、マジか……気色わりい」
「……何だ?何なんだこいつは」
門番の男は震える声で言う。
そんな男の肩を掴みながら男の一人が言う。
「頼むよ、こいつで入国させてくれ」
「……待て、確認を」
その後は、門番の男に言われた通りに入国の許可を貰った。
「ノアール城の訓練場にこれを誰かに渡せ」
「ああ、分かった」
そう言われて男達は一枚の紙をもらう
そんなやり取りをして男達は馬車を城に向けて走らせる。
★
そして、男達は馬車に揺られノアール城までたどり着いた。
「ふう、ここが俺達の都か」
「でっけえな」
「ああ、あのスラムとは大違いだ」
そんな男達の話し声を聞きながら少年は馬車から降ろされる。
「んーーー!」
「うるせえな、黙ってろ」
そして男は少年を引きずりながらノアール城へと入っていく。
「こっちだ、着いて来い」
先の話をきき、一人の男が案内について来ていた。
「ああ、助かる」
案内されながら男達はノアール城の通路を進んで行く。
そこからとんとん拍子に話は進んでいく。
男達はまず初めに騎士団長の所まで連れていかれた。
実際にその光景を見せられ、騎士団の上層部は興味を持つ。
そして男達の交渉が始まる。
「……不死身、魔術か?」
「魔術?えっと、それは分からねえですけど。多分そうだと思います」
「……まあいい、それより。再生に上限はあるのか?それと不死身の証明をしてくれ」
「再生に上限は……分からないですけど。体を切り刻んでも、首を刎ねても生き返りますし、それに体が半分になったとしても生きてます」
「……そうか」
男は考える。どうすればこの少年が不死身だと信じてもらえるのか。
そんな時、向かいの男に誰かが耳打ちする。
「なるほど……ひとまず交渉は終わりだ」
「!ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「女王が会いたがっているようだ。値踏みの交渉もそちらで行ってくれ」
「そう……か。分かったぜ」
男は肩を落としながら言う。
「よし、案内してくれ」
そんな男の言葉に兵士の一人が答える。
「……こちらになります」
★
男達は女王が待つ部屋まで通される。
その部屋にいたのは美しい女性だった。
「着いたか……そこに跪け」
そんな女を見て男達は緊張しながら答える。そんな男達に女は言う。
「その不死身のガキ、どうやって手に入れた?」
「スラム街で拾ったんです」
「そうか……」
そう言いながら女王は少年の方へと向かって行く。
恨みと苦しみが募る眼を見て女王は呟く。
「この私の前で嘘をつくか……いい度胸だ」
その迫力に気圧され、男達は口を開いた。
「不死身の噂を聞き、ガキを探し出して、母親を殺し……それでここに」
「はっ、なるほど」
そう言うと満足そうに玉座へと座る。
男達は唖然とする。そんな男達を見て女王は言う。
「お前達はそのガキを渡す代わりに金と地位を寄越せといったな」
「え、ええ」
「良いだろう、お前ら全員の望みを一つ叶えてやる。」
その言葉を聞いた瞬間、男たちは喜びの表情を隠せないようだった。
「本当か!」
「ああ、本当だ」
女王は考える素振りも見せずに答える。
「案内してやれ」
「承知しました」
執事らしき人が返事をし、少年を置いて男達を別室へと連れて行く。
★
残された少年に王女は近寄り、少年の目を見る。
「お前の望みも一つ、叶えてやる」
口枷を外し、続いて甘美の言葉を少年に告げる。
「あの男達を、母親の仇をその手で、殺したいんだろ」
耳元で囁くが目線は外れている。
その言葉を聞いた瞬間、少年は頷いた。
「殺したい」
少年は憎悪に満ちた瞳で女王を睨みながら言う。
そんな少年に王女は優しく微笑む。
「そうか好きにやれ」
そう言って一本の短剣を少年に渡す。
それを受け取り少年は、少し考えるように立つ。
「どうした?」
「……あいつ等を殺したら、僕はどうなる?」
そんな少年の言葉を聞いた王女は笑いながら答える。
「後先を考える程、余裕があるのか?」
その言葉と同時に扉が開き男達が戻ってくる。
少年の姿を見てそのゲスの笑みが崩れていく。
「閉めろ」
女王が兵士にそう命令し、扉は閉められる。
何が起きるかの察しが着いたのか、男たちの一人が扉の方へかけていく。
「待ってくれ!」
「出すな」
兵士は男を押し返す。
「おいおい、待て待て待ってくれよ」
「さあ、やれ」
そんな王女の声と同時に少年は、男達に向かって駆けていく。
