第138話 夢の続く

 なんか揺れている。でもね、心地良いの。ゆっくり小さく上下左右、前後。心が安らいでいる。まどろんでいる。


   あ、あれ。


 目が空いた。開いた瞳が見るのは黒いもの、髪の毛だ。短く切ってある。

 黒色の境から周りの風景が望めた。ゆぅっくりと流れている。小刻みに揺れている。

 髪の毛の生え際から2つの色が見える。肌色と、それより濃い線状の肌色。


   はっ、私、寝てたの。


 今、私は、誰かの背中にいる。おんぶされてるの。


   なんで、

 で、この人は誰?

 少しづつ、私が浮いてくる。起きてくる。


「お兄ぃ!」


 ダメだ。慌てると今までの呼び方に戻ってしまう。


「一孝さん」


 目の前の髪の毛の向こうから声が聞こえる。


「おっ、美鳥起きたか? おはよう」


 一孝さんが呼んでいる。

 えっ、私一孝さんの背中にいるの。おんぶされてるの!


   なんで?


 私にも判らない。覚えてないの。


 ミッチやカンナと一孝さんとプールに行ったのは覚えている。流れるプール、波のあるプール、みんなで色々と楽しんでいたんだ。楽しかったな。

 それで、えぇーとウォータースライダーで流れ落ちていったのは覚えてる。いつも出ない叫び声をあげてしまった。そうだ一孝さんがビーチフラッグで一位になってカップチケットをもらえたんだ。それで…


「良かったよ。起きてくれて。いきなり目をつぶって動かなくなっだんだよ」


 一孝さんがいうには、ウォータースライダーの後、波あるプールで満足して、もう一度流れるプールに行くと言い出して、水に足をつけた途端、動きが止まってしまったんだって。

 一孝さんも慌て慌てたって言ってる。よく見たら寝息を立てて寝てたんだって。

  

 寝顔見られたの、はずかしいよよー。可愛いかったよって言ってくれた。


 もう、頬が、そして顔が熱いよお。溶けちゃう

 

「寝てるだけでなんともなかったから。ちなみにもうじき美鳥の家だからね」


 えぇー、そんなに寝こけてたの。いやぁー。


「えっ、もうこんなとこまで。あの後どうなりました。着替えは?帰りは?」


 私は彼の背中で身じろぎする。ワタワタ慌ててしまう。


「ちょっ、ちょっと、美鳥うごかない。危ないよ」


 一孝さんの私の足を抱えている腕に力が入る。それで意識が落ち着いていった。

 

「慌てない、大丈夫だよ。それより背中に柔らかいもの当たっているんだけど」


ふふっ


 一孝さんも慌てている。どう、私のは大きくなったかな。

 昔と比べて成長してる?

貴方のために大きくなってるんだよ。きゃつ。

以前は高校の階段を降りている時だった。そして再び、


「押し付けてるの! 私を感じて」


「美鳥、俺で遊ばない。俺もたまらないんだから」

 ああ、幸せ。

 でも、

 ああ、あれは自分の家だ。もうすぐで着いてしまう。


「美鳥、着いたよ」


 幸せな時間ってすぐ過ぎちゃうのよね。


家の玄関に誰か立っている。ママかな?


「おかえり。あんたプールで寝落ちしたんだって、ブフゥウ、小さい子供みたい」


 違いました。美華姉です。だって3人そっくりだと勘違いされるぐらいそっくりなんです。そんな彼女は大学に入って単身下宿しているんだけど、今日は帰省してる。それも彼氏付きで。


「ブッ」


 お返しに私も噴き出してあげます。


「何よ」


 お姉ちゃんが不機嫌そうに唇を尖らす。私は甘い声で、


「かずぅやぁ」


 って宣う。


「やっやめてよね」


 お姉ちゃんが慌て出す。焦り出す。

 私をおんぶしている一孝さんの背も小刻みに震えている。溢れる笑いを堪えるように。

 そう、お姉ちゃん、彼の前で猫被ってるの。これは秘密よ。だから,


「安心して、これで貸し借りなし。前はポーチありがとうございました。やっと言えたよ。お姉さん」


 美華姉の強張った顔が解れる。安堵した表情になって行く。

 そしてお姉ちゃんが玄関のドアを開けてくれた。私は彼に、一孝さんにおんぶされて、そのまま、玄関をくぐる。


「ただいま」



 楽しい一日は終わった。本当に色々あって楽しかったな。

でも、これからも,もっと楽しい日々が続くはず。


「美鳥、花火あるからね。夜、やろう」


 手持ち花火の袋詰めを持ってきた姉が教えてくれた。


 ねっ








美鳥:そういえば、寝落ちした後の着替えは?

  :ミッチとカンナがしてくれたよ。

美鳥:お恥ずかしい裸体晒したの!

  :ごっつぁんですって言ってたけど

美鳥:………


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