第83話 あぁ〜ぁ
どれくらい重ねていたのだろう。頭が痺れていてわかんないや。
薄暗いせいかわかるのは、一孝さんと唇の柔らかさ。胸のひろさと逞しさ。ぎゅって抱きしめてもらう安心感もあります。そのまましばらく彼に体を委ねていました。
幸せが全身をぐるぐる巡っているの。そのうちに息が苦しくて身じろぎしました。彼は気づいてくれて、唇を離してくれた。
「もう少しィ」
甘えてしまった。せつなくて、恋しくて、ただただひとつになりたかった。いやらしいとか猥りがましいなんてのは、意識から外れてしまう。彼が欲しいのは目も潤んでいくの事でわかるの。
一孝さんは再び唇を重ねると、そのまま私の唇をわってくるの。私もお返しと互いに相手の中を撫でていく。絡めていく。
あぁ、意識の奥から幸せが来るのがわかる、それに飛ばされて私は木の葉のように舞って落ちていく。ハラハラと落ちていって寄る辺がなくなるの。
怖い。
私は一孝さんにしがみついた。
「ごめん、強すぎたか?」
何か勘違いをしたの? 彼は口づけをやめて体を離してしまう。私は頼るものを無くして膝から崩れ落ちる。
「もう少しだったのに」
何がもう少しだったのかな。自分でもわからない、知らない感じ。初めての感じ。体の中にふわふわとしたもので満たされている。
「ほらっ」
ぼっとしていたのか、一孝さんが私の脇に手を入れて引っ張り上げてくれた。
「あん」
すると、ブラの中から甘い疼痛が登ってきた。インナーに擦れて硬くなってるのが嫌でもわかるの。なんか恥ずかしい。
思わず、手で口を塞いでしまう。吐息も熱いの。
そのうち自分の体から甘い香りも立ち上がってきたのがわかると、
「美鳥、俺、またぁ」
彼が又、私を抱きしめてきた。
「なんか、美鳥の香りを嗅いだら堪らなくて抱きしめたくなったよ」
「えっ。香り!」
なんか一気に頭が冴えてしまった。寄せてきた彼の唇を人差し指で止めて、彼の腕の中からするりと出でしまう。彼に背を向けて、片手をあげて臭いを嗅ぐの。
「一孝さん。私、シャワー浴びたい。汗とか掻いたし落としたいの」
振り返って彼に告げたんだけど、
「俺は、その香り好きだよ。甘くて、ドキドキする」
後ろから脇に腕を通さされて抱きついてきたの。一孝さんの声が耳から入って頭を痺れさせる。このままという思いも大きくなる。
だけど、
彼は私を強く抱きしめた。
でもだめっ、
丁度、手が胸を鷲掴みしてしまった。硬さが残っているところにされてしまってインナーと擦れて、
「痛い!」
叫んでしまった。抱きしめられていたけれど、体が伸び上がり、そしてしゃがみ込んでしまう。彼の手は私から外れてくれた。
私の目は感極まって涙が溜まっているところにお胸が痛くての涙が加わる。振り返り彼の顔を仰ぎ見るの。
多分、ウルウルとした目で彼を見詰めていることになっているはず、
「前に優しくしてねって言ったのにぃ」
その時の一孝さんの顔!
