フェンリル対半フェンリル

「それじゃあ、行ってくるアリュー」


「うん、今日のうちにみんなは僕が鍛えておくよ」

何処に行くか何をするか。それは人間の国へ行く。


「大丈夫だと思うけど気を付けてね」

「分かってる」

「僕に助けを求めても良いからね」

「その時はお願いする」

「じゃあいってらっしゃい」


アリューに見送られなが転移魔法を使い移動する。



 今朝、地図を見せてもらった。

その地図によれば今から向かう国は。商業国家カルバドリア。

そこはこの世で最も商業が盛んであり。世界でも有数の大国でもある。

私はここで奴隷を買う。


 今は私を合わせて6人。情報収集をするにしても余りにも人手が足りない。

だから手っ取り早く数を揃えられる奴隷を買いに行こうと思う。

門番に通行料を支払い街へと入る。


 街の中は活気があり賑やかな雰囲気だ。

あっちに見えるのは港だろうか? 大きな船が停泊しており沢山の人が出入りをしている。

「さて、どこに奴隷商がいるのやら」


 エルフたちを襲った奴らから奴隷商売がある事は予想できる。

ならそれを生業としている商人もいるだろう。

適当に当たりをつけて歩き回る。

しばらく歩いていると路地裏へと続く道を見つけた。


 とりあえず自分で見つけられるのならそれでいい。

そう思いながら薄暗い道を進む。

そこには浮浪者やらならず者たちがいた。

ここはスラムだろう。何にしても運が良い。

私は一人の浮浪者に目を付け、目の前に金の入った袋を投げ話しかける。


「お前、少し話を良いか?」

「………」

寝ている?いやふりか。

なら別の手段を取るまで。

「話を聞かないなら、金は返してもらう」

「ふぁ~たく。お宅も固いな。…お!これは随分と美人さんじゃねえか」

そう言いながら男はこちらを見る。

男の見た目はほそマッチョな中年男性と言った所だ。

歳は40あたりだろうか。体は痩せているが筋肉はあるようだ。


恐らくは元冒険者と言ったところか。

「それより話がしたい」

「ああ、いいぜ。こんな場所に来るってことはあんたも訳ありだろ」

「まあ、そうだな」


「俺はドルガだ。よろしくなお嬢ちゃん」

「慣れ合うつもりは無い、早速本題に入らせてもらう」

そう言い切りそしてそのまま話を続ける。


「奴隷が欲しい、できれば正規ではなく非合法で買えるような奴が」

「なるほどね。まっいいぜ。いくつかは知ってる」

「そうか、案内しろ」

「いいけどよ、もう少し色付けてくれないかね」

ちっ、図々しい奴だ。

「中身を見てみろ」


袋の中を見て見るよう言い。男はそれを確認する。

「お、まじか」

「どうする」

「分かった。ついてきてくれ」

そう言って男が立ち上がる。私は男の後に続いて行く。

「着くまでに互いのお話でもしようや、ちなみに俺は元々冒険」

「断る、慣れ合うつもりは無いと言ったぞ」

「ん~つれねえな」


そう言いながらも男は楽しそうに笑う。

それから暫く歩いた所で。

「着いたぞ」

そう言われて目の前の建物を見る。

そこにあったのは普通の建物だった。ただの民家のような。


「ここか?」

「ああ、そうだぜ」

そう言うと男は裏手に回り込み、そこにあった扉を開ける。

「さあ入ってくれ」

言われるがままに入る。するとそこには地下への階段があった。

その先には薄暗く長い廊下が続いている。

「こっちだ」


そう言うとドルガは先に進む。

私もそれについて行き奥へと向かう。

「ここから先は一人でな」

突き当りの扉の前で立ち止まりそう言う。

「そうか、さっさといけ」

「へいへいっとお気を付けて」

私は扉を開け部屋に入る。

中には初老の人間が一人椅子に座っている。


「いらっしゃい。と言いたい所だが誰だいお前さん。ここは会員制だぞ」

 ? あの男、会員制の店に連れてきたのか。

仕方がない。少々強引な手段でも取らしてもらおうか。

指を鳴らし魔法を発動し店主の首に光の剣を突き立てる。

「悪いな、金は払う」


 首に当てられた光る刃を見ながらも店主は冷静に話す。

ポケットから煙草を取り出し、火を付けながら私に質問を投げかけた。

「全く、一体どこのどいつだ。面倒な客連れてきやがったのはよぉ」

「…確かドルガと名乗っていた奴だ」

「あぁ、あいつか。くそが、余計なことしやがって」


私の答えを聞いて、ため息と同時に煙を大きく吐く。

「ここで取り扱っているのは、獣人と魔獣だけだ。どっちが欲しい」

情報収集をするんだ、獣人でいいだろう。

「獣人で結構だ」

「そうかい、ならついてこいよ」

