第7話 ドッキリであってほしかった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◆ ◆ ◆ ◆
後ろ側の出入り口から、呼ばれた。
「風見さん」
振り返ると美鳥がいた。
2つ下の幼馴染、でも今は同級。以前は人見知りで俺の背中に隠れていたトコトコ後ろを付いてくる女の子。
今は亜麻色の髪を伸ばし、編み込みハーフアップにして綺麗な耳も見えている。大きめのアーモンドアイに明るめのヘイゼルカラーの瞳。忘れ鼻だけどeラインも整っている。可愛いから綺麗へと変化している。美人さんになったなあ。
でも、髪は乱れて、ところどころは跳ねている。制服の襟もバランス悪くはだけていたりする。なんかくたびれてないか。
そんな美鳥が柳眉を立てて近づいてきた。俺の机、いや粘土フィギュアを指差して、
「なんですか?これは。こんな私物の持ち込みは禁止です。なんか話しかけているようにも見えましたが風見さん、そんな人形趣味でもあるのですか?」
「そうそう怖い顔しなさんなよ。お前さん」
「ひえっ 喋った!」
美鳥は手を戻し後退り、
「美鳥!お前、こいつが見えるのか?」
「みえますよぉ。朝から風見さん、これと戯れていましたよね」
俺だけじゃなかったか。
朝から、こいつが見えていた。でも他のクラスメートは見えていない。帰り際での質問タイムでは、叩くは潰すわ、でも気にした様子はなかった。
俺だけが見えてる、俺だけが話をできる。妄想かとも考えたけど。美鳥は見えると言ってくれた。ほっとしたというのか実のところ。
「こんなのおかしいよ。人形が喋るなんてありえない。誰かの悪戯としても行き過ぎです。風見さんもグルなんですか?私を笑者にでもしたいのですか?」
美鳥は拳を振り、手を動かし、激しく振ってエスカレートしていった。
「でもよー実際に見えるのだろ。我の声は聞こえるのだろ。現実は認めないと」
いつの間にか、こいつが俺の膝の上に乗っていた。
「この特等席が気に入った。座り心地は良いしー。こいつは頭を良い子と撫でてくれる。ぎゅっと抱きしめてくれる えへへへなのだよ」
美鳥は拳を力一杯握り、キッと此方を睨みつけてくる。
俺は手のひらを美鳥に向ける左右に振り、顔も振って否定する。無実だよ。
「お前の願望ではないのか? えへへへ」
こいつは美鳥を焚きつけている。
「ゴロニャン」と俺の膝で丸くなってくる。
「すりすり」と頭を俺の胸に頭を擦り付けてくる
最後に美鳥を見て、
「羨ましいだろぅ」
甘えて蕩けた顔で囁いた。
ブチっ
確かに聞こえた。
美鳥がこっちの机まで擬音が出そうな具合に近づいてきた。
おもむろに左手で粘土フィギュアの頭を掴んだ。そして俺の膝から引っ張り出し机の上に載せると
パシン
右手を振り上げ、こいつの頬を叩いたのだ。
粘土フィギュアは横座りになっている。
そして此方を向いてきた。頬は手の形に陥没している。
目を驚いたように見開き、自分の手を凹んだ跡に載せて
「よよよよ よ」
おかしな泣き声と涙が流れたような錯覚を見せて消えてしまった。
美鳥は手を振り抜いた後、左手で插りながら出口に走っていく。出る前にこちらを振り返った。
左の頬は手の形に赤くなっていた。踵をかえして教室をで出ていってしまった。
後には俺1人が残った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
◇ ◇ ◇ ◇
教室のスライドドアのドアプルに手をかける。
「ウン」
自分に気合いを入れてドアを開ける。お兄ぃがいた。椅子に座っている。
でも、
でも、あいつもいるのよ。髪が茶色のお人形。どこかで見た事あるかと思ったら、前にママと見たニュースにでてたフィギュアにそっくりというかとそのまんま。
それが、
それがお兄ぃと何か話をしてる。これは夢、私は、まだベッドの上でまどろんで夢を見ているの。
ちがう。
違う。私は起きてる。目の前のことは見えてるんだよ。それがお兄いにあんな事言っているの。
私の胸の奥から怒りが噴き出す。
お兄ぃの机に近づきながら、コイツに指先を向け、
「なんですか?これは。こんな私物の持ち込みは禁止です。なんか話しかけているようにも見えましたが風見さん、そんな人形趣味でもあるのですか?」
コイツを睨みつけた。すると、
「そうそう怖い顔しなさんなよ。お前さん」
激情に駆られた私の頭に疑念が入り込む。これはナニ?