目を見開いて驚いている顔、
眉をはの字にして困惑している顔、
オドオドし出してキョロキョロしている顔、
目を瞑って口をへの字にして食いしばっている顔、
一瞬一瞬表情が変わって、なんか可愛い。
パァン
自分の頬を両手で叩く一孝さん。
ちょっと驚いたの。
「ごめん、自分勝手だった。謝るよ」
私に謝ってきた、一孝さん。
うん、潔い。いいよね。さすが一孝さんです。
「美鳥の言うとおりだ。頭を冷やしたいし、俺も汗臭かったね。シャワー浴びるよ」
ふふっ
「はい、美鳥」
「はい、一孝さん」
しゃがみ込んでいる私に一孝さんは手を差し伸べてくれた。手を繋ぎ立ち上がる。
入ってすぐの壁にパイロットランプの点灯したスリットがある。そこに部屋のカードと鍵を差し込むと廊下のライトがつけて、奥に歩いて行くとセミダブルのベットがある。ヘッドボードの近くのコントロールパネルを操作して部屋のを明るくしました。ベッドシーツとかカーペットとかをワインレッドをメインに色使いにしているから、大人って感じになってます。
「なんか、普通のシングルルームと違うね」
入り口近くにある、トイレ、パウダールームとバスルームの間取りとかを見て一孝さんが感心してる。
「美華姉、部屋選びが慣れてると言うか、すごいや」
「ですね。トイレがユニットバスかと思ってましたから」
持ってきたお泊まりセットとかのバックはライティングテーブルの上において、
「先に一孝さんがシャワーで良いですか?私はメイクを落とさないといけないので」
「美鳥が後でいいのなら、先にさせてもらうよ」
「どうぞ、お先に」
彼がパウダールームへ入っていく。バスルームはそこから入ります。
私はライティングテーブルに置いたバックから、メイク落としのセットとか替えの下着なんかを持って、つづいてパウダールームに入る。
型ガラスの向こう側に彼がいるのがわかる。微かに肌色のシルエットが見えるの。
ガラス越しのすぐ近くに彼がいる。ドキドキして頬が顔が体が熱くなります。でも、乙女の一日最後のお勤め果たします。
正面の鏡には、メイクしたライムがいる。お姉ちゃんと、つけまつ毛をしたりとした共同作品。アイラインとかで、いつもより目が大きく見えている。
私じゃないみたい。
今日一日ご苦労様でした。これから美鳥に戻ります。緑色のリボンを外し髪をおろしてヘアーターバンでまとめ、前髪をあげる。
手をしっかり洗って、水気をしっかり取ります。手間をかけたところから落としていかないといけません。つけ睫毛を取ってからポイントリムーブをコットンにつけて、アイメイクをしたところに、そっと乗せていく。それが少し浮き気味になったところでコットンで優しくメイクを拭っていくのです。
擦りすぎてはダメ。ママに教えてもらったやり方を反芻するものようにしていく。
次はクレンジング、私は肌に優しいミルククレンジングです。
手に乗せて温めてから額、鼻筋、顎と、俗にTゾーンそしてUゾーンのところにクレンジングを多めに乗せて、指先でクルクルとメイクオフ。
焦らずに落としていくの。落としたらぬるま湯で洗顔をしてサッパリ。擦らないようにフェイスタオルで水気を取ります。お肌のために擦らないのよね。ミルククレンジングは保湿成分も含まれているから、寝る前にしているウォーターケアはしなくて済みます。最後に鏡を見ます。そこには前髪をあげた美鳥がいます。私に戻りました。
美鳥に戻ったんでやってみたいことがあります。いそいそとはじめましょう。スカートを落とし、プルオーバーを脱ぐ。ブラを外して、ショーツを下ろしました。すっぽんぽんに自宅から持ってきたバスタオルを巻き付ける。
そしてバスルームのドアノブを回してドアを押して開けるの。そして、
「旦那様、お背中洗いましょうか?」
若妻ごっこのお風呂編ですね。
の、つもりだったんだけど、
掴もうとした手が空振りしました。ドアノブが遠のくの。ドアが開いて、一孝さんが顔を出す。
「「えっ」」
2人とも固まる。
「美鳥」
先に言葉が出たのは彼、
「俺、もう上がるな」
「はい」
「呼ばれなくても来たのは?」
「えぇ、一孝さんの背中を流そうかと」
「少し遅かったよ」
「みたいですね、残念です」
「じゃあ」
彼は先にバスルームから出ていく。すれ違いに私がバスルームに入っていく。ドアを閉めていく時に見えた、少し空いたパウダールームのドアの隙間から、
「ああああああ」
一孝さんの叫び声が聞こえてきた。
私も急ぎバスルームのドアを閉める。
「ああああああ」
全身を熱くして両手で自分自身を抱きしめ、その場でしゃがみ込んで私も叫んでしまった。
失態です。
メイクオフに時間をかけ過ぎました。
お風呂から上がったら、どんな顔をして一孝さんに会おう。
バスチェアに座り、シャワースペースにある鏡には、写るところの肌を真っ赤にして恥ずかしがる私が写っている。ヘアーターバンはすでに外してある。
いつまでも、バスルームに閉じ篭もるわけにもいかないので、
バスタオルを巻いているから全裸じゃないとか、
今から私の全部を見てもらうのでしょうとか言い訳を考えながら、
あったかいシャワーを浴びた。
シャワーをノブで止めて、トリートメント、シャンプーをして髪を洗っていく。残りの体もボディーソープを手に取ってアワアワにして塗っていき、洗い流していく。一通り洗い終えて、気を抜いた時だった。
下腹部から痛みが上がってくる。何かを握り絞られるような感触。
「痛い」
あまりの痛みに、私は目を瞑り、バスチェアを滑り落ちて膝まづいてしまう。腿の裏をすすっと音もなく何かが伝い落ちていく。
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