第74話 お姉様、インターセプト

 まあ、人が集まれば、どうしても、こういう輩が出てくる。


「君、可愛いね。名前教えてよ」

「すいません。ご注文は?」

「どこから、来たの?」

「そのコスは、お揃いだね」

「三つ子かい?」


 男ばかりのテーブルで、ひとりが手を挙げたのに気づいてライムがオーダーを聞きにいったのだけど、


「ご注文は?」

「可愛いね、 君。ーなんちゃってぇ」


 男たちはニシャニシャと笑いながら、ライムを揶揄っている。

 初めて同級生の川合さんからオーダーを取ってから、幾つか、こなして仕事に慣れてきたところで悪い輩に引っかかってしまった。

 俺はといえば、ライムの場所から離れたテーブルの片付けをしていたのて、気付いても対処が遅れた。


「誠に申し訳ありません。ご注文がお決まりになりましたら、再び手を挙げていたたげますか」


 お辞儀をしてライムは踵を変えて、他のテーブルへ行こうとした。すると、1人の男がライムの手首を掴む。


「もうちょっとお話ししようよ。そうだ、終わってからなんてどうかな」

「そうだ、ドライブ行こうよ。夜景のキレーなとこ知ってんだ」


 ライムは手を振り、握られている男の手を振り解こうとしているけどなかなかできないでいる。


「そう、邪険にしなくてもいいのに、俺たち優しくしてあげるよ。いいことしようよ」


 とうとう、ライムは顔を背けて、キョロキョロとあたりを見渡していった。俺を探しているんだろうか。


テーブルの間を素早く移動して俺は彼女の後ろへつけた。


「よく我慢したね。偉いや」

「ふぇっ」


 ライムの体から緊張感が抜ける。


「ライム、手をひらいて」

「えっ?」


 驚きつつもライムは掴まれている方の手のひらを広げてくれた。

 俺は、彼女の腰を抱え込むようにして、一歩、相手に踏み込ませた。そして後ろから肘の下に手を入れるとライムの腕を外に捻りつつ、上に引き上げる。

 相手の手が怯んだ隙に彼女を抱き寄せて相手から引き剥がした。


「ごめん、遅れた。怖がらせたね」


 後ろからライムの耳に囁いてあげる。彼女は体の力を抜いて俺に寄りかかってきた。


「こっ、こわかったですぅ」


 思わず、後ろから彼女を抱きしめてあげたよ。

俺は、相手を睨みつけて、


…実はその後が言えなかった。


「私の妹に何をする気でしたの」


 俺の横から詰問が飛ぶ。

この声はマゼンタじゃない。でも聞き覚えのある声だったりする。


「胡蝶か」

「お姉様!」


 俺もライムも彼女の方を見て驚きの声を出す。このハーバープレイスに来ることは、誰にも言ってないはず。偶然にしてはでき過ぎだろ。


 ぜぇー、ハァー


 ここまで走ってきたような、息遣いが聞こえる。最初の一声が精一杯だったんだろうね。

 ターコイズのシフォンブラウスにクリーム色のスキニーパンツ姿で、足元はベルトサンダル。長い黒髪はクルリンバのハーフアップ。慌てて来たのか、髪はほつれが少々。マニキュアやペデキュアもしていない。いつものゆるふあが崩れてる。

 

ちょっとしてから少し落ち着いてきたんだろう、


「妹の手首を掴んで引き留めまでして、な、に、をする気でしたの」


胡蝶は、言葉に力を込めて男たちへ話していく。


「何って、楽しくおしゃべりしていたんだもんねぇ、ライムちゃん」


 彼女の眦があがる。


「お黙り!」


 ライムの男たちに掴まれていた手をそっと掴み、男たちに見せつける。


「見なさい。乱暴なことするから、赤くアザになってましてよ」


   カシャ


 いつの間にか、近くに来ていた、胡蝶のお仲間の生駒がスマホでライムのアザが浮き出た手首を撮影した。


「これで充分、警察へ突き出せましてよ。強要罪、威力業務妨害で」


思わず、


「胡蝶、そこまでは」


 今のを聞いた、多分ボス格の男の肩が跳ね上がる。そして呟く、


「いま、'胡蝶'って言わなかったか?」


 またまた、胡蝶のお仲間の吉乃が、その男の背中側に回り込みから耳へ、こそっと、


「……」


男の顔色がかわり、そして呟いた。


「き、ょ、う、け、ん」


’狂犬' 胡蝶がやんちゃしていた頃のあだ名のひとつだったりした。


「お俺は帰る。テメェらもずらかれ!」


 ボス角の男が仲間に吠えると席を立って、スタコラとスペースから出ていってしまう。


「おいって待てよお」


 残りの男たちも、おっとり刀で出ていってしまった。


「ふんっ」


鼻息荒くしてるよ。せっかくのゆるふあ美人だった胡蝶が台無し。


「一昨日きやがれっ」

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