そう言いながら店主は立ち上がり奥のカーテンで隠された部屋に入る。

私もその後に続き部屋を入る。

「手前は魔獣、奥が獣人だ。ここは縦長何でな、少し歩くぞ」

縦長、確かにそうだ。奥までずっと続いている。

「ああ、分かった」


そう答え、奥まで進もうとする時、なぜかこの先に進むのを体が拒んだ。

「なんだ、この感じ……」

分からない、とにかくこの先に進みたくない。そう思えた。

「おい、どうかしたか」

「いや、なんでもない」

店主が声をかけて来たので、拒む体を無理やり動かし進む。

すると急激に気分が悪くなる。まるで何かを拒絶するかのように。

「うっ、ん。ああ」


「……ここは魔獣の脱走を防ぐためにある障壁を張ってある、魔獣が逃げ出さないようにな」

 魔獣への障壁!だからフェンリルの私にも効いているのか。

不味い、どう考えても不味い。最悪この男を殺してでも。

「お前さん、何者だ?」

「嘘はつくなよ。それは人間には反応しないものだ」

この男の行動次第では即殺す、そう覚悟を決める。

「……私はフェンリルだ。それ以上は答えるつもりはない」


「……」

そう答えると店主は驚き声も出ないのか、黙り込む。

気分のほうももう回復している。いつでも殺せる。

「どうした」

店主は背を向け奥に足を進める。

「ついて来てくれないか。合わせたい奴隷がいる」

「……?」

余りにも想定していた行動と外れ、困惑してしまう。

「俺を殺すか。フェンリルなら簡単だろうな。でも止めとけ。俺はお前さんをどうにもできない」

「傷を持ってる人間だ。…そもそもそうでなきゃこんな商売してねえな」

最後は吐き捨てるように言った。


「分かった。合ってやる」「そうか、感謝するよ」

 そう言って店主は歩き出したのでついていく。

会話も無く少し歩いた所で、檻に入れられているのが魔獣から獣人になっていた。

そこで止まることなく店主は歩き続け、ついに最奥までたどり着いた。

そこには一つの扉があり、店主はそれを開ける。


 そこには一つの巨大なベットと一人の獣人に群がる三人の女の獣人がいた。

部屋は奴隷部屋とは思えないような豪華さと広さがある。

「ん、おいジジイ。部屋に入るならノックくらいしろよな。お楽しみ中だぞ」

そう言ったのは群がられている、一人の獣人だ、乱暴な言葉遣いと裏腹に見た目は女だった。

髪色は黒、瞳は月光のように輝いている。


「ジジイ、その子。新しい子か?結構好みだな。褒めといてやるよ」


そう言うと女はこちらを見る。勘違いされたままも癪なので訂正しておく。


「違うな、私がお前の物になるのではない。お前が私の物になるんだ」


「へえ、おもしれぇ。やってみろよ」

そう言いながら私の目の前に歩いてくる。

「で、名前は?私はデルだ」

「シータでいいさ」


「お、てかジジイこいつ何だ。客か?」


「まあそんなところだ。でもただの客じゃねえな」


「ふーん、そうかよ」

そう言うとデルは私の周りをぐるりと回る。

「獣人、じゃなえな。匂いが違う」

「そうだ、どうやらフェンリルらしくてな」

「!?マジかよ!」

そう言いながら目をキラキラさせて私を見つめてくる。


「お前フェンリルなのかよ。ま、ジジイが言うんだ本物だろうな」

そう言いつつデルはベッドに腰かける。

そして私に問いかけてきた。


「な、獣人はなんで生まれたと思う」

「?獣と人間の間に子供が宿ったからだろう」

今は獣人と獣人から生まれる。まあ当たり前だ。


「そう、その通り。でも今はそんなの獣人じゃ無いんだとよ」

質問の意図がようやく分かった。

「なるほど、お前はそう、なんだな」


「正解、私はフェンリルと人間の間に生まれた獣人。つまり半分はお前と一緒。親近感湧くよな~」

確かにそう言われると不思議な感覚だ。だがそれだけだ。

「そうかもしれないな」

「まっ、興味ないって顔だな。それでいいけどよ」

実際全く持って興味がない。

「それで、私を買いたいんだろ。なら試させてもらうぜ」

そう言いながら私の方を見てニヤリと笑う。


その言葉を聞いて驚いていたのは店主だった。

「おい、売るとは言っていない。合わせたいと言っ」

「黙れよ、ジジイ。私の道は私が決める。指図は受けねえ」

店主の言葉を遮り、私に向かって話しかける。


「お前達、下がってろ。奥の部屋に行け」

後ろに居るの獣人達に命令すると、「はい」と返事をして奥の部屋に行った。

「始めようぜ。フェンリル」

デルが立ち上がり私の前に立つ。

「ああ、来い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る