第77話 プログラム変更?
キッチンカーで、テーブルから引き上げたコップやら皿やなんかをシンクに片付けていると、
「オーダー入ります。ワッフルサンデー3つ、ストロベリー2のシナモンハニー1 コーヒー3です」
ライムがキッチンに声掛けをしてから、伝票をパネルに貼り付けている。
頑張ってるなって見ていると、
「キャッ」
足がもつれてふらついている。近くにいたんで、すぐに肩をもって支えてあげることができた。
「ライム、疲れた? 休憩取ってる?」
すると、ライムは俺の胸に力を抜いて寄りかかってきたんだ。
「なんか、忙しくて、休むの忘れてましたぁ」
ランチタイムも過ぎて、一段落すると思われたけど、ダイナーガールズがスペースに出るぐらいから、また混み始めている。
「ライムちゃん、休んでよ」
キッチンの奥から、調理をしている鼎さんからも、声がかかる。
「よく、頑張ったな」
俺はライムの前に腕を回して後ろから軽く抱きしめてあげる。
「ハフゥ」
ライムは俺の胸に甘えるよう頭の後ろでにスリスリしてきた。
「褒められちゃった。へへ」
もう少し、甘えさせても良いのだけれど、休まさせてあげないといけない。引きづるようにキッチンカーの陰にある休憩スペースへ連れていった。
「お先にっ」
そこには、マゼンタが座ってドリンクを飲んで、休んでいた。
「こっちは、もう少しで休憩は終わりにするから交代だね。休みなよライム」
立ち上がり、座るところを譲ってくれた。
「ありがとう。お姉ちゃん」
崩れ落ちるように、ライムは座り込んでしまう。
「ライム、もしかして体調良くなかったんじゃないか」
どうも、朝から眠そうにしているし、聞いてみた。
「ううん、朝まで、ぐっすり眠れたし大丈夫だよ」
やはり、二ヘラって笑ってきてる。大丈夫には見えないんだよなぁ。
「女の子は、そういう時があるんだ。労わってやれよ」
マゼンタがキッチンから、ボトルに入ったドリンクを2つもってきてくれた。
「ほい、ライムの分。水分はしっかり取れよ。ほれ、お前の分もあるよ」
「ありがとうございます」
「ありがと、お姉ちゃん」
マゼンタはライムに近づいて、頬に手を伸ばす。こめかみ隠しのほつれ髪を治してあげながら、顔を近づけて、
「あと少しだから、頑張れ」
「うん」
「ところでな、学校の体育は、誰が担任なんだ」
「いきなり、なにかな。…周防先生だよ」
「ということは、創作ダンスは、やったか?」
ライムはボトルを持っていない手を太腿で挟むような格好に座り直す。
「この前、課題曲でダンスしたよ。必死に覚えたんだ」
「なんの曲だった?」
「確か、アメリカのジャズ、スゥイングだっけ。サックスで始めるの」
マゼンタが左手の指を鍵状にして胸の前に、右手は腰のところでおいて、
「バラララッバ、バラララ。バラララッバ、バラララ」
と口サックスで演奏する。
「そう、それ」
「スゥイングか。これなら! 美鳥、振りは覚えてる?」
「うん」
「ダイナーガールズ、ラストステージは、それで行くから、ママにも言って来るよ」
と、マゼンダは、ローラーブレードを滑らして休憩スペースから飛び出していく。
程なくして、シアンさんが休憩スペースへ滑ってきた。
「ライムちゃん。最後の曲変えるの? マゼンタに聞いたわよ。スゥイングジャズだって」
「うん、いきなり決まった」
「体育の先生も周防ちゃんだって?」
「うん、………周防、ちゃん?」
「私も、同じ先生だったのよね。懐かしいわ。さあ、思い出さないと。あの先生のことだから振付変えていないだろうし」
シアンさんは、キッチンへ近づいて、
「守道、鼎聞いて」
なんか、とんとん拍子に話が進んでいく。俺はライム隣り合って眺めるしかなかった。
「サックスなら、あるよ。このひと、いつも吹いてるから」
「トランペットもあるよ。他の仲間と、よく外で演奏してるんだよ。その預かり品。奏也、お前、今でもも大丈夫だろ」
話が、更に大きくなってきた。
「私、うまくできるかなあ」
ショボンとしてライムが呟く。俺はライムの前に立ち、手を取るとギュと包んであげて、
「大丈夫、ライムならできる。にっこりと笑顔で踊ってくれ。楽しみだよ」
「うん、わかった。一孝さん、頑張ってみるよ」
ダイナーガールズ、ラストステージは、スゥイングジャズのインザムードと相成りました。
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