お姉ちゃんが来た。
第47話 偽姉? 謎姉?
◇ ◇ ◇ 美鳥side ◇ ◇ ◇
ピンポン
ドアホンが来客を告げる。キッチンにあるモニターには一孝さんが映っている。やっとお兄ぃから一孝さんって呼ぶことができました。
「風見です。おはようございます。美鳥さんいますか?」
心地よい声が耳に入ってくる。会ってもないのに頬が熱い。
私は返事をする。
「いらっしゃい。開いてますから中に入ってください」
一孝さんがくることはわかっていたから、私は、お出迎えの準備していたんだ。でも、ちょっと早くきてくれたんで手が離せない状況でした。
「りょ……」
「美鳥さん。おはようございます。胡蝶です。私くしもおりますよ。よろしくて」
「はい?」
一孝さんがモニターからいきなりいなくなり、斎田先輩…お姉様が映し出された。お出迎えに用意している茶器なんかを一時的に片付けて玄関に向かう。
丁度、階段から2階へ行っていたママが降りてきて、
「あらぁ、いらっしゃい一孝君。今日は美鳥よろしくね」
先にお出迎いされちゃった。もう。
開いたドアからの逆光の中、一孝さんはいる。デニムのクラシックパンツにブラウンのベスト、白いTシャツ。短く切り揃えた髪の下、顔を綻ばせた彼がいる。私も口元が綻んでいくのかわかる。
「おはよう!一孝さん。来てくれて嬉しい。ありがとうございます。」
「おはよう。美鳥…」
「おはようございます。美鳥さん。なっ、なんて幸せな笑顔なの。尊いわぁ」
一孝さんの言葉を遮り、あまっさえ、ししゃり出て胡蝶姉様がワタワタと自分のバックを探っている。
「その笑顔。私くしへのかしら。ぜひカメラに納め…あら、元に…もう一度笑顔いただけるかしら?」
「知りません」
私はそっぽ向いてしまう。胡蝶姉様がオロオロしてる。
「美鳥さん。お客様に失礼でしょ。笑顔でお出迎えしなきゃダメ」
ママが私達を見て、お小言ひとつ。
「悪りぃな美鳥。外でコソコソしてるのを見つけちゃてなぁ外聞もあるから、声かけたんだよなぁ。それで」
優しいなぁ一孝さん。でもね、その優しさは私に向けてください。
「もう、いいです。コーヒー用意しますからリビングでまっててください。」
せっかくホットなお出迎えしようと思ったのにクールな対応になってしまった。しょぼん。
これから、こういう情景がいつもになるかと思うと胸が弾む。頬が温かくて溶け落ちそう。
カウンターの上のサイフォンのフラスコをアルコールランプの青い火が温めている。その向こうに一孝さんがゆったりと寛いだ顔をしてソファーに座っている。
漏斗に上がった湯が中挽きされた珈琲豆と混然となっているところをへらでひとかき混ぜ、香りが広がったところで火を止める。全てがフラスコに落ちていく。漏斗をとって、お湯を入れて温めていたカップに注ぎ分けていく。
「できましたよ」
一孝さんの期待混じりの笑顔をこちらに向けてくる。
うんうん
ママはいつもキッチンカウンター越しにこんな情景を見ているんだね。羨ましい。
私はカウンターから出て、ソーサーに載せたカップを一孝さんの前のテーブルにおく。おまけで胡蝶姉様の前にも。
もちろんフレッシュミルクとサイドのクッキーの用意してあるの。
かけていたエプロンを外し、自分のカップを持ってリビングへ移る。座るのは一孝さんの隣。朝のひと時。ミルクを落とし、その渦を見ながらコーヒーを楽しみました。
「優しい味だね。これが美鳥の味なんだ」
一孝さんの相好をくずす。笑顔が最高の誉め言葉。
コーヒーを入れ初めてから2年ほど、夢見ていたことがひとつ叶いました。彼に私の珈琲を飲んでもらうこと。
「美鳥、そろそろお時間よ。片付けはやっておくから、いってらっしゃい」
ママが助け船を出してくれた。
「一孝君、くれぐれも美鳥をよろしくね。楽しんできてくださいね」
ママ、ありがとう。愛してる。
今日は、これから使う私のコスメを買いに行くの。2人だけが理想だけど、約束したからお姉様たちと一緒。でも一孝さんとも一緒なのが嬉しい。集合場所には歩美たちも待ってる。楽しい一日になりそうです。
次は2人だけでお出かけしようね。
一孝さん、
にこっ。
珈琲を楽しんでくれている彼の横顔に笑顔のプレゼントをあげる。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ 謎姉side ◇ ◇ ◇
' 今、私は閑静な住宅街にいます。街の中心である駅からもそう遠くなく、利便性が高いと評判になっています。
あちらに見えるのは、美魔女と美少女姉妹がお住まいの琴守さん宅ではありませんか'
私は、今、何をしているの?路地の角に隠れて、自分の家を実況してる。ストーキング?それとも危ない子?
付き合っている彼氏がゴールデンウィークに家族で香港に旅行に行くといわれ、置いてけぼっちになると臍を曲げて自宅に戻ってきてる、寂しい子?
