第71話 ライム、名乗りをあげて

 ライムの耳に顔をよせてコショコショ


「一孝さん、くすぐったい」


 肩をくすめて、恥ずかしがってるのは良いのだけど、俺の話も聞いて、


「ライム、ライム。川合さんは気づいてないよ。美鳥だって」

「ええ、そうなの?」


 美鳥は、俺の顔と川合さんの顔を交互に見てる。


「ちょっとあなたたち、何を内緒話ししてるの?」


 川合さんが少し怪しんできてる。謝るしかないか、


「すいません。この娘、今日初めてなんで」

「それにしたって、いちゃついてなかったかしら」


 プンスカしているけど、それも美鳥のため。良い友達だね川合さん。


仕方なく、俺は演技することにした。絶対、大根だよ。


「ダメでしょ。初めてで怖いのわかるけど、行き過ぎのスキンシップは、あれほど、ダメ

だって言っただろう」


 少し語気を荒くしてみる。

案の定、美鳥は目をパチクリさせている。怯えも見え隠れしてるのが見てとれた。

自分の体を美鳥と川合さんの間に割り込ませ、美鳥の顔を覗き込む。

 片手でごめんと拝み、小さい声で、

「ごめんな。驚かして。あくまでも演技だから」

 

 慣れないけど、ウインクしてあげる。

通じたのか、美鳥の顔から緊張感が抜けた。


振り返り、


「しっかり教育しときますのて、お付き合い頂けますか」


 ライムと共に頭を下げる。


「まあ、しょうがないかなぁ」


 少しは彼女から怒気が抜けた気がしてる。


俺は頭を下げたまま、小さく囁く、


「いい練習相手だよ。やって見なよ。川合さんだよ。気兼ねなくできるっしょ」

俺はライムの腰を軽く押してあげる。


「おっー」


 なるほどって言った感じでいる。

ライムは体を起こして、そしてニッコリと笑顔で、


「いらっしゃいませぇ」


 腰に片手を当て、反対の手でトレイを肩口に掲げ、脚もピンとそろえると、


「ダイナーズレストラン、シェインズ。ハーバープレイスのへようこそ」


 そして、トレイに乗せてあるメニューを、大仰な仕草でテーブルに移していく。


「こちらがメニューになります。お決まりになりましたら、お手をあげてください。すぐにお伺いいたします」


 再び、笑顔を添えて、


「本日は、このライムがお相手させていただきます」



 一呼吸おいて、ライムは俺に向かって、


「一孝さん、どうでしたぁ? できたかな』


胸の前で拳を握って聞いてきた。


「さすがライムだよ。上手にできてる」


思わず拍手してしまった。


「あなたたち、またぁいちゃついて」


ダメだぁ、誤解が深くなる。


「川合さん、気づかないか?」

「何を」


 あっ頬が膨らんでる。手遅れになる前に、


「わかりません? ライムって何色ですか?」


川合さんは訝しそうに、


「ライムって、あの酸っぱいのでしょ、みどり色だよね」

「ピンポン あたり」

「きゃっ」


 俺は、ライムの肩を持って引き寄せて、


「この娘、ブラウスは、何色?」

「…みどり」


 ライムは、俺の手を離れて、姿勢を正し腰に手を当てて、胸をはる。


「ハイハーイ、みどり! 琴守美鳥でーす」

「うそっ」


 川合さんは、席を離れて美鳥に詰め寄り、顔をじっくりと見ていった。


「化けたね」

「なんか、ひどくない」

「褒めてるんよ」

「もう」


 いつもの2人のペースになっている。さすがは川合さんとしか言いようがなかったよ。


「美鳥の目って大きいのよね。それが今日は一段と大きく見えるのよ。睫毛マシマシだし、クルンクルンになってるの。メイクもビシッと決まってるし、言われなきゃわからないよ」


 美鳥も満更でないようでにニコニコしてる。


ここで川合さんはお連れさんの方を向いて、


「そうよねえ、久米くん。美鳥だって分かって?」

「えっ久米くん?」


 これには美鳥も驚いてる。それまで静かにというか、呆気に取られていたというか、存在感がなかったんだよね。たしか、昼休みで美鳥と同じテーブルで話をよくしていたのを見てるよ。


「うん、わからなかった。ごめん。で、でも綺麗だよ」


ドギマギと答えている。


「ヤダァ。ありがとうね。一孝さん、どうしましょう。綺麗だって」


 嬉しそうな顔をして、美鳥は俺を見てきた。その時に見えてしまった。久米くんの悔しいというか、寂しそうな顔を。  あっそういうことか。


  ばしっ、


 川合さんはが久米くんの背中を叩いた音が響く。川合さんの表情は見えなかった。


「歩美」


 美鳥は、心配して声をかけていく。俺は、美鳥の何もするなと肩に手を置いた。


 すると赤いリボンで纏められた亜麻色の髪が翻って、俺たちの前に滑り込んできた。


「なになに、何があったの?」


 マゼンタでした。ローラーブレードでここまで滑ってきたんだね。


「あれ、美鳥がもう1人いる」


 ぼそっと川合

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