第6話 質問タイムはほどほどに

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

   ◆   ◆   ◆   ◆



俺にとっての初登校。美鳥が保健室に担ぎ込まれるアクシデントをあったけど、最後まで授業を受け切った。2年ぶりとなる。クラスの雰囲気は変わらないこと、素直に授業を聞けたことに感動した。チャイムが鳴る。

 すると俺の周りにクラスメートが集まり出してきた。噂の質問タイムかな。


「どこに住んでるの」


「趣味は?」


「〇〇チューブはだれおし?、 〇〇〇tokは?」


「ゲームは何かやっているの?」


「身長 体重 バスト? ヒップ?」 (分からん)


「攻め?、受け?」 (分からん)


「2年ダブったのは?」


「食堂どうだった?」


「何食べた?」「気に入ったメニューありましたか?」



  なんとか用意していた範囲で質問が来てくれたから返事はうまくできていたはず。だけど、矢継ぎ早の質問とかエスカレートしてしまった。

 俺の机にみんな押し寄せてくるものだから、倒れてしまった。

 実は机に手をついたり、のし掛かったり、座ったりしている下には粘土フィギュアが居たのだった。見えないことをいいことにやられ放題。頭の上に手を置かれて倒される。腹の上に肘を置かれて潰される。ボディプレスされたり、頭や腹に座られたりしていた。うめき声から始まり、なかなかシュールな叫び声が聞こえたりする。場合が場合で耳を手で塞げない。

 そのうち居場所を変えた人の袖に粘土フィギュアの髪が絡まり引っ張られてしまい、机ごと倒れてしまった。

 見るに見かねて、机を起こした時にそのまま俺の膝の上に下ろした。手を机につけておいたから下には落ちることもないはず。手を奴の頭に回し抱き寄せるように持ってあげた。

 そんな時、こんな質問が来た。


「バトミントンのは八重柿先輩はご存じ?」

「バトミントン女子の高梨先輩は?」


 胸の奥にちくっと来た。心に棘が刺さったのだろう。

 2年前の中学の時に二人とは同じバトミントン部にいた。八重柿とはライバルとして争っていたし高梨とはミックスダブルスで全国大会まで行って2位までいった。あのまま行けば高校でもそれなりの成績は残せただろう。今、2人は俺の先輩になり、しかも強豪として全国の選抜強化選手となっていると聞いた。ミックスダブルス インターハイは優勝したそうだ。

 悔しい気持ちもあるが悔やむのはやめた。切り替えていくのが、これからの課題である。新しくやりたいことを見つけられたからだ。

 質問に答えながら手で粘土フィギュアの腹を思いっきり握っていた。心の葛藤をまぎらすためだ。うめき声がでている。握られていたやつはハンドタップを盛んにしていたらしい。だが俺は更に捻り込んでもいた。静かになったんで様子を見るとなんか白いものが口から漏れてぐったりしていた。

 周りを見渡す。みんな自分の用事があるのだろうか1人2人と去っていき、誰もいなくなった。


「地獄と天国、同時に見た気分だぜぇ」


なんとか息を吹き返したようだ。 額の汗を掻くような動きをしながら呟いている。


 俺は帰り支度を始める。机の上に通学鞄を置いて教科書やノートを入れていく。

 そんな俺をこいつは机の上にヒラ座りして見ている。唇が綻んでいるのが見えた。

先程まで、かなり痛い思いをしていたはずなのに。


「なんか楽しそうだな。良いものあったのか?」

「見ているだけで良いのだよ」

「そんなものか。そういえばお前はなんていえばいいんだ? おい おまえ

とかで良いのか?」


 すると、驚いた顔をしている。


「我を呼んでくれるのか。我は何者かわかるか?」

「今日一日 見えるし 聞こえるし 触れる。話だってしてきた。慣れたよ」

「バカに冷静だなぁ」


 視線が中空を彷徨ってしまった。実は前例があったりする。


「じゃあ」


 こいつは斜めに構え、ウインク、投げキッスで、


「ハニーって呼んで」


(こいつは)


 思いっきり頭を叩こうとしたが、なんとか堪えた。どうなるかは想像がついてしまう。




●   ●   ●   ●   ● 

    ◇   ◇   ◇   ◇


  痛い。


 目が覚めた。体の全部が痛い。目が開けられない。痛くて叫ぼうにも口を開けようと少しでも力を入れると痛みが体の中を駆け巡る。痛すぎて声も出ないなんて初めて体験。こんな体験したくはないよぅ。痛みが去るまで待つしかないのかなぁ。

 

 そうしているとそっと抱いてくれてるのがわかった。誰だろう? 抱き寄せてくれた。膝の上に座らせてくれて腕で胸でお腹で私を包んでくれた。私は全てを預ける。この感じは?

 …小さい時に一緒にお昼寝をしている人がいた。窓越しの柔らかい光でポカポカと暖かったのを覚えている。私はその人の胸に潜り込んで抱きついて寝ていたんだよ。その人も私をそっと抱きしめてくれた。淡い香りが鼻奥をくすぐる。


「お兄ぃ」


 体の中からポカポカと暖かくなっていく。痛みもひいている。目を開けると白い天井。後で聞いたけどトラバーチン柄なんだって。ベットで横になっていた。カーテンで仕切られているからよくわからないけど。多分、保健室と、そこのベッド。毛布をかけられて寝かされていた。


「お兄ぃの香りを感じる」


 左右を見てもカーテンしか見えないけど、おにぃの制服の腕が顔の前にあるのは解る。私を何かから守ってくれている見たい。さっきまでの痛みは、暖かいものが流しくれた。痛いところなんてない。そのまま微睡んでしまった。いつまでもこのままでいたいな。


 ベッドの上は静かなんだけど、周りが騒がしく感じる。教室にいるみたい。なんか周りがおにぃになんか聞いている。


 そんな中、


「バトミントンといえば'八重柿先輩はご存知ですか?」


「バトミントン女子の高梨先輩は?」


 そんな質問が聞こえた時、私のお腹が掴まれた。

 誰って、お兄ぃが掴んでるのよぉ。程よいダイエットしてるから、薄くしかお肉はついていないはず。

 上を覗くとお兄ぃが歯を食いしばっているのがわかる。それに合わせてお腹を握る力が強くなっていく。お腹を絞られているから小さいうめき声しか出ない。耐えるしかないのぉ。


 いきなり、ジャッとカーテンが空いて養護の先生が顔を出してきた。


「どうだ。気が付いたか?」


 サッと口を隠すように毛布をずり上げてコクコクとうなづいておく。実際、苦しくて声も出せたくて口をパクパクさせているしかできなかったけど。


「眩暈かな。朝とかしっかり食べた? ダイエットとかいって食べないというのはいけないよ。特に女の子なんだからね」


 私が担ぎ込まれたのを貧血のせいだと見ていたんだね。


「もう少し休んだら帰っても良いからね。僕は会議に行くよ、お大事に」


 と言って保健室を出てしまった。


 しばらく、そのままベッドで横になっていました。お腹の痛みは大分、治まってくれたの。


 少し微睡んでしまったみたい。



 でもだよ。いきなりこんな声が頭に響いてきた。


「ハニーって呼んで」


 誰が誰をそんなんで呼ぶの?


 お兄ぃ。私はこんなこと言わないからね。でっ、でもお嫁さんになったら良いかも。えへっ。


 それでも私はベッドを降りて保健室を飛び出した。あいつの好き勝手なんかさせない。


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