出戻りじゃないね。ゴールデンウィークに優しいママと可愛い妹に会うための情報収集によっているだけなんよ。
海外で羽を伸ばすであろう彼奴にこれ見よがしに羨ましいところを見せびらかすつもりなんよ。
渡航する前にデートしようとした彼奴を足蹴にしてほっぽらかしにして実家に戻ってやった。
もう支離滅裂!あぁ〜あ。
今日はわたしは、七部丈オフショルダーバフスリーブにハイウェストのサロペットショートパンツ。生足じゃなくてタイツ履いてます。
そこに厚底のスニーカー。大きめのキャップを被ってるから、すぐ私とはわからないはず。
あっ、家から誰が出てきた。亜麻色のロングヘアーにベレー帽をかぶっているのは、妹の美鳥だね。ちょっと見ないうちに髪も伸びたね。
今は切っちゃったけど、私もあれくらい伸ばしていたんだよ。
ブルーのラッフルスリーブブラウスにコットンパンツとくるぶしまであるバッシュっー。
あの子もお洒落になったね。ちょっと前までプルオーバーにサスペンダースカートばっかだっただけどなあ。
もう一人出てきた。美鳥より頭一つぐらい背が高いな。
ゆるふあロングの黒髪、オフホワイトのフレア袖ブラウスにロイヤルブルーのハイウエストスイングスカート。何処ぞのご令嬢かな。
そんな知り合いは記憶にないなあ、誰だろう。
もう一人出てきたよ。今度は男。オトコ⁈。
パパじゃない。
背は高いし髪型も違う。誰? 私はすぐさま路地を出て自宅に向かう。
玄関先で3人が話をしているところへスマホをポチポチっとしながらちかづいていく。モブが歩いているように思えるだろうね。
「お姉様、待ち合わせは駅でしたよね」
美鳥はわかる。でも、
姉? 美鳥の姉は私だが。私以外に誰がいる? 隠し子か? ドッペルゲンガーか?ママに問い詰めないと。
「美鳥とショッピングに行けるかと思うと待ち遠しすぎてしまって、気がついたらきてしまいましたの」
こいつは誰?
「で、家の周りをうろうろ、オロオロしてたと、どう見てもストーカーか変質者でしたよ」
この男、もだ。
「あまりな言いようではありませんせんこと?」
女は腰に手をつけてふんぞりかえりプンスカしている。
「目も当てられない風体なんで、声を掛けさせていただきました」
「ひでぇ」
「言葉が素に戻ってますよ。胡蝶」
彼女は慌て出して、手で口を塞ぎ左右に見出した。後の離れたところにいる私をみてニッコリと会釈をしている。私が誰かは気がついてないよな。でも、
胡蝶ってアイツだよね。
あっ、あのヤンチャで暴れん坊な胡蝶が'ご令嬢''になってる。何があったのか。それに美鳥があれを'お姉様'と読んでいる。わからん、わからないよぉ。
「一孝さん、今日は付き合ってもらってありがとう」
美鳥が男に話しかけている。何て幸せな顔をしてるんだか。これが恋する乙女の顔か! 私もあいつの前でしてるのかしら。
それに'カズタカ'って誰?。ちっ、ちょっと待って。記憶をほじくり出す。
「あ〜!」
思わず声が出てしまった。前の3人もこちらを向いてくる。しまった。あいつらにスマホの画面を見せて頭を下げておいた。こうすればスマホのコンテンツに反応したと勘違いしてくれるはず。
気を取り直す。あの男、風見さんとこのイッコウじゃん。私のひとつ下でお隣の。引っ込み思案の美鳥のお守りしてた子だぁ。確か事故で入院したとこまでは聞いていたんだけど、しかし大きくなって、あいつより背があるかなぁ。
男前になって。美鳥の顔が蕩けてるのもわかるな。付き合い出したのかしラン。ママに後で聞いてみよう。
「こんななら、こちらでお車をを用意させていただきましたものを」
「お姉様、私の足首のリハビリも兼ねてますから、歩かないといけないんですよ」
「わかりました。イッコウ、手前は今日1日荷物はこびな」
「へいへい」
3人は駅の方へ歩いていった。ここは私もと歩き出すと、後ろから声をかけられた。
「どちらにいくのかな?美華ちゃん。可哀想なママを置き去りにして」
真後ろからかかった声には、少しだけ怒りが混じっている。機械が軋むような感じで振り返るとママがいた。亜麻色の髪のショートボブで私にそっくり、いや、私がそっくりなんだ。
「ママ!……よく分かったね。上手く誤魔化したと思ったんだけど」
「自分の子を間違える親なんて、私は絶対ないからね。と言いたいけれど、貴方の彼氏から問い合わせあったのよ。美華さんいませんかって。後ろ姿でピンときたのよ」
「さすがママ」
ママは私に、
「で?」
私は自宅に連行された。
釈放されたのは夕方になってから、玄関先には彼氏である和也が車で迎えに来てくれた。ママが呼んでくれたんだって。
下宿先にはしっぽりと帰りましたよ。
でも美鳥とは話ができなかった。
ま、いいか。
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