第46話 舞散る桜の花びらの中で恋は結ばれる

◇ ◇ ◇ 舞散る桜の花びらの中で恋は結ばれる 〜美鳥 〜 ◇ ◇ ◇


 私の足首は捻挫していました。でも、炎症が引いたので固定してもらっている。一孝さんが通っている病院で一緒に処置してもらったの。

 今は外のベンチに座って一孝さんを待っているんだ。

 病院の敷地に隣接している大きな溜池があって、その周りの小道揃いに桜が植えられている。水面までの土手にも植えられいて枝が横へも張り出しているし、池の周りの桜の花全てが雪崩れ落ちていくように見える。

 今年の天気は良かったせいで花が早く咲いてしまった。見頃の八分先はあっという間に過ぎてしまい。少し葉桜になりだしている。桜の樹の下にはベンチもあり、遅れた花見をしている人たちもたくさんいた。


「早く来ないかなぁ」


 一緒に花見をしながら食べようかとサンドイッチを作って来たの。ママとキャッとキャッと作って楽しかった。一孝さんに食べてもらえるかと気合がは入りました。

 膝と上に乗せているサンドイッチの入れてあるバスケットの上にハラハラと散った桜の花がのって来た。少し、風も吹いて来たみたい。花びらが舞っている。


「美鳥」


 一孝さんだ。やっと来てくれた。

 でも……私をじっとみている。歩いて近づいて来てるけど視線がぶれないし外れない。でも優しい視線で見てくれている。

 そんな時、風が強く吹いた。目の前が飛ばされた桜の花びらで埋め尽くされた。


「一孝さん。どこぅ」


 少し怖くなって呼んでしまう。


「美鳥」


 花吹雪が落ち着いてから、すぐ前まで来てくれた。安心させようと私の肩を支えてくれた。

 あれ、止まらない。一孝さんが座っている私に覆い被さるように顔が近付いてくるよ。


 

 これって! もしかして、

 

 私も一孝さんの背中に手を回して引き寄せる。


     ♡

 

 最初はそっと、そして、そっと。啄むように唇をつけてくる。

 そして私は頭を少しだけ傾けた。そうしたら力強く唇が。後はお互い上唇を噛み、下唇を噛み、舌を絡ませていくだけ。だんだんと頭の奥まで痺れていった。(これが色々と激しいってことなの)


 しばらく堪能して名残惜しかったけど、唇を離した。

 一孝さんの顔は真っ赤。私の顔も熱いよ。目も潤んでいるのを感じる。


 無言でお互いの赤くなっている顔を見ていたっけ。そうして一孝さんが横に座ってくれた。


「ありがとうな、美鳥」


 横合いから頬にキスをされた。


「なっ…」


 すぐさまフレンチキス! もう、嬉しいなあ。

 お返しをしようと私は立ち上がる。痛いのは我慢して一孝さんの腿を跨いで乗っかった。

 そのまま一孝さんの頭を抱え込んで唇を合わせ舌を奥に滑り込ませて絡ませて、お互いを貪り合いました、

 もう、頭が溶けちゃったよ。時間も忘れました。息するのも忘れて苦しくなると離れるけど、もう一度。なん度も繰り返したような気がする。


 ふと目の前を桜の花びらが舞うのを見て、正気に戻った。顔をそっと離した。お互いの唇の間にハッピーブリッジ。ダメって首筋まで熱くなってるよ。


「美鳥さん、情熱的だね。実は肉食系かな?」


 もう、恥ずかしいこと言わないで、


「全部、受け入れるって言ったの覚えてますか。こいういことなの」


 もう一度、フレンチキスをして一孝さんから降りて、ベンチに座り直しました。


「心はごちそうさまだけどお腹すいちゃったぁ。これを作って来たんだけど食べますか?」


 横合いから肘の上に置いたバスケットの中から容器を取り出して蓋を開ける。中には、


「たまごサンド」


  ん?


 なんか一孝さんの顔に影ができたような、


「どうぞ召し上がれ」


 なんか慎重にたまごサンドを容器から取っていったね。そして目を瞑ってパクリ。顔つきが変わった。


「うん、これならいいな。……美鳥、このサンドイッチ作ったの初めてか?」

「うん、初めてだもん。ママと作ったの。楽しかったよ」


 一孝さんが笑顔になっていく。


「美味いよ。将来が楽しみだねぇ」


 私は一孝を仰ぎ見る。


「これからも、つくってくれってことかな?」


 一孝さんは赤くなった顔で口元を手で隠してソッポを向いた。


「……まあ、そんなとこかなぁ。あはは」


「えへへ、承りましたわ、旦那さま。…わわわわ」


 




 視界の端を小さい羽根を生やした金髪の子供が飛んでいったように見えた。



◆ ◆ ◆ 舞散る桜の花びらの中で恋は結ばれる 〜 一孝 〜 ◆ ◆ ◆


 今、俺は遊歩道を歩いている。

 2年前に負った首の怪我の検査のために病院に来ているんだ。

 足を捻挫した美鳥を、一緒に、ここの整形外科で診てもらうことにした。

 チャカリ、デートの気分だね。

 俺の方が検査から診療まで時間がかかることもあり、美鳥には病院の敷地に隣接する大きな溜池のまわりの小道で待っていてくれと話をしてある。


 歩いて行くと桜が咲いている。

 溜池の周りをぐるりと回る小道があり、それに沿って桜が植えられているんだ。

 下に見える池までの土手にも植えられて、まるで桜の花が池に雪崩れ落ちて行くように見えるんだ。

 ただ、今年は天気が良くて花が早く咲いてしまい、見頃の八分咲きを過ぎて葉桜になり出している。そんなでも木の下にあるベンチでは遅い花見を楽しむ人たちが多くいる。


 見つけた。


 カップルや家族連れ、友達同士で桜を見ている人たちの中に美鳥を見つけた。

 亜麻色の髪を編み込みハーフアップにして、今日はオフホワイトのふんわり袖のコットンワンピースを着てベンチに座っている。膝元に小さなバスケットを抱えていた。脇にある松葉杖がちょっと痛々しいけどね。

 微かな風が吹いていて、桜の花びらが待っている。もう散り始めているんだね。

 舞散る花びらの向こうのベンチに美鳥が座っている。一枚の絵画がそこにあった。もっと見ていたいという気持ちもあったけど、


「美鳥」


 美鳥は俺に気づいて、こちらを向いてくれた。少し離れていも、君が笑顔になって行くのがわかったよ。その笑顔は何物にも変え難いもの、そして俺だけのものだと思うと嬉しくてねえ。とにかく、ずっと見てきたくて、周りを見ずに美鳥座るベンチまで歩いて行った。


 そんな時、風が強くて吹いてきたんだ。小道のだけでなく池に雪崩れ落ちているように咲く桜の木の全てから噴き上げられたような花びらが俺たちの前で乱舞する。ちょっと先のものまで見えないぐらいに花びらに埋め尽くされた。


