第16話 いきなりですが荒れ模様

 ●   ●   ●   ●   ●

   ◇   ◇   ◇   ◇


「おはよう」

歩美に声をかけるのだけれど、暗く沈んでしまう。

昇降口から教室まで廊下の隅を歩いてきた。人目を気にしてコソコソ。ぼっちだった小学生の頃に戻ってしまったみたい。


「おはようって、マスクしてるの。どうしたの?昨日のツルツルプリンプリンは?」

 早速に歩美が話しかけてきた。 私の顔をじっくりみてる。


「えっ! 目が下から押されてる。左の頬が浮腫んでるよ。本当にちょっとどうしたの、見せて見」


 マスクをずらされて、ミミズ腫れを見られた。


「ねえっ、あの後、風見さんに何かされたの?会いに行ったんでしょ」

 

歩美は機嫌を悪くしてしまった。タイミング悪くお兄ぃが教室に入って、ここを目指して近づいてきた。


 

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

   □   □   □   □



 教室に入ると、様子を見るために美鳥の席へ向かう。コトリも歯のことは気にしている。

もしやと思って聞いてみよう。近づくと後ろの席の河合歩美が立ち上がり、こちらにに向いた。


「風見さん、琴守さんに用事ですか?」

「歩美。違うから。風見さんは関係ないから、ねっ」


 俺に問い詰める気が満々だって河合さんを美鳥は肩に手を当てて止めた。


「でも昨日は美鳥が会いにいったんじゃないの? それから何かされたんじゃないの?」

「ちがう、違うから。行く途中で階段踏み外した時に頬を引っ掻いたの。自分のドジなの」

「本当にぃ」


 昨日から2人で何か話をしていたようで、俺が何かをしたと勘違いしている様子だ。俺は状況についていけずに唖然としていただけなんだが。


「ごめんなさい、風見さん。でもね、乙女が意気消沈しています。今日のところはお引き取りを」


 河合さんは頭を下げて謝ってきた。更に頭を下げている。

 美鳥まで、


「風見さん、なんでもないから。ごめん」


 美鳥に背を向けて戻るのだが口元は緩んでいる。あのぼっちだった美鳥を心配して、あまっさえ盾になってくれる友達が。そんな友達がすぐ側にいてくれる。よかったよ、



 そんなこんなで2人に謝られるから仕方ない。自分の机に行った。


 机にはコットンがいる訳だが蹲っている。何やら右頬に手を当てて摩っていた。


「痛いよー、シクッときてジンジンして頬は腫れたよぅ」


 確かに右頬が腫れている。マスク越しだけど美鳥も大丈夫みたいだし、マンション出る時もコトリも平気そうだった

 コイツだけってなあ。

 そうか、コットンは歯を磨いてないんだ。そんな仕草しないだけで虫歯痛の被害を被ったようだ。

 左頬は引っ掻き傷、右頬は虫歯らしきもので腫れている。あまりにも哀れなんだよなぁ。

 こいつにそっと話しかけてあげる、


「まあ、直ぐに腫れ引くから我慢だよ」

「なんで解るのさ」

「美鳥もコトリも腫れてないよ。我慢、我慢」

「そんなもんかぁ」


 コットンは、また蹲って耐えている。


 こいつのために動いてやるか。


 さてと、俺は隣の席の長谷川さんに聞いてみた。


「長谷川さん、長谷川さん。クラスに美術部に入るって言った人いたかなぁ?」

「はひっ」


 長谷川は、いきなり話しかけられたことに驚いたのか少しキョドッてしまった。確かに1人で変な挙動をしている変な隣人から声をかけられたら驚くよな。


「ごめん、ごめん、いきなり聞いちゃって。何っ、初日に休んで皆んなの自己紹介聞いてないからわからなくって、


「聞いてたら教えてもらえるかな」


「こちらこそ、ごめんなさい」


 まだ少し怯えているのかな、小さい声で謝ってくれた。これから長くクラスメイトだから少しづつ仲良くなっていこう。


「確か廊下側に座る真壁くんが美術部志望と言ってましたよ」

「そう、ありがとう。教えてくれて」


 ニコッと笑顔を向けたら頬を赤くして俯いてしまった。初々しいなぁ。これで印象よくなってくれるかなぁ。

 そうこうして、朝のホームルームのために千里先生が教室に入ってきた。



 〇   〇   〇   〇   〇

   ◆   ◆   ◆   ◆


   いたぁ


 目線でお兄ぃを追いかけたら、あいつが視界に入ってしまった。途端に頭を突き抜けるような痛み。昨日は、しくって来るだけだったけど、ずきん、になった。

 お兄ぃとの会話をかんじる。


「痛いよー、シクッときてジンジンして頬は腫れたよぅ」


 やっぱりそうだ。あいつの痛みが私に移って来ているんだ。

痛みって伝染するの?


「まあ、直ぐに腫れ引くから我慢だよ」

「なんで解るのさ」

「美鳥もコトリも腫れてないよ。我慢、我慢」

「そんなもんかぁ」


 ごめんお兄ぃ。

 実は昨日から、ちょっちょ痛いんだ。口元がスッキリしたから寝られたけど、朝から痛みが増してきる。

 止めにこいつを見た時から突き刺さざるような痛みが続いているんだよ。

 人形でも虫歯になるの? それも痛みが伝染してくるんだよ。

 ママから貰って薬を飲んだけど、効いてこないの。もう少し時間がかかるのかなぁ。


 そういえば、


 あれ、お兄ぃと話してる、会話してる。


『風見さん、なんでもないから。ごめん』


 '風見さん'


 いくら歩美が側にいるからって' 風見さん' はあまりにも他人行儀。あぁーなんで、なんでぇ。


 気分がズブズブと落ち込んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る