「ひえっ 喋った!」
怖くて後ろに下がる。そうだお兄ぃなら、
でも、
「美鳥!お前、こいつが見えるのか?」
「みえますよぉ。朝から風見さん、これと戯れていましたよね」
お兄ぃまで、そんな安堵した顔をして欲しくなかったよぉ。じゃあ何ですか、このおかしなのはお兄ぃと私しか見えないというの、歩美も見ていないというし、クラスでも変なのかかあると騒ぐ人もいなかった。
そ、そんなのは信じられない。おかしい、怪しい。誰かの悪戯、一体誰の悪戯? お兄ぃ? そんな訳ないはずだけど、それとも私が保健室で休んでいる間にみんなで企んだの?
「こんなのおかしいよ。人形が喋るなんてありえない。誰かの悪戯としても行き過ぎです。風見さんもグルなんですか?私を笑者にでもしたいのですか?」
疑念が怒りが体の中で暴れている。抑えられないよぉ。
「でもよー実際に見えるのだろ。我の声は聞こえるのだろ。現実は認めないと」
あれっ、いつの間にか、こいつがお兄ぃの膝の上に乗っている。
「この特等席が気に入った。座り心地は良いしー。こいつは頭を良い子と撫でてくれる。ぎゅっと抱きしめてくれる えへへへなのだよ」
コイツぅ、煽ってきたよ。もう、もう、お兄ぃ、そんな事してるの。わたし以外にやっちゃだめぇ!
お兄ぃの目を見てやった。そんな事したら、したら泣いちゃうぞ。
お兄ぃは手のひらを私に向ける左右に振り、顔も振って否定している。本当なの? 信じて良いの。そんな時にコイツはー、
「お前の願望ではないのか? えへへへ」
そんな事の言ってきた。焚き付けてきやがった。
お兄ぃの膝の上で丸くなってる。あれはクリスマスイブのホームパーティで間違ってスパークリングワインを飲んでしまってお兄ぃに膝枕をしてもらった時の。
コイツは姿勢を変えてお兄ぃの胸に頭を預けて深く座った。すりすりとお兄ぃの胸に頭を擦り付けてる。あれは大晦日におこたに入って一緒にネットTVでカウントダウンライブを見てた時の、記憶と同じ、
「羨ましいだろぅ」
誰に言っているの? 私? お兄ぃ?
そんな甘えた声で、溶けた顔で誰に囁いているの?
「ふっ」
私は下っ腹に力を入れて嘆息する。
(許さない)
お兄ぃのそばに、にじり寄り、コイツの頭を握りひきづり出してやった。
(許すもんか!)
手を振りかぶってコイツの頬を叩いてやった。
「痛っ」
コイツを叩いたのに私の頬から痛みが走る。
何で叩いた私が痛いの?
頬が熱い!
見るとコイツの頬は手の形に凹んでいる。そしてスウッと消えてしまった。お兄ぃにあんな事するからだよ。ザマァ。
その一部始終をお兄ぃに見られていた。
いやぁ!
私は逃げた。お兄ぃの前にはいたくなかった。出る前に見たお兄ぃの困惑した顔。私の頭の中にこびりついたよぅ。そうして私はトイレの個室に閉じこもって頭を抱えて慟哭し続けの。
ヴァカ ヴァカ ヴァカ ヴァカ ヴァカ お兄いのヴァカ
ヴァカ ヴァカ ヴァカ ヴァカ ヴァカ あんな奴のヴァカ
ヴァカ ヴァカ ヴァカ ヴァカ ヴァカ そして私のヴァカ
せっかくお兄いが1人になってるのに、
2年前からのことを聞けたのに、
此方に戻ってきた時に連絡してくれなかったか。
おなじ高校で同じクラスになることをなんで教えしてくれなかったかを、
聞くことができなかったのは私がヴァカ。
あいつ、あんな人形のせいよ。あんたが変な事言うからよ。煽るからよ。
ヴァカァ
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