「これじゃあ美鳥がわからないじゃないか」


 そうか、美鳥のことを気にし過ぎて桜の神様に嫉妬されたかななんて、自信過剰な思いもあったけど、


「一孝さん。どこぅ」


 美鳥の声が聞こえた。少し怖がっているような感じがする。

 俺の前を邪魔するように舞う花びらを押し分けて美鳥の元に向かう。

 風が止み、花吹雪も落ち着いてきたようだ。美鳥もはっきり見ることができた。

 安心させてあげようかと、美鳥の肩を触って上げた。

 切なそうなアーモンド型の目のヘイゼルの瞳が俺を見てくる。


  守ってあげたい。俺は君が好きなんだ。


 覆い被さるように美鳥の顔を覗いていく。そのまま、近づけていったんだ。

美鳥も両手を上げて俺に抱きついてくれた。

 2人の距離が…


   ♡


 最初はそっと、もう一度そぉっと。啄むように唇をつけた。

 なんて柔らかい唇なんだろう。

 そして美鳥が顔を少し傾けてくれる。もう、遠慮はしない。

 美鳥の上唇を噛み、下唇を味わう。そっと唇を割り舌を差し込んで美鳥の舌と絡ませて感じていくだけ。

 だんだんと頭の奥まで痺れていった。

 いつまでもこのまま美鳥を感じていたいと思ったけど、息苦しそうに美鳥が身じろぎする。

 名残惜しいけど、唇を離した。間近に見る美鳥の顔は蕩けて紅潮している。目も潤んでいて悩ましい。

 俺の顔も熱いよ。お互い暫く見つめあっていたと思う。

俺は美鳥から少し離れて、ベンチの空いているところに座った。もちろん、


「ありがとうな、美鳥」


 美鳥の頬に軽くキスををして感謝の言葉をあげる。


「なっ…」


 目を見開き驚いてこちらに向いた美鳥の唇にまた、軽くフレンチキスをする。

 そうすると紅く紅潮した頬の美鳥が俺の顔に近づいてきた。なんと、痛む足首を無視して俺の脚を跨いたんだ。

 俺の頭は美鳥に抱え込まれ、唇を合わされた。

 そして唇を割られ、舌が奥まで滑り込んでくるんだ。貪られたし、貪ってあげた。

 頭の芯から痺れてしまった。

 息するのを忘れて時間も忘れて、苦しくなって唇を離すけど、もう一度と何度も繰り返した。


 ふと目の前を桜の花びらが舞うのを見て正気に戻った。

 顔をそっと離した。美鳥のヘイゼルの瞳が綺麗で、また惚れてしまう。

 そしてお互いの唇にハッピーブリッジが渡っている。

 また、顔が熱くなってしまった。


 あの、俺の後ろに隠れるように歩いてた美鳥が、こんなキスをしてくるなんて意外だった。

 それだけ俺のことが好きなんだね。嬉しいよ。


「美鳥さん、情熱的だね。実は肉食系かな?」


 少しいじってあげると首筋まで赤くして、


「全部、受け入れるって言ったの覚えてますか。こういうことなの」


 ああ、美鳥をおんぶして階段を降りた時か。告白は嬉しかったよ。


すると美鳥は俺の唇にフレンチキスをして降りてしまった。アンコールは?


 ベンチに座り直すと、


「心はご馳走様だけど、お腹すいちゃったぁ。」

 

 美鳥は置いてあったバスケットを引き寄せて、


「これを作ってきたんだけど食べませんか?」


 色気より食い気かな。恥ずかし隠しかな。


横合いから膝の上に置いたバックの中から容器を取り出して蓋を開けてくれた。


中には、


「たまごサンド……」


 最近もそうだが、かなり昔の記憶が呼び起こされる。


 美鳥が手ずから、俺に差し出してくれ。俺は慎重にたまごサンドを容器から取り出して一口パクりとした。


 以前、記憶では取り出せていない卵の殻が貼付き、塩や砂糖の塊が口の中に入ってきた。

茹で具合も足りずに汁っぽいんだね。

 実は高梨が昔くれたたまごサンドなんだ。美鳥には言えないね。


 でも、美鳥のは程よい塩加減とほぐした卵が調和が取れてて美味しいんだ。ほっとして、また食べたくなる味でした。



思わず、


「うん、これなら、いいな。美鳥、このサンドイッチ作ったの初めてか?」


 聞いてしまった。


「うん、初めてだもん。ママと作ったのよ。楽しかったよ」


 俺の顔が笑顔になるのがわかる。

美桜さんありがとう。あなたの腕は確かです。

あまりの美味しさに、


「美味しいよ。将来がたのしみだねぇ」


 俺の口から漏れてしまった。


美鳥がかばっと振り向いて、


「これからも、作ってくれってことかな?」


と聞いてきた。しまった。' 俺に味噌汁' と一緒になる。


恥ずかしー


 頬が熱くなりながら恥ずかしくてソッポを向いて、


「まあ、そんなところかな。あはは」


 笑って誤魔化した。


「承りました。旦那様」


美鳥も自爆した。


「あわわわ」

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