第78話 インターミッション

 日も傾き始め、お客さんの入りも落ち着いてきた。オーダーも減ってきたようでライムも、手持ち無沙汰に見える時がある。欠伸を噛み殺しているんだね。そうしてると、マゼンタなり、シアンがライムに近づいて、何か話をしてポーズを取っている。次のダンスの打ち合わせをしているんだろう。


「おい、一孝」


 テーブルを片づせて、そこからのものを引き上げて来ると、近づいてきたマゼンタから、いきなり呼ばれる。


「どうかしましたか?」

「お前の携帯のアドレスを教えろ」


 どこか、恥ずかしそうに、視線を外し頬を掻きながら、言って来るんだ。


「そんな顔してくれると、なんか勘違いしちゃいますよ」


 はにかむ顔がそっくりなんだね。流石に姉妹というべきか。


「なにっ言ってるんだよ。私だって乙女なんだからね。そんな、ホイホイ、男に声なんかかけてない」


 ダメだ、笑いを押し殺せないや。


「分かってますよ。美華姉の一途なところ」


 彼氏への惚気も聞いています。



ポケットからスマホを取り出して、マゼンタが取り出してきたスマホに近づける。


   ピロリン


 データが上手に飛んだようだ。


「でも、どうしたんですか?いきなり」


 本当に唐突なんだから。


「この後のステージが終わった後、片付けとかで多分バタバタして話なんかできないだろ。伝えたい事があるからなあ」


 俺は、目を丸くして、


「まさか、告白! いえ、俺には美鳥が…」

「ち、が、う」


 力を込めて否定された。もちろん分かってますよ。


「そのな、美鳥のことで頼みたいことがあるんだよ。杞憂に終わればいいんだけど」


 美華姉として、俺に話してきた。さっきまでの、じゃれついた雰囲気でない。妹を心配している気持ちが垣間見える。


「朝から、色々と弄られましたけど、美鳥は、良いお姉ちゃんを持っているんですね。羨ましいや」


 一人っ子で、縋れる相手の居なかった俺に比べて、なんと幸せなんだろう。


「今まで、美鳥のことを見ててくれてありがとうございます」


 彼女は、目を見開き、固まってしまう。


「お前もいきなりだなあ。褒めても、なにも出ないよ」

「いえ、言いたくなっただけですよ」

「言ってろ」


 すると、


「一孝さん」

「うわぁ」 


 後ろから、美鳥が、俺の耳に囁いてきた。いきなりなんで驚いてしまう。


「なに話してたんですか? なんかすごく親しげでしたけど」


 訝しげに話しかけてきたんだけど、


「もしかして、告白していたんじゃ」


 美鳥が俺に詰め寄り、胸にまで手をついて、


「だめですよぉ。お姉ちゃんには、和也さんって彼氏いるんですから」

なにを見て、そんな誤解が生まれるんだろう。


「違うって」


 手のひらを美鳥に向けて、苦笑いする。


「えー、でもう」


「大した話じゃない。もう少しなんだからって気合い入れろって話してたんだ」


すぐに、マゼンタがライムの手を引き、俺から引き離して、キッチンカーの離れていく。


「そんなことより、そろそろ最後のダンス、始めるよ」

「えっ、もう! 美華姉、私にも心の準備が」

「そんなもん、どうにでもなるって」

「えー」


 そんな泣きの声を出しながら、ライムはマゼンタに引きづられて、行ってしまった。


「パパ、ママも、そろそろ始めよう。守道さんもお願いします」


マゼンタはみんなに声かけをしていく。最後のダンスを始めるんだね。





3人が所定の場所について、マゼンタは片手を上げる。


「皆さん、ダイナーガールズのマゼンタです。本日は、レストラン、ジェインズインハーバープレイスに来店していただきありがとうございました。これより、最後のダンスをさせていただきます。短い時間ではありましたが、楽しんででいただけましたでしょうか?

私は楽しかったです。本日の思い出の一つとして、私たちの踊りを見ていってください。

では、ミュージック・スタート」


バラララッバ・パララバ・パラパラ


サックスの生の音がハーバープレイスに鳴り響く。


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