★
それから、王女は玉座からその光景を楽しそうに眺めていた。
結果は少年が数に押されて終始、殴られ蹴られの一方的な暴行を受けていた。
「ふっ」
少年が動かなくなった時玉座で王女は笑った。
「所詮ガキか」
「はっはっ……おい聞いてねえぞ」
「俺達を殺すなんて、ふざけんな!ガキを連れてきたのは俺達だぞ!」
そんな男達の叫びに王女は笑いながら答える。
「ああ、そうだな。だが、言っただろう。お前らの望みを一人一つ叶えてやると、これはそのガキの願いだ」
「ふざっ……けんな!」
男は少年から奪った短剣を女王に向けは叫ぶ。
「……はあ」
「跪け」
玉座に腰を掛けたまま王女は言う。
そう言うと周りにいた兵士の全てが跪く。
「……でもこれで終わったんだろ!俺達は貰うもん貰って帰らせてもらうぞ!」
女王は男の言葉を受け、笑いながら言う。
「ああ確かに。でもお前達が帰る事は無いがな」
「……は?」
「二つ、罪を犯した。一つ、この国では公的な者を除き奴隷は一切禁じている。二つ、この私への……不敬だ」
その言葉に男達は混乱する。女王は続けた。
「貴様たちが目の前にしている相手は誰だ?この国の……頭だぞ?」
「ま、待ってくれ。俺達……礼儀なんて知らねえんだよ」
「どちらせよ、下郎が私の前で無礼を働いた。それ以上のことではない」
王女は笑い声を上げる。それは男達の悲鳴のようにも聞こえた。
★
あれから少しして玉座の間で女が一人立っている。その足元には五人の死体が転がっていた。
「この少年はどうなさりますか?……軍隊長に預けますか?」
女王は近衛兵の言葉に少し考え、答える。
「……そうだな、そうしよう。所でだ、お前はこいつをどう見る?」
近衛兵は少し考え答える。
「そうでございますね……不死身で自爆特攻、拘束対策の魔法を組み込む。という感じでしょうか」
「どう見る?と言ったんだどう扱うかじゃない」
女王は笑いながら言う。その雰囲気に近衛兵は少し怯えながら答える。
「失礼いたしました。そうですね……ただの少年かと」
「ふっハハ、あの無礼者どもは不死身なんて物じゃない、もっと恐ろしい物をこの城に持ち込んだ」
女王は笑い続ける。
「それは、貴方様の精霊の目でお分かりになられた事ですか?」
「ああ」
女王は笑いながら答える。
「あれは、この世界における害悪だ」
そんな王女の言葉に近衛兵は驚きの表情を浮かべる。
「貴方様が、そこまで言われるとは。あの少年は何者なんですか?」
「勇者だ……目覚めればこの世の均衡を確実に崩す」
「勇者……御伽噺の類かと思っておりましたが」
「御伽の中から出てきたか……」
王女の言葉に近衛兵は少し考えるように間を置いて言う。
「では、どうしますか。今のうちに拘束し、封印でも致しましょうか?」
「いや使う、あの少年を使い。この戦争に勝つ……そして我々ノアールが世界の頂点に立つぞ」
「承知しました……この事は騎士団長にお伝えいたしましょうか?」
王女は近衛兵の言葉を聞き答える。
「いや、まだ伝えなくていい。とりあえずは不死身のガキとして戦争に送り出せ」
「そして、騎士団長にはこれだけ伝えておけ。「飼いならせ」とな」
「承知しました……それでは私はこれで、失礼いたします」
そういい近衛兵は少年を連れ王女の元を去った。
★
それから数時間が過ぎて、少年は見知らぬ天井で目を覚ます。
「ここは……どこ」
そんな少年の呟きに反応する様に、部屋の入り口から声が聞こえる。
「起きたか」
それは、騎士団長と呼ばれていた男だった。
「……」
少年はその男に憎しみを込めた視線を送る。
「……ママの所に帰らせて」
「無理だな、お前は既に俺達ノアールの所有物だ」
「それに、死んだんだろ。その様子じゃ」
そんな言葉に少年は現実を突きつけられる。
「僕がここに居るのは不死身だから?」
「ああ」
……僕のせいだ。僕がママと一緒にいたから。
こんな力があるから、だから狙われた。だからママが巻き添えで死んだ。
僕のせいだ……
そう少年は考え、深い絶望に堕ちていく。
「でも、結局こうなったのはこの戦争のせいだ。」
「あの男達だって戦争でもなければお前を狙わなかっただろう」
「お前がやる事は一つだろ戦争を終わらせればいい」
少年は縋る物を求めるようにその言葉を聞き入